174 / 397
174 初めての行事
しおりを挟む
「ばら組さんとすみれ組さんのお誕生日さーん」
「はーい!」
元気に返事をした二人の子どもが、一太と松島が二人で紐を持って作った紐電車に乗り込む。
二人の子どもは満面の笑顔で、ホールに集まったみんなの周りを一周して、ステージの上の椅子に座った。一番大きい年長組の子どもたちだから、今朝、誕生日会の段取りを聞いた一太たちより余程よく流れを分かっていて、手を振りながら歩く余裕を見せていた。
「次はー、たんぽぽ組さんとゆり組さんのお誕生日さーん」
「はーい!」
また、紐電車をゆっくり走らせて、立ち上がった年中組の二人を乗せる。
「あれ?」
確か年中さんは三人じゃなかったっけ? 今朝読んだ誕生日会の段取りの中に人数が書かれていたのを思い出した一太が、年中担当の教諭の方を向く。教諭は腰を屈めながら近寄って来て、一人の女の子を立ち上がらせた。女の子は、恥ずかしそうにもじもじしている。
「りっかちゃんもお誕生日だよー。十二月二十四日がお誕生日です!」
「え? 僕と一緒だ」
教諭の言葉に、松島が思わずといった調子で声を上げる。
「あら。松島先生も今月お誕生日だったの? りっかちゃん、松島先生も一緒だって。ほら、良かったねえ」
教諭がすかさず笑顔で言う。松島は今、この子のクラスで実習しているので、関わりがある。りっかちゃんは、うつむいたままだったけれど、うん、と頷いて電車に乗り込んでくれた。
「出発しまーす」
一太は、大きな声で言って、またホールをぐるりと一周する。一周しながら、そうかあ、晃くん、誕生日もうすぐなんだ、と驚いていた。自分はプレゼントをもらって、誕生日はお祝いをするのだと聞いたのに、松島の誕生日がいつなのか、聞いてもいなかった。プレゼントを貰った時に、晃くんの誕生日はいつ? と聞かなくてはいけなかったのじゃないだろうか。誰にでも、誕生日はあるんだから。
失敗したなあ、と思いながらも、今は仕事中。集中しなくてはいけない。
思い出の中にも、誕生日会というものが存在していない一太には、ああ、懐かしい~、と言っていた松島や他の二人の実習生のように、何となくの流れすら分かっていないのだから。
更に小さい年少組の子どもを一人、壇上に上げて、一太と松島の任された特別な仕事はとりあえずお終いになった。脇に避けてほっとしていると、
「松島先生ー。お誕生日の席に上がってくださーい」
と、松島がマイクで呼ばれた。子どもたちが、にこにこと松島の方を向いて、松島は慌てて、はーい、と手を上げて返事をしながら壇上に上がっていく。
一太は、段取りになかったことをされて、びっくりして固まってしまった。呼ばれたのが自分でなくて良かった、と思いながら、子どもたちの横につく。じっと座っていられなくなって立ち上がろうとする年少の男の子を一人捕まえて、膝の上に乗せながら、椅子に座る子どもたちの横に正座した松島を見た。
松島が、笑顔を作りながらも緊張しているのが分かって、一太も何となくドキドキした。
「はーい!」
元気に返事をした二人の子どもが、一太と松島が二人で紐を持って作った紐電車に乗り込む。
二人の子どもは満面の笑顔で、ホールに集まったみんなの周りを一周して、ステージの上の椅子に座った。一番大きい年長組の子どもたちだから、今朝、誕生日会の段取りを聞いた一太たちより余程よく流れを分かっていて、手を振りながら歩く余裕を見せていた。
「次はー、たんぽぽ組さんとゆり組さんのお誕生日さーん」
「はーい!」
また、紐電車をゆっくり走らせて、立ち上がった年中組の二人を乗せる。
「あれ?」
確か年中さんは三人じゃなかったっけ? 今朝読んだ誕生日会の段取りの中に人数が書かれていたのを思い出した一太が、年中担当の教諭の方を向く。教諭は腰を屈めながら近寄って来て、一人の女の子を立ち上がらせた。女の子は、恥ずかしそうにもじもじしている。
「りっかちゃんもお誕生日だよー。十二月二十四日がお誕生日です!」
「え? 僕と一緒だ」
教諭の言葉に、松島が思わずといった調子で声を上げる。
「あら。松島先生も今月お誕生日だったの? りっかちゃん、松島先生も一緒だって。ほら、良かったねえ」
教諭がすかさず笑顔で言う。松島は今、この子のクラスで実習しているので、関わりがある。りっかちゃんは、うつむいたままだったけれど、うん、と頷いて電車に乗り込んでくれた。
「出発しまーす」
一太は、大きな声で言って、またホールをぐるりと一周する。一周しながら、そうかあ、晃くん、誕生日もうすぐなんだ、と驚いていた。自分はプレゼントをもらって、誕生日はお祝いをするのだと聞いたのに、松島の誕生日がいつなのか、聞いてもいなかった。プレゼントを貰った時に、晃くんの誕生日はいつ? と聞かなくてはいけなかったのじゃないだろうか。誰にでも、誕生日はあるんだから。
失敗したなあ、と思いながらも、今は仕事中。集中しなくてはいけない。
思い出の中にも、誕生日会というものが存在していない一太には、ああ、懐かしい~、と言っていた松島や他の二人の実習生のように、何となくの流れすら分かっていないのだから。
更に小さい年少組の子どもを一人、壇上に上げて、一太と松島の任された特別な仕事はとりあえずお終いになった。脇に避けてほっとしていると、
「松島先生ー。お誕生日の席に上がってくださーい」
と、松島がマイクで呼ばれた。子どもたちが、にこにこと松島の方を向いて、松島は慌てて、はーい、と手を上げて返事をしながら壇上に上がっていく。
一太は、段取りになかったことをされて、びっくりして固まってしまった。呼ばれたのが自分でなくて良かった、と思いながら、子どもたちの横につく。じっと座っていられなくなって立ち上がろうとする年少の男の子を一人捕まえて、膝の上に乗せながら、椅子に座る子どもたちの横に正座した松島を見た。
松島が、笑顔を作りながらも緊張しているのが分かって、一太も何となくドキドキした。
応援ありがとうございます!
81
お気に入りに追加
1,495
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる