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113 好きな人の写真は持ち歩きたいって気持ちは普通だよね?
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「これも印刷してほしいんだってば。印刷代、払うから」
「お金なんていらないよ。いっちゃんの旅行アルバムなんだから、僕の写真はいらないでしょ」
「いる。二人で旅行したって分からないと嫌だ。俺一人じゃ寂しい」
「あー、うーん。そうかあ。じゃ、二人のも」
プリンターが軽快に動いて、様々な表情の一太の写真を吐き出している。最も一般的なL版サイズで、色鮮やかに印刷される写真を見て喜んでいた一太だったが、松島の写っているものが意図的に除外されていることに気付いて、珍しく抗議の声を上げた。
「この、晃くんが一人で写っているのも印刷してほしい」
一太のスマホで撮影した、松島だけが写っている写真も何枚かある。一太はそれも、印刷してほしい。
「それは、絶対にいらないでしょ」
松島はそう言うが、一太としてはどうしても譲れなかった。
「俺が、いるの。アルバム用と持ち歩き用と二枚欲しい」
「持ち歩き用? ……持ち歩き用って何?」
「いつも手帳に挟んでおくやつ」
「いやいやいや、何で?」
「何でって……」
好きな人の顔を、見たい時に見られたら嬉しいから、かな。
一太はそう言いかけて、まるで好きな芸能人の写真を持ち歩く女の子たちみたいかもしれない、と思い当たり口をつぐんだ。男子はそういうこと、しないものなのかも。
……でも、欲しい。
「わ、写真? 現像してるの? ああ、いっちゃん、良い顔!」
洗い物を食洗機に片付け終えた松島の母が、刷り上がった写真を見てにこにこと笑った。洗い物を手伝う、と言った一太に、うちには文明の利器があるのよ、と見せてくれたのだ。お皿を機械の中に並べて、洗剤を入れてスイッチを押すだけで、熱湯で洗って乾かしてくれる。素晴らしい! 発明した人は天才だな、と一太は思った。最新の家電製品は、本当にすごい。取り扱い説明書を読んでいるだけで楽しい。
つまり、一太に手伝えることはなくて、写真の現像をしてくれている松島の横で、仕上がりを見ることができていたわけだ。そのお陰で、口出しができたのはラッキーだった。
「いいねえ。良かったねえ。現像するとやっぱり見やすくていいわ」
一枚一枚、写真を確認した松島の母が、しみじみと言った。
「いっちゃん、写真持ってないんだって。これから沢山撮って、アルバムも作ろうかと思って」
「え? 写真? 持ってない?」
「あ、はい。一枚も」
「…………」
一太としては事実を述べただけだったので、松島の母が沈黙したことで察した。これは、普通では無かったかもしれない。
「あ、あの。あるかも。俺が持っていないだけで、昔の家に、児童養護施設で撮ってくれた写真があるのかも」
児童養護施設を出る時、施設の先生が、一太の母親と言われていた人にアルバムらしきものを渡していたような気がして、慌てて口にする。あの人がそれを開いたり、大切に置いていたりするとはとても思えないが、存在はしていたはずだ。だから、一枚も無いわけではないのだ、多分。
「そう? 小さい頃のいっちゃんも可愛かったでしょうね。また見つかったら見せてね」
松島の母のその言葉には、一太は曖昧に頷いておいた。
「晃。全部、私の分も印刷して頂戴」
松島の母は、そんな一太ににっこり笑うと息子に向き直る。
「は? 何で?」
「二人とも可愛いから、置いておきたい」
「データ送るから、自分でやってよ」
「あ、それでもいいわ。全部、頂戴。全部、印刷しよう」
全部? その言葉に一太は反応する。やった! 俺も、全部欲しい。
「あ、陽子さん。俺、これを印刷してほしいのに、晃くんがいらないって言って印刷してくれないんです。印刷してくれますか? 俺も、全部欲しいんです。この晃くんは二枚欲しいんです」
「いっちゃん、私に送って。何枚でも出してあげるからね」
「やったー。ありがとう、陽子さん」
「持ち歩き用の意味が分からない……」
松島は、はしゃぐ二人の横で、ぼそりと呟いていた。
「お金なんていらないよ。いっちゃんの旅行アルバムなんだから、僕の写真はいらないでしょ」
「いる。二人で旅行したって分からないと嫌だ。俺一人じゃ寂しい」
「あー、うーん。そうかあ。じゃ、二人のも」
プリンターが軽快に動いて、様々な表情の一太の写真を吐き出している。最も一般的なL版サイズで、色鮮やかに印刷される写真を見て喜んでいた一太だったが、松島の写っているものが意図的に除外されていることに気付いて、珍しく抗議の声を上げた。
「この、晃くんが一人で写っているのも印刷してほしい」
一太のスマホで撮影した、松島だけが写っている写真も何枚かある。一太はそれも、印刷してほしい。
「それは、絶対にいらないでしょ」
松島はそう言うが、一太としてはどうしても譲れなかった。
「俺が、いるの。アルバム用と持ち歩き用と二枚欲しい」
「持ち歩き用? ……持ち歩き用って何?」
「いつも手帳に挟んでおくやつ」
「いやいやいや、何で?」
「何でって……」
好きな人の顔を、見たい時に見られたら嬉しいから、かな。
一太はそう言いかけて、まるで好きな芸能人の写真を持ち歩く女の子たちみたいかもしれない、と思い当たり口をつぐんだ。男子はそういうこと、しないものなのかも。
……でも、欲しい。
「わ、写真? 現像してるの? ああ、いっちゃん、良い顔!」
洗い物を食洗機に片付け終えた松島の母が、刷り上がった写真を見てにこにこと笑った。洗い物を手伝う、と言った一太に、うちには文明の利器があるのよ、と見せてくれたのだ。お皿を機械の中に並べて、洗剤を入れてスイッチを押すだけで、熱湯で洗って乾かしてくれる。素晴らしい! 発明した人は天才だな、と一太は思った。最新の家電製品は、本当にすごい。取り扱い説明書を読んでいるだけで楽しい。
つまり、一太に手伝えることはなくて、写真の現像をしてくれている松島の横で、仕上がりを見ることができていたわけだ。そのお陰で、口出しができたのはラッキーだった。
「いいねえ。良かったねえ。現像するとやっぱり見やすくていいわ」
一枚一枚、写真を確認した松島の母が、しみじみと言った。
「いっちゃん、写真持ってないんだって。これから沢山撮って、アルバムも作ろうかと思って」
「え? 写真? 持ってない?」
「あ、はい。一枚も」
「…………」
一太としては事実を述べただけだったので、松島の母が沈黙したことで察した。これは、普通では無かったかもしれない。
「あ、あの。あるかも。俺が持っていないだけで、昔の家に、児童養護施設で撮ってくれた写真があるのかも」
児童養護施設を出る時、施設の先生が、一太の母親と言われていた人にアルバムらしきものを渡していたような気がして、慌てて口にする。あの人がそれを開いたり、大切に置いていたりするとはとても思えないが、存在はしていたはずだ。だから、一枚も無いわけではないのだ、多分。
「そう? 小さい頃のいっちゃんも可愛かったでしょうね。また見つかったら見せてね」
松島の母のその言葉には、一太は曖昧に頷いておいた。
「晃。全部、私の分も印刷して頂戴」
松島の母は、そんな一太ににっこり笑うと息子に向き直る。
「は? 何で?」
「二人とも可愛いから、置いておきたい」
「データ送るから、自分でやってよ」
「あ、それでもいいわ。全部、頂戴。全部、印刷しよう」
全部? その言葉に一太は反応する。やった! 俺も、全部欲しい。
「あ、陽子さん。俺、これを印刷してほしいのに、晃くんがいらないって言って印刷してくれないんです。印刷してくれますか? 俺も、全部欲しいんです。この晃くんは二枚欲しいんです」
「いっちゃん、私に送って。何枚でも出してあげるからね」
「やったー。ありがとう、陽子さん」
「持ち歩き用の意味が分からない……」
松島は、はしゃぐ二人の横で、ぼそりと呟いていた。
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