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143 パソコン室の大事件
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「早織さあ。安倍くんと付き合ってるとか言って、毎日松島くんとも一緒にお昼ご飯食べてるの、おかしくない?」
パソコン室はいつも貸し切り。一太が、今日も一人で課題の仕上げ作業をしていると、急に扉が開いて驚いた。天気が良く、まだ室内が明るかったから、電気もつけずに作業していたので無人だと思われたらしい。入室してきた人物は、奥の方のパソコン前にいる一太に気付くことなく、部屋の扉を閉めるとそのまま、話し始めた。
「へ?」
という返事は、岸田さんの声だ。最近は毎日一緒にいるから分かる。早織と呼んでいたし、間違いないだろう。
「なんでわざわざ四人席に座るの? うちらも一緒に座れるように、誘ってくれればいいじゃない。友達でしょ」
最初に聞こえた声と違う声もした。どうにも不穏な空気に一太は顔を出せなくなってしまい、パソコン前に縮こまる。
「ああ。松島くんと村瀬くん、あまり大勢で食べるの苦手みたいで。私と安倍くんも昼は一緒に食べたいし、二人席って無いから四人席に座ってるだけよ。二人ずつ座っているんだと思ってもらえれば」
「はあ? 何それ。松島くんがそう言ったの?」
「この間、長机で食べた時に、四人席が落ち着くねって」
「私たちが邪魔だったってこと?」
「邪魔って……。そんなことは言ってないでしょ。四人席が落ち着くって言ったの」
「つまり邪魔だったのよね?」
そんなこと言ってないよ。優しい晃くんが、そんなこと言うわけが無い。ただ、ご飯は好きな人とのんびり食べたい、っていう気持ちは分かる。あまりよく知らない人に話しかけられながらだと、返事をきちんとしなければと気になって味わえない。
ご飯を食べられるだけで嬉しいことなのだから、こんなことを言ってはバチが当たるかもしれないが、どうせ食べるなら美味しく食べたい。
そう考えたら、一太たちが食堂で、好きな人同士四人で座るのは、何もおかしなことでは無いと思うのだ。
「邪魔なんて言ってないけど? 私は松島くんじゃないんだから、本音なんて分かるわけない。直接、聞いてきたらいいでしょ」
「何それ、ムカつく。だいたい何で松島くん、村瀬くんとずっと一緒にいるの? え、もしかしてあの二人が付き合ってるの?」
「何それ、キモい。村瀬くんが付き纏ってるんじゃない?」
キモい?
「キモいって何? 仲が良いのの何が悪いの?」
「仲が良すぎるとキモいじゃん。だって男同士だよ」
「何言ってるか分かんない。そんなくだらない話なら、もう離して」
「はあ? ちょっと待ちなさいよ。自分だけ彼氏できたからって、マウント? 彼氏の友達を紹介してって言ってるだけしょ」
「やめて。離して」
がしゃん、と大きな音がした。
「きゃあ」
「うわ。私、知らない。早織が勝手に」
「いっ、痛……」
ばたばたと足音が遠ざかる。
一太は、隠れていたことも忘れて飛び出した。
扉のガラスが割れて、岸田が左手を抑えて蹲っている。手の甲が深く切れて血が流れていた。
「き、岸田さん」
「村瀬くん……?」
「教授、呼んでくる」
「あ、待って、でも……」
「動かないで!」
隠れてちゃ駄目だった、と一太は後悔した。自分のことも言われていたようだし、すぐに顔を見せて、岸田さんの援護をすべきだったのだ。
頭に流れてくる情報が多くて混乱しながら、一太はとにかく助けを呼びに走った。
パソコン室はいつも貸し切り。一太が、今日も一人で課題の仕上げ作業をしていると、急に扉が開いて驚いた。天気が良く、まだ室内が明るかったから、電気もつけずに作業していたので無人だと思われたらしい。入室してきた人物は、奥の方のパソコン前にいる一太に気付くことなく、部屋の扉を閉めるとそのまま、話し始めた。
「へ?」
という返事は、岸田さんの声だ。最近は毎日一緒にいるから分かる。早織と呼んでいたし、間違いないだろう。
「なんでわざわざ四人席に座るの? うちらも一緒に座れるように、誘ってくれればいいじゃない。友達でしょ」
最初に聞こえた声と違う声もした。どうにも不穏な空気に一太は顔を出せなくなってしまい、パソコン前に縮こまる。
「ああ。松島くんと村瀬くん、あまり大勢で食べるの苦手みたいで。私と安倍くんも昼は一緒に食べたいし、二人席って無いから四人席に座ってるだけよ。二人ずつ座っているんだと思ってもらえれば」
「はあ? 何それ。松島くんがそう言ったの?」
「この間、長机で食べた時に、四人席が落ち着くねって」
「私たちが邪魔だったってこと?」
「邪魔って……。そんなことは言ってないでしょ。四人席が落ち着くって言ったの」
「つまり邪魔だったのよね?」
そんなこと言ってないよ。優しい晃くんが、そんなこと言うわけが無い。ただ、ご飯は好きな人とのんびり食べたい、っていう気持ちは分かる。あまりよく知らない人に話しかけられながらだと、返事をきちんとしなければと気になって味わえない。
ご飯を食べられるだけで嬉しいことなのだから、こんなことを言ってはバチが当たるかもしれないが、どうせ食べるなら美味しく食べたい。
そう考えたら、一太たちが食堂で、好きな人同士四人で座るのは、何もおかしなことでは無いと思うのだ。
「邪魔なんて言ってないけど? 私は松島くんじゃないんだから、本音なんて分かるわけない。直接、聞いてきたらいいでしょ」
「何それ、ムカつく。だいたい何で松島くん、村瀬くんとずっと一緒にいるの? え、もしかしてあの二人が付き合ってるの?」
「何それ、キモい。村瀬くんが付き纏ってるんじゃない?」
キモい?
「キモいって何? 仲が良いのの何が悪いの?」
「仲が良すぎるとキモいじゃん。だって男同士だよ」
「何言ってるか分かんない。そんなくだらない話なら、もう離して」
「はあ? ちょっと待ちなさいよ。自分だけ彼氏できたからって、マウント? 彼氏の友達を紹介してって言ってるだけしょ」
「やめて。離して」
がしゃん、と大きな音がした。
「きゃあ」
「うわ。私、知らない。早織が勝手に」
「いっ、痛……」
ばたばたと足音が遠ざかる。
一太は、隠れていたことも忘れて飛び出した。
扉のガラスが割れて、岸田が左手を抑えて蹲っている。手の甲が深く切れて血が流れていた。
「き、岸田さん」
「村瀬くん……?」
「教授、呼んでくる」
「あ、待って、でも……」
「動かないで!」
隠れてちゃ駄目だった、と一太は後悔した。自分のことも言われていたようだし、すぐに顔を見せて、岸田さんの援護をすべきだったのだ。
頭に流れてくる情報が多くて混乱しながら、一太はとにかく助けを呼びに走った。
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