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197 最後まで笑顔ならそれが正解
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一太が差し出した葉書サイズの紙には『ハンバーガーを一緒に食べに行く券』と書かれている。松島が、無言で受け取った。
「…………」
注意書きは以下の通り。『支払いは村瀬一太がすること。上等な大きなバーガーのセットでも可。ナゲットも注文しても可』
一太なりに、精一杯の贅沢を書いてみた。どうだろうか。もらったエプロンの金額には届かないけれど、なんなら二回使ってもらって構わない。
「あ、あの……。変、かな……」
松島が何も言わないので不安になって、一太はおずおずと顔を上げる。
「あ」
松島が、チケットを手にようやく口を開いた。
「変じゃない。変じゃないよ! 嬉しい、すごく嬉しいです」
松島が、見開いていた目を細めて、にこりと笑ってくれた。一太はようやく、ほっと息を吐いた。
「変じゃない……。良かった……」
最終的に、どうしてもそこが気になってしまう。これはもう一太が、変だ、普通じゃない、と他人に言われ続けて育ったので仕方ない。普通の正解を探してしまう癖は、そう簡単には抜けないだろう。正解なんて、簡単には見つからないと分かっていても。松島は一太に、変だ、おかしい、なんて言わないと分かっていても。どこかおかしい、と欠片も思われたくなかった。
「僕が、ハンバーガーが好きだから、これにしてくれたの?」
「うん、そう……。あの、陽子さんにこっそり、晃くんの欲しいものを知っているか聞いてみたんだけど、陽子さんも知らないって言ってて」
「ああ、うん……。そんなに、どうしても欲しいものとか無くて。いつも、無いよって言っては怒られてた」
晃が、何かを欲しいと強くねだったことなんて無かった気がする、と陽子さんは言っていた。大学を決める時に初めて、家族が違う提案をしても譲らなかったそうだ。その時も、家族が強く反対した訳ではないから、一度言っても晃くんが引かなかった初めての出来事として驚いただけだったらしいけれど。
「うん……。それで陽子さんは、晃くんが買いたいものを見つけた時に買えるようにお金を渡してるって」
「うん、そう。お金をもらってるよ。それで、欲しい本があったら買ったり。後はハンバーガーとか……あっ」
松島は、自分の話の中に正解を見つけたようだった。
「ハンバーガー、買ってる」
「うん」
「すごい、いっちゃん」
「それも、陽子さんにちょっと聞いたんだけど……」
晃のお金の使い道といえば、と陽子が言っていたから思いつけたことだ。
冷めたハンバーガーを渡すより、一緒に行って出来たてを二人で食べたいな、と思った。
「二人で大好きなハンバーガーを食べに行ける券なんて、ものすごく嬉しいよ。上等なハンバーガーを一緒に食べようね」
二人での約束が増えて、一太にも嬉しい誕生日のプレゼント。一太も、少し上等なチーズ入りを買ってみようと思った。
そして、目の前のケーキはやっぱり別腹にも入らなくて、苺を一つづつだけ食べて冷蔵庫に片付けておくことになった。
ケーキは食べられなかったけれど、一太の手探りの誕生日パーティは、無事に最後まで松島を笑顔にすることができた。
成功しているってことで、いいだろうか……。
「…………」
注意書きは以下の通り。『支払いは村瀬一太がすること。上等な大きなバーガーのセットでも可。ナゲットも注文しても可』
一太なりに、精一杯の贅沢を書いてみた。どうだろうか。もらったエプロンの金額には届かないけれど、なんなら二回使ってもらって構わない。
「あ、あの……。変、かな……」
松島が何も言わないので不安になって、一太はおずおずと顔を上げる。
「あ」
松島が、チケットを手にようやく口を開いた。
「変じゃない。変じゃないよ! 嬉しい、すごく嬉しいです」
松島が、見開いていた目を細めて、にこりと笑ってくれた。一太はようやく、ほっと息を吐いた。
「変じゃない……。良かった……」
最終的に、どうしてもそこが気になってしまう。これはもう一太が、変だ、普通じゃない、と他人に言われ続けて育ったので仕方ない。普通の正解を探してしまう癖は、そう簡単には抜けないだろう。正解なんて、簡単には見つからないと分かっていても。松島は一太に、変だ、おかしい、なんて言わないと分かっていても。どこかおかしい、と欠片も思われたくなかった。
「僕が、ハンバーガーが好きだから、これにしてくれたの?」
「うん、そう……。あの、陽子さんにこっそり、晃くんの欲しいものを知っているか聞いてみたんだけど、陽子さんも知らないって言ってて」
「ああ、うん……。そんなに、どうしても欲しいものとか無くて。いつも、無いよって言っては怒られてた」
晃が、何かを欲しいと強くねだったことなんて無かった気がする、と陽子さんは言っていた。大学を決める時に初めて、家族が違う提案をしても譲らなかったそうだ。その時も、家族が強く反対した訳ではないから、一度言っても晃くんが引かなかった初めての出来事として驚いただけだったらしいけれど。
「うん……。それで陽子さんは、晃くんが買いたいものを見つけた時に買えるようにお金を渡してるって」
「うん、そう。お金をもらってるよ。それで、欲しい本があったら買ったり。後はハンバーガーとか……あっ」
松島は、自分の話の中に正解を見つけたようだった。
「ハンバーガー、買ってる」
「うん」
「すごい、いっちゃん」
「それも、陽子さんにちょっと聞いたんだけど……」
晃のお金の使い道といえば、と陽子が言っていたから思いつけたことだ。
冷めたハンバーガーを渡すより、一緒に行って出来たてを二人で食べたいな、と思った。
「二人で大好きなハンバーガーを食べに行ける券なんて、ものすごく嬉しいよ。上等なハンバーガーを一緒に食べようね」
二人での約束が増えて、一太にも嬉しい誕生日のプレゼント。一太も、少し上等なチーズ入りを買ってみようと思った。
そして、目の前のケーキはやっぱり別腹にも入らなくて、苺を一つづつだけ食べて冷蔵庫に片付けておくことになった。
ケーキは食べられなかったけれど、一太の手探りの誕生日パーティは、無事に最後まで松島を笑顔にすることができた。
成功しているってことで、いいだろうか……。
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