193 / 397
193 ◇人生で一番嬉しい誕生日
しおりを挟む
「え。ああ……ありがとう!」
松島は、一太の弾んだ声に迎えられて、笑いながら返事を返した。朝早くから、母と姉たちからの、お誕生日おめでとう! と書かれたお祝いメールがスマホに届いていたが、一太からは祝いの言葉を言われていなかったのだ。メールにも届いていなかった。
一太は松島の誕生日は知っているはずだし、晃くんには内緒で、と母に誕生日についての相談をしていたのを聞いてしまったので、朝からお祝いの言葉を言われるものだと思っていた松島は、肩すかしをくったようになってしまった。
誕生日おめでとう、と言われて、あー、はいはい、とおざなりな返事をしながらも、誕生日に祝いの言葉を貰うことがあまりにも当たり前になっていたのだと驚く。母と姉たちからメールが届いたことも、当たり前のように思っていた。高校の頃にアドレスを交換したことのある友人たちからも、日付けが変わったばかりの時間や朝にいくつか、誕生日おめでとう、とのメールが届いている。
けれど一太は、おはよう、と起きて、軽くいつも通りの家事をして仕事へ行ってしまった。
母に相談した後も、一太が一人で出かけることもなく、直接に何か相談もされていない。毎年恒例のように母から聞かれる、何か欲しいものはある? という言葉も、一太からは聞いていなかった。母からは、今年も懲りずにメールが届いていたが。そして、松島の今年の返事もいつも通り、特にない、であったのだけれども。
昼過ぎに帰ってきた一太からも何も無く、松島は、何だかモヤモヤした気持ちで仕事に行ったのであるが。
家に帰ったら、おかえり、の後の、誕生日おめでとう、である。
何だか気が抜けていた後だったので、驚いた。そして、じわじわと喜びが湧いてくる。そうか。いっちゃんは、知らなかったのかもしれない。日付けが変わってすぐに、誕生日おめでとうと言うのが流行ったことや、その日、朝からずっと、おめでとうと声をかけられて主役になれる日のことを。
だから、パーティの始まりに声を掛けてくれたのだ。
幼稚園の誕生日会が、おめでとう、と言って始まっていたから。
一太の分かる精一杯の誕生日パーティ。松島が、じんと感動しながら部屋に入ると、いい匂いの好物が机に並んでいた。
「いっちゃん……」
松島が更に感動して固まってしまうと、一太が不安そうにこちらを見ているのが目に入る。ああ。そうか。これが正解かどうか、いっちゃんには分からないから。だから。
「嬉しい。本当に嬉しいよ、いっちゃん。ありがとう!」
松島は一太の細い体を、ぎゅうぎゅうと抱きしめた。誕生日が、こんなに嬉しい日だなんて知らなかった、と思いながら。
松島は、一太の弾んだ声に迎えられて、笑いながら返事を返した。朝早くから、母と姉たちからの、お誕生日おめでとう! と書かれたお祝いメールがスマホに届いていたが、一太からは祝いの言葉を言われていなかったのだ。メールにも届いていなかった。
一太は松島の誕生日は知っているはずだし、晃くんには内緒で、と母に誕生日についての相談をしていたのを聞いてしまったので、朝からお祝いの言葉を言われるものだと思っていた松島は、肩すかしをくったようになってしまった。
誕生日おめでとう、と言われて、あー、はいはい、とおざなりな返事をしながらも、誕生日に祝いの言葉を貰うことがあまりにも当たり前になっていたのだと驚く。母と姉たちからメールが届いたことも、当たり前のように思っていた。高校の頃にアドレスを交換したことのある友人たちからも、日付けが変わったばかりの時間や朝にいくつか、誕生日おめでとう、とのメールが届いている。
けれど一太は、おはよう、と起きて、軽くいつも通りの家事をして仕事へ行ってしまった。
母に相談した後も、一太が一人で出かけることもなく、直接に何か相談もされていない。毎年恒例のように母から聞かれる、何か欲しいものはある? という言葉も、一太からは聞いていなかった。母からは、今年も懲りずにメールが届いていたが。そして、松島の今年の返事もいつも通り、特にない、であったのだけれども。
昼過ぎに帰ってきた一太からも何も無く、松島は、何だかモヤモヤした気持ちで仕事に行ったのであるが。
家に帰ったら、おかえり、の後の、誕生日おめでとう、である。
何だか気が抜けていた後だったので、驚いた。そして、じわじわと喜びが湧いてくる。そうか。いっちゃんは、知らなかったのかもしれない。日付けが変わってすぐに、誕生日おめでとうと言うのが流行ったことや、その日、朝からずっと、おめでとうと声をかけられて主役になれる日のことを。
だから、パーティの始まりに声を掛けてくれたのだ。
幼稚園の誕生日会が、おめでとう、と言って始まっていたから。
一太の分かる精一杯の誕生日パーティ。松島が、じんと感動しながら部屋に入ると、いい匂いの好物が机に並んでいた。
「いっちゃん……」
松島が更に感動して固まってしまうと、一太が不安そうにこちらを見ているのが目に入る。ああ。そうか。これが正解かどうか、いっちゃんには分からないから。だから。
「嬉しい。本当に嬉しいよ、いっちゃん。ありがとう!」
松島は一太の細い体を、ぎゅうぎゅうと抱きしめた。誕生日が、こんなに嬉しい日だなんて知らなかった、と思いながら。
応援ありがとうございます!
72
お気に入りに追加
1,489
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる