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125 話し合い
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すでに座っていた望と椛田と、机を挟んで向かい合わせの席に一太と松島、松島の父が着いた。若い警察官は望の後ろに立ったまま、空いた席に笹井が座る。
「先日の話し合いに参加していたという相談員にも連絡はしたのですが、忙しいとのことでお越し頂けませんでした」
「なるほど。先日も、そちらの椛田さんに頼まれて場所を貸しただけだと仰っていたので、仕方ありませんね」
「昨日、話を聞いたところでは、椛田さんは職務の範囲外での行動であったらしく、松島さん宅への侵入が、相談員として子どものために取った行動との規定に当てはまりません。純粋に、他人の住居への不法侵入という事になります」
「そ、そんな! 僕は、村瀬くんを助けようとして⋯⋯」
笹井と松島の父が冷静に話し始めたところへ、椛田が慌てて口を挟んだ。
「ええ、それはお聞きしました。しかしそれを、侵入された側の人間がどう受け止めるかという問題になると思います。村瀬さん、松島さん、如何ですか?」
「僕は、不法に侵入されたと怒りを覚えています。結局、その方は、すぐ近くにいたのに村瀬くんを助けられていません。村瀬くんは二発も殴られています。目の前にいたのなら、暴行が始まった時点ですぐに、彼を止めるために押さえたり、通報したり、隣の部屋の人に助けを求めたりしてほしかった」
松島が、低い声で言った。いつも優しい松島の、そんな声を聞いたのは初めてだったので、一太は驚いて隣に座る松島を見上げる。
「や、し、しかし、あんな目の前で暴力行為なんて見たら、恐ろしくて、動けな⋯⋯」
「そう言われる方は多いですね。目の前の暴行に、咄嗟に対応できる方は少ない」
笹井の言葉に、椛田がほっとした顔を見せる。そんな椛田の顔を見ながら、松島の父が口を開いた。
「彼が暴力をふるうから会いたくない、と一太くんは先日の話し合いで椛田さんに伝えていました。それで彼は、引き取り手無しとして、児童福祉施設預かりとすることで決着がついたはずです。その話し合いには、私も息子も立ち会っておりました」
「くそっ、離せっつってんだろ! 会いたくないって何だ? 昨日から、どいつもこいつもおかしな事ばかり言いやがって! お前、いつからそんな偉そうなこと言えるようになったんだよ! 椛田! お前、俺がアイツんちで暮らせるようにしてやるって言ってたじゃねえか!」
若い警察官に押さえられて椅子に座っている望は、離せ、離せ、とずっと警察官に噛み付いていた。話を聞く気が無いのかと思いきや、それなりに聞いていたらしい。松島の父の言葉に突然、大声を上げた。
松島の肩が、びくりと跳ねる。松島の父も、椛田も。一太と警察官二人の肩は跳ねなかった。
「先日の話し合いに参加していたという相談員にも連絡はしたのですが、忙しいとのことでお越し頂けませんでした」
「なるほど。先日も、そちらの椛田さんに頼まれて場所を貸しただけだと仰っていたので、仕方ありませんね」
「昨日、話を聞いたところでは、椛田さんは職務の範囲外での行動であったらしく、松島さん宅への侵入が、相談員として子どものために取った行動との規定に当てはまりません。純粋に、他人の住居への不法侵入という事になります」
「そ、そんな! 僕は、村瀬くんを助けようとして⋯⋯」
笹井と松島の父が冷静に話し始めたところへ、椛田が慌てて口を挟んだ。
「ええ、それはお聞きしました。しかしそれを、侵入された側の人間がどう受け止めるかという問題になると思います。村瀬さん、松島さん、如何ですか?」
「僕は、不法に侵入されたと怒りを覚えています。結局、その方は、すぐ近くにいたのに村瀬くんを助けられていません。村瀬くんは二発も殴られています。目の前にいたのなら、暴行が始まった時点ですぐに、彼を止めるために押さえたり、通報したり、隣の部屋の人に助けを求めたりしてほしかった」
松島が、低い声で言った。いつも優しい松島の、そんな声を聞いたのは初めてだったので、一太は驚いて隣に座る松島を見上げる。
「や、し、しかし、あんな目の前で暴力行為なんて見たら、恐ろしくて、動けな⋯⋯」
「そう言われる方は多いですね。目の前の暴行に、咄嗟に対応できる方は少ない」
笹井の言葉に、椛田がほっとした顔を見せる。そんな椛田の顔を見ながら、松島の父が口を開いた。
「彼が暴力をふるうから会いたくない、と一太くんは先日の話し合いで椛田さんに伝えていました。それで彼は、引き取り手無しとして、児童福祉施設預かりとすることで決着がついたはずです。その話し合いには、私も息子も立ち会っておりました」
「くそっ、離せっつってんだろ! 会いたくないって何だ? 昨日から、どいつもこいつもおかしな事ばかり言いやがって! お前、いつからそんな偉そうなこと言えるようになったんだよ! 椛田! お前、俺がアイツんちで暮らせるようにしてやるって言ってたじゃねえか!」
若い警察官に押さえられて椅子に座っている望は、離せ、離せ、とずっと警察官に噛み付いていた。話を聞く気が無いのかと思いきや、それなりに聞いていたらしい。松島の父の言葉に突然、大声を上げた。
松島の肩が、びくりと跳ねる。松島の父も、椛田も。一太と警察官二人の肩は跳ねなかった。
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