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179 ◇油断禁物
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からんからん、と鳴るファミリーレストランの扉をくぐると、一太がぎゅう、と手を握ってきた。そういえば、こうしてレストランに入るのは初めてかもしれない。
フードコートと焼肉屋さんには行ったが、後は学食と一太の手料理ばかり。たまに、仕事先のスーパーの惣菜の残りをもらったり、安く購入して帰ることもあるが、それも外食ではない。
しまったなあ、と松島は思う。
いっちゃんの作るご飯が美味しすぎて、家での二人の時間が好き過ぎて、あまり外出をしていなかった。一緒に住んでいるものだから、つい家での時間を堪能してしまう。もう少しデートもしよう。
「本当に、手を繋いでるんだー」
先に中に入っていた賀川が、振り返って声を掛けてくる。北村も、じっと松島たちの繋いだ手元を見ているのが分かった。
松島は、いっちゃんが気にするようなおかしな事を言うなよ、との念を込めて、黙ってそちらを見返した。一太は、戸惑った顔で松島を見上げているから、何を言われているのか分からなかったのだろう。手を振り払われなくて良かった。
夕食には少しだけ早い時間だったので、混んではおらず、すぐに案内の店員がやってくる。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「四人です」
「四名様ですね。ご案内致します。当店は、水はセルフサービスです。ドリンクバーにございますのでご利用ください。終日、全席禁煙となっております」
店員が定型の挨拶をした。いちいち、ふんふんと頷く一太が可愛い。きょろきょろしているのは、ドリンクバーを探しているのだろう。
子どもの頃から何度もファミリーレストランに来たことのある松島は、なんで毎回同じこと言うのかな、皆そんなこと分かってるよ、と思っていた。けれどこうして、どこかにいる初めての人のために必要なことなんだな、と急に丁寧な仕事ぶりを褒めたくなった。おかしなものだ。
案内された席でも、タッチパネルでの注文の仕方を一通り説明していく店員と、真剣に話を聞いている一太を見て、ほっこりしてしまう。家でのんびりしたかったが、これなら来て良かった。
メニューをじっくりと見始めた一太を見る。真剣だな。可愛い。多分、この店の看板メニューの、安いドリアを選ぶんだろうな。
「松島くん。ねえ、松島くんってば」
女の子の声にびっくりした。
「え、何?」
一緒に席についたことを、すっかり忘れていた。
「うちら決まったから、メニュー見る?」
「あ、ああ。ありがとう」
席に置いてあったメニューの冊子は二冊。松島が、メニューを全く見ていないことに気付かれてしまったらしい。
「あ、晃くんごめん。見にくかった?」
そんなことは無い。一太は、メニューを机に置いて広げてくれていたので、いくらでも覗けたのだ。松島が、一太の顔しか見ていなかっただけで。
「ううん。見てたよ。大丈夫」
やっぱり外食も、一太と二人か、せいぜい安倍と岸田と四人で来るかでないと、心が休まらない。
松島は、心の中で一つため息をついて、よそ行きの笑顔を顔に浮かべた。
フードコートと焼肉屋さんには行ったが、後は学食と一太の手料理ばかり。たまに、仕事先のスーパーの惣菜の残りをもらったり、安く購入して帰ることもあるが、それも外食ではない。
しまったなあ、と松島は思う。
いっちゃんの作るご飯が美味しすぎて、家での二人の時間が好き過ぎて、あまり外出をしていなかった。一緒に住んでいるものだから、つい家での時間を堪能してしまう。もう少しデートもしよう。
「本当に、手を繋いでるんだー」
先に中に入っていた賀川が、振り返って声を掛けてくる。北村も、じっと松島たちの繋いだ手元を見ているのが分かった。
松島は、いっちゃんが気にするようなおかしな事を言うなよ、との念を込めて、黙ってそちらを見返した。一太は、戸惑った顔で松島を見上げているから、何を言われているのか分からなかったのだろう。手を振り払われなくて良かった。
夕食には少しだけ早い時間だったので、混んではおらず、すぐに案内の店員がやってくる。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「四人です」
「四名様ですね。ご案内致します。当店は、水はセルフサービスです。ドリンクバーにございますのでご利用ください。終日、全席禁煙となっております」
店員が定型の挨拶をした。いちいち、ふんふんと頷く一太が可愛い。きょろきょろしているのは、ドリンクバーを探しているのだろう。
子どもの頃から何度もファミリーレストランに来たことのある松島は、なんで毎回同じこと言うのかな、皆そんなこと分かってるよ、と思っていた。けれどこうして、どこかにいる初めての人のために必要なことなんだな、と急に丁寧な仕事ぶりを褒めたくなった。おかしなものだ。
案内された席でも、タッチパネルでの注文の仕方を一通り説明していく店員と、真剣に話を聞いている一太を見て、ほっこりしてしまう。家でのんびりしたかったが、これなら来て良かった。
メニューをじっくりと見始めた一太を見る。真剣だな。可愛い。多分、この店の看板メニューの、安いドリアを選ぶんだろうな。
「松島くん。ねえ、松島くんってば」
女の子の声にびっくりした。
「え、何?」
一緒に席についたことを、すっかり忘れていた。
「うちら決まったから、メニュー見る?」
「あ、ああ。ありがとう」
席に置いてあったメニューの冊子は二冊。松島が、メニューを全く見ていないことに気付かれてしまったらしい。
「あ、晃くんごめん。見にくかった?」
そんなことは無い。一太は、メニューを机に置いて広げてくれていたので、いくらでも覗けたのだ。松島が、一太の顔しか見ていなかっただけで。
「ううん。見てたよ。大丈夫」
やっぱり外食も、一太と二人か、せいぜい安倍と岸田と四人で来るかでないと、心が休まらない。
松島は、心の中で一つため息をついて、よそ行きの笑顔を顔に浮かべた。
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