【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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173 ただ、家での様子を話しただけ

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「あら。村瀬先生と松島先生、エプロンだけじゃなく、お弁当箱も一緒なのねえ」

 一太と松島の実習クラスが変更になってすぐに、そのクラスの担任の笠松教諭に言われた。同じ幼稚園に実習に来たが、ばらばらに配置されているので、実習中は別行動である。他にも、同じ大学から二人の実習生が来ていて、皆違うクラスを数日ずつ回っている。

「あ、はい」

 幼稚園実習はお弁当持参とのことで、松島と二人、慌てて弁当箱を買いに行った。もちろん、一太御用達の百円均一ショップである。思っていたよりたくさんの種類があって、迷ってしまうくらいだった。気に入った物が同じだったので、同じ弁当箱を買った。
 お箸と箸箱は、どちらのものか分かりやすいように、色違いにしてある。二色だと大抵、赤と青が売っていることが多いので、一太が赤で、松島が青だ。松島は、兄弟が姉2人なので、家で青い持ち物を準備されることが多かったらしい。自分の持ち物は青、とイメージが付いてしまっているそうだ。だから、そういう分け方になった。一太には、自分の色とかそういったものは無いので、赤で全然構わない。
 これがピンクなら、どうしても女性向けだという意識が働いてしまって嫌だったのかもしれないが、赤にはそんなイメージは無かった。最近、松島がチェックしていた戦隊もののリーダーも、皆、赤色の男の人だったし。
 松島と暮らし始めてから、歯ブラシやコップや茶碗など、一太のために買い足したものに赤い模様が入っていることが多かったから、赤が自分の色になってきているのかもしれないなあ、と一太は思う。誰かと持ち物を見分ける必要がある日が来るなんて、思ってもみなかった。少し、いやかなり嬉しい。今なら、好きな色も好きな食べ物も好きな人も、そういった、好きな○○は何?といった質問に、すぐに答えられる気がする。
 詰めてあるおかずも、もちろん全く一緒だ。松島の方が沢山食べるので、おかずがぎゅうぎゅう詰めにしてあるだけ。おにぎりも、一回り大きく作る。作った後、分かるように色違いのお箸を蓋の上に置いて、同じく色違いのクーラーバックに詰めれば完成だ。

「毎日、しっかりしたお弁当ね。村瀬先生が作ってるんだって?」
「あ、はい」
「偉いねえ。松島先生が、すごく美味しいんですってにこにこ食べてたけど、朝から大変でしょ? お弁当作るの」
「いえ。晃くん、あ、松島先生が喜んでくれるから、作りがいがあります」
「仲良しねえ。でも、一緒に暮らしてるんなら、家事を、一人で全部引き受けたりとかしたら駄目よ」

 松島の母の陽子もよく、晃はちゃんと家事をやっているか、と聞いてくる。安倍くんや岸田さんも言っていたな。何でもかんでも村瀬がやってそう、って。そんなの駄目だぞって。
 晃くん、そんなに家事が苦手なイメージなんだろうか、と一太はいつも不思議でたまらない。料理こそ苦手だが、他のことは何でもしてくれるのに。

「いえ。帰ったらお弁当箱を二つとも洗ってくれるし、俺が料理してる間に洗濯や掃除をしてくれるので、助かってます」

 一太が笑顔で答えると、笠松教諭は目をぱちくりとさせた。

「な、なんだか、新婚夫婦の惚気のろけを聞いた気分になっちゃった。あはは」

 えええ?
 一太は、何となく恥ずかしくなって、真っ赤になってしまった。
 事実を言っただけなのに、何でこんなに恥ずかしくなるんだろう。
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