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153 一緒……?

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「はあ」

 八木教授の部屋を四人で退室すると、岸田が大きく息を吐いた。伊東と渡辺は八木教授に、もう少しお話があります、と言われてまだ室内である。

「大丈夫?」
「あ、うん。ほっとしちゃって」
「ああ」

 入学の時に、全員が大学の指定する保険に入ることになっていて、代金を払っていたらしい。学内での出来事であったので、ガラスの修理費用も、岸田の怪我の治療費もすべてそちらで賄うことができると八木教授が言った一言に、一太も心の底から安堵した。

「良かったね」
「うん、ほんと良かった」

 それでも、しばらくは思うように左手が使えない不便さが続く。災難なことだった。

「何だか、ごめんね」
「ううん。松島くんこそ関係なかったじゃん」

 確かに、そうだ。松島のことを好ましいと思っている子がいて、松島のいないところで動いて松島に近づこうとしたり、気に入ってもらおうと画策したことで岸田が怪我をしたのだとして、松島が謝るのは違う気がする。

「それでも、さ。僕、今までそういうの、どうでもいいと思ってたから」
「え? 何?」
「そのことで誰かに迷惑がかかったり、何か事件があっても、どうでも良かった」
「そういうものじゃない? だって、勝手に好かれて勝手にやきもちやかれても、ねえ?」

 全くあずかり知らぬところで名前が出ていただけ。

「そうなんだけど、うん。その、友達の大事な人が怪我をしたとか、僕の大事な人が、巻き込まれて課題を書くのに苦労したと思うと、申し訳ないやら腹が立つやら」
「そっか……、うん。私も、皆をこんなことに巻き込んじゃってごめん。安倍くんもさ、ありがとね」
「俺は、当たり前だろ」
「ん……、そう、かな?」
「そうだろ。今日も夜、行くから」

 ふふ、と岸田が笑った。

「いいよう、そんなの。バイトも大変なのに」
「バイトの後になるけど、行くから。できないことを無理にすんな。置いとけよ」
「できるよ」
「いいから」

 仲良しだな。これが付き合ってるカップルってやつか、と一太は思った。本で読んだことはある。好き同士が付き合って、色んな楽しい経験を重ねていく物語は、古文でも習う。ずっと昔から、人は同じ営みを繰り返しているんだなあ。
 何だか岸田さんが可愛くて、見ているとにこにこしてしまう。

「いっちゃん。どうしたの」
「ふふ。好き同士っていいね」
「ああ、うん。そうだね」
「俺、何かそういうの、物語の中のお話みたいに思ってたから、本当に皆、好きな人と付き合って助け合ってってするんだなあって、不思議な気持ち」
「そう?」
「うん」
「僕たちも、好き同士で助け合ってるから、一緒じゃない?」
「え?」

 松島は、にこにこと笑って一太を見ていた。

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