【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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141 今日は唐揚げ定食を注文した

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「私たちも一緒に食べていい?」

 夏休み明けから、四人で食堂に行くことが多くなっていた一太たちに、声が掛かった。その日は、四人がけの席が空いていなくて、大勢で座れる長テーブルに四人で固まって腰掛けたところだったのだ。
 いつも通り、松島と一太が並んで座り、向かいの席に安倍と岸田が並んで座っていた。声を掛けてきたのは、伊東真依と渡辺小春だ。夏休み前、共にエプロンを買いに行ったので、一太も話したことのある数少ない同級生だった。

「空いてるし、どうぞ」

 岸田が、にこっと笑って言った。四人で座った横の席は空いているし、誰かが場所取りをしている様子もない。周りに人は集まって来ていたが、混んでいるから皆も空いている場所を探しているのだろう、と一太は思った。
 ざわっと周りがザワついた後で、集まっていた人が少しずつバラけていった。

「村瀬くん、あっちに座ってくれない?」

 松島の横の席に渡辺がトレイを置いたのを見て、伊東が、向かいの席の安倍の隣を指差す。

「へ? なんで?」

 一太は、すでに食べ物を机に置いて、席に着いているのだ。今から座る人が、空いている席で食べるのが普通なんじゃないだろうか?

「なんでって、松島くんの横で食べたいから」

 どこか不貞腐れたように返事をされて、一太はますます首を傾げる。

「あの。俺もあきらくんの横で食べたいけど......」

 だって、日替わり定食のおかずをひと口ずつ味見したいし、今日は一太は、豪華な唐揚げ定食を初めて注文したので、松島に唐揚げを一つあげたい。デザートも、もちろん半分こするつもりで買っているから、横にいないと分けにくいではないか。

「僕も、いっちゃんの横で食べたいな」

 松島にも言われて、伊東は不貞腐れたまま安倍の横に移動した。そのまま、松島の隣に腰掛けた渡辺のことを睨んでいる。渡辺は知らん顔だ。安倍が居心地悪そうに首をすくめるのが見えて、一太は本当に訳が分からなかった。

「ねえねえ。早織って、安倍くんと付き合ってるんだよね」
「あ、うん。そうだよ」
「ええー、いつから? エプロンを皆で買いに行った時から、怪しいと思ってたんだよねえ」
「あの時は付き合ってないよ」
「その後?」
「あ、うん。そう」
「そうなんだあ。いいなあ、羨ましい」

 機嫌の良い渡辺が、岸田にあれやこれやと話しかける。岸田は、あまり突っ込んだ話をする気はないようで、端的に返事を返していた。渡辺は、短い返事を気にした様子もない。もの凄く聞きたい話という訳ではないのだろうな、とその会話を聞いた一太は思った。思いながら、松島に差し出される日替わり定食のおかずに、口を開ける。

「うまっ」
「いっちゃん、好きだと思った」
「うん、好き」

 甘酸っぱい味がかなり好みだと、最近知った。一太も最近知ったのに、松島はもう知っているのがすごい。魚を揚げて、野菜たっぷりの甘酢あんをかけた今日の定食はかなり好み。

「今度、作る」
「楽しみにしてる」

 二人でいつも通り食事を進めていると、向かいの席で伊東がぽかんと口を開けているのが見えた。

「ね、松島くんは? 今、付き合ってる人とかいる?」

 松島の隣から、渡辺の機嫌の良い声が上がった。
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