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156 人気の、混むやつ
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「うわあ」
開園時間、と書いてある時間の三十分前に門が開いて、早くから待っていた人々とともに、一太たちは遊園地の中に流れ込んだ。門の前ですでに感嘆の声が止まらなかった一太は、中に入ってもう、口をぽっかり開けて、うわあ、としか言えなくなっていた。
「おい、早く行くぞ。人気の混むやつ、片っ端から乗るんだからな」
「あ、うん」
安倍に声をかけられて、一太は慌てて前を見た。岸田と手を繋いで、迷いなく歩く安倍はかなり速い。一太と同じでとても楽しみにしていたらしく、ガイドブックを買って熟読してきたそうだ。隣の松島と当たり前のように手を繋いだ一太は、入り口でもらったマップを開く間もなく安倍と岸田の背を追いかけていった。
人気の混むやつ。どんなものなのだろう。
遊園地のことなど全く分からない一太は、どきどきする胸を押さえて付いていく。
「ねえ、僕は乗らなくていいよ」
急いで後を追いかけながら、松島が声を上げた。
「馬鹿言え。もう病気は治って、医者のオーケーが出てるんだろ? 乗らない手があるか。ここは乗っとかなきゃ駄目だろ」
「松島くん。私、だいぶ叫ぶと思う。一緒に叫んじゃお」
叫ぶ? と一太が思った時に、頭上でごおお、と電車の通るような音がした。きゃあ、とたくさんの悲鳴も聞こえて、びっくりと見上げる。
ものすごいスピードで、小さな電車のような乗り物が通り過ぎて行った。高い位置にあるレールの上を走る乗り物は、ものすごく速いだけでなく、途中で一回転している箇所もある。
え? あれ、落ちないの? え? 皆、悲鳴を上げてるけど大丈夫なの?
一太が呆然としている間に、安倍は行列の後ろについた。行列は大した長さではなく、あっという間に前に進んで、座席に着くことになる。その間も、ごおお、と走る乗り物と、きゃあという悲鳴が何度か頭上や横を通り過ぎていった。
体を締めつける安全バーが下ろされて、一太はただただ身を固くする。隣の松島も、すっかり無言だ。
「やっほー。楽しみだー」
「うう。私、久しぶり。怖くなってきた」
「絶対、大丈夫なように作ってあるから、大丈夫だって」
「それでも、怖いものは怖いの!」
前の席の安倍と岸田は、喋る余裕があるらしい。一太は、ちらりと青い顔の松島を見た。
「いっちゃん。僕も初めてで」
「うん」
「うう……」
がこん、と乗り物が動き出す。
「ひえっ」
「それでは皆さま、行ってらっしゃーい!」
松島の小さな悲鳴に被さるように、スタッフのお姉さんの明るい声が聞こえた。
がこんがこんがこん、とゆっくり乗り物は、上に上がっていく。こんなゆっくりも動けるのか、と一太は周りを見渡した。手は、しっかりと安全バーを掴んでいる。
こんな角度になった事は生まれてこの方一度もない、という角度で乗り物は上がっていった。真っ直ぐ前を見たら、青い空があって。てっぺんでは、広い遊園地の全体が見渡せた。あちこちで、様々な形の乗り物が動いていて、外国のお城のような建物が見える。
うわ、気持ちいい。
てっぺんの景色は、絶景だった。
けれど、ほんの一瞬後には……。
「きぃゃあああああ!」
「ううわあああああ!」
「気ぃ持ち良いー!」
すぐに下向きに落ち始めた乗り物の上で、岸田と松島の悲鳴が響き渡る。安倍はご機嫌な声を上げて、両手まで万歳と上げてしまった。
「ひぃ」
一太は、喉の奥で引き攣った音を出した後、ぎゅうと目をつぶる。怖い怖い怖い。
体が右へ左へ振れて当たって少し痛い。
松島と岸田の途切れない悲鳴を聞きながら、安全バーを握りしめて、てっぺんだけ気持ち良かった……と考えていた。
開園時間、と書いてある時間の三十分前に門が開いて、早くから待っていた人々とともに、一太たちは遊園地の中に流れ込んだ。門の前ですでに感嘆の声が止まらなかった一太は、中に入ってもう、口をぽっかり開けて、うわあ、としか言えなくなっていた。
「おい、早く行くぞ。人気の混むやつ、片っ端から乗るんだからな」
「あ、うん」
安倍に声をかけられて、一太は慌てて前を見た。岸田と手を繋いで、迷いなく歩く安倍はかなり速い。一太と同じでとても楽しみにしていたらしく、ガイドブックを買って熟読してきたそうだ。隣の松島と当たり前のように手を繋いだ一太は、入り口でもらったマップを開く間もなく安倍と岸田の背を追いかけていった。
人気の混むやつ。どんなものなのだろう。
遊園地のことなど全く分からない一太は、どきどきする胸を押さえて付いていく。
「ねえ、僕は乗らなくていいよ」
急いで後を追いかけながら、松島が声を上げた。
「馬鹿言え。もう病気は治って、医者のオーケーが出てるんだろ? 乗らない手があるか。ここは乗っとかなきゃ駄目だろ」
「松島くん。私、だいぶ叫ぶと思う。一緒に叫んじゃお」
叫ぶ? と一太が思った時に、頭上でごおお、と電車の通るような音がした。きゃあ、とたくさんの悲鳴も聞こえて、びっくりと見上げる。
ものすごいスピードで、小さな電車のような乗り物が通り過ぎて行った。高い位置にあるレールの上を走る乗り物は、ものすごく速いだけでなく、途中で一回転している箇所もある。
え? あれ、落ちないの? え? 皆、悲鳴を上げてるけど大丈夫なの?
一太が呆然としている間に、安倍は行列の後ろについた。行列は大した長さではなく、あっという間に前に進んで、座席に着くことになる。その間も、ごおお、と走る乗り物と、きゃあという悲鳴が何度か頭上や横を通り過ぎていった。
体を締めつける安全バーが下ろされて、一太はただただ身を固くする。隣の松島も、すっかり無言だ。
「やっほー。楽しみだー」
「うう。私、久しぶり。怖くなってきた」
「絶対、大丈夫なように作ってあるから、大丈夫だって」
「それでも、怖いものは怖いの!」
前の席の安倍と岸田は、喋る余裕があるらしい。一太は、ちらりと青い顔の松島を見た。
「いっちゃん。僕も初めてで」
「うん」
「うう……」
がこん、と乗り物が動き出す。
「ひえっ」
「それでは皆さま、行ってらっしゃーい!」
松島の小さな悲鳴に被さるように、スタッフのお姉さんの明るい声が聞こえた。
がこんがこんがこん、とゆっくり乗り物は、上に上がっていく。こんなゆっくりも動けるのか、と一太は周りを見渡した。手は、しっかりと安全バーを掴んでいる。
こんな角度になった事は生まれてこの方一度もない、という角度で乗り物は上がっていった。真っ直ぐ前を見たら、青い空があって。てっぺんでは、広い遊園地の全体が見渡せた。あちこちで、様々な形の乗り物が動いていて、外国のお城のような建物が見える。
うわ、気持ちいい。
てっぺんの景色は、絶景だった。
けれど、ほんの一瞬後には……。
「きぃゃあああああ!」
「ううわあああああ!」
「気ぃ持ち良いー!」
すぐに下向きに落ち始めた乗り物の上で、岸田と松島の悲鳴が響き渡る。安倍はご機嫌な声を上げて、両手まで万歳と上げてしまった。
「ひぃ」
一太は、喉の奥で引き攣った音を出した後、ぎゅうと目をつぶる。怖い怖い怖い。
体が右へ左へ振れて当たって少し痛い。
松島と岸田の途切れない悲鳴を聞きながら、安全バーを握りしめて、てっぺんだけ気持ち良かった……と考えていた。
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