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152 ◇大きく動く気持ち
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「え、や、な、何?」
「や、やだ、松島くん。何言ってるの? 私たち別に、そんな、松島くんのことを言ってたんじゃないのよ」
「そ、そうそう。早織が彼氏できたーって言うから、彼氏の友達を紹介してくれたら、皆で遊びやすいかなと思っただけで」
早口で紡がれる言葉に、松島は呆れた。松島くんと一緒にご飯を食べるのが許せない、とか、本当は松島くん狙いなんでしょう、と言って岸田を責めていたことは、一太から聞いている。
「わ、私。彼氏できたーなんて、言ってない……」
「ええ? だって、できてるじゃん」
「安倍くんと付き合ってるの? って二人が聞くから、そうだよって言っただけ」
「それが、彼氏できたーってことじゃん。何? もう、そういう細かいとこあるよね、早織」
「細かくない。全然違う。そうやって、私の言ったことを捻じ曲げられるの、困る」
「さ、早織だって捻じ曲げてるじゃん。彼氏の友達を紹介してって言ったのに、松島くんのことを言ったみたいにさあ」
「言ってた」
一太が口を挟んだ。ずっと真剣な顔で全員のやり取りを聞いていたのは、自分の出番があれば必ず口を挟もうと決意していたのに違いない。
何事にも真面目な一太らしい、と松島は目元を緩ませた。
「な、何? 村瀬くん」
「言ってたよ。松島くんと一緒にご飯食べたいって」
「…………」
「岸田さんは、何にも捻じ曲げてない」
「何それ。私たちだって捻じ曲げてないし」
「僕のことでないなら、良かった。じゃあ、僕は関係なかったんだね。ごめん。もうお互い、変な勘違いをしないように、なるべく声をかけたりとかするのは控えるように気をつけるよ」
松島は、良い笑顔で言い切った。
告白される前に振るような形になってしまったが、自意識過剰だとも、相手に申し訳ないとも思わなかった。
誰かを、こんなに遠ざけたいと思ったのは初めてだ。苦手な人や、相性の悪い人というのはどうしてもいるとしても、そこまで深く関わり合うこともないと思えば、どうということはなかった。
特別に好きな人ができた途端に、心の中で、家族以外は皆、同じ距離にいた周りの人間が、色んな距離に配置されて戸惑っている。好きな人のことを大事にしてくれる人とは気が合うし、近くに居ても嫌じゃない。その気が合う人を害されたら、腹が立って、害した奴らとは距離をおきたくなる。
周りの諍いを見る度に、こんなのは面倒くさい、自分は振り回されなくて済んで良かった、とすら思っていた。感情が昂ったら心臓に良くない、と穏やかに諦めながら生きてきた名残り。悪くなかった。面倒くさいこともなく、色んな感情に振り回されることも無く。
でも、特別に好きな人ができて霧散した。
今、面倒くさいどころか、もう二度と近寄らせないように釘を刺しておこうと、酷く攻撃的な自分がいる。
呆然と固まる伊東と渡辺を見ながら、松島は満足の息を吐いた。
「や、やだ、松島くん。何言ってるの? 私たち別に、そんな、松島くんのことを言ってたんじゃないのよ」
「そ、そうそう。早織が彼氏できたーって言うから、彼氏の友達を紹介してくれたら、皆で遊びやすいかなと思っただけで」
早口で紡がれる言葉に、松島は呆れた。松島くんと一緒にご飯を食べるのが許せない、とか、本当は松島くん狙いなんでしょう、と言って岸田を責めていたことは、一太から聞いている。
「わ、私。彼氏できたーなんて、言ってない……」
「ええ? だって、できてるじゃん」
「安倍くんと付き合ってるの? って二人が聞くから、そうだよって言っただけ」
「それが、彼氏できたーってことじゃん。何? もう、そういう細かいとこあるよね、早織」
「細かくない。全然違う。そうやって、私の言ったことを捻じ曲げられるの、困る」
「さ、早織だって捻じ曲げてるじゃん。彼氏の友達を紹介してって言ったのに、松島くんのことを言ったみたいにさあ」
「言ってた」
一太が口を挟んだ。ずっと真剣な顔で全員のやり取りを聞いていたのは、自分の出番があれば必ず口を挟もうと決意していたのに違いない。
何事にも真面目な一太らしい、と松島は目元を緩ませた。
「な、何? 村瀬くん」
「言ってたよ。松島くんと一緒にご飯食べたいって」
「…………」
「岸田さんは、何にも捻じ曲げてない」
「何それ。私たちだって捻じ曲げてないし」
「僕のことでないなら、良かった。じゃあ、僕は関係なかったんだね。ごめん。もうお互い、変な勘違いをしないように、なるべく声をかけたりとかするのは控えるように気をつけるよ」
松島は、良い笑顔で言い切った。
告白される前に振るような形になってしまったが、自意識過剰だとも、相手に申し訳ないとも思わなかった。
誰かを、こんなに遠ざけたいと思ったのは初めてだ。苦手な人や、相性の悪い人というのはどうしてもいるとしても、そこまで深く関わり合うこともないと思えば、どうということはなかった。
特別に好きな人ができた途端に、心の中で、家族以外は皆、同じ距離にいた周りの人間が、色んな距離に配置されて戸惑っている。好きな人のことを大事にしてくれる人とは気が合うし、近くに居ても嫌じゃない。その気が合う人を害されたら、腹が立って、害した奴らとは距離をおきたくなる。
周りの諍いを見る度に、こんなのは面倒くさい、自分は振り回されなくて済んで良かった、とすら思っていた。感情が昂ったら心臓に良くない、と穏やかに諦めながら生きてきた名残り。悪くなかった。面倒くさいこともなく、色んな感情に振り回されることも無く。
でも、特別に好きな人ができて霧散した。
今、面倒くさいどころか、もう二度と近寄らせないように釘を刺しておこうと、酷く攻撃的な自分がいる。
呆然と固まる伊東と渡辺を見ながら、松島は満足の息を吐いた。
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