【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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97 宝物を手に入れた

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「これ、どうやって紙に印刷するの?」

 昼食に、と入った食べ物屋でも、届いた名物焼きそばと一太を画面に入れて一枚写真を撮った松島に、その画像を確認しながら一太が尋ねてきた。

「ん? 紙で欲しいの? プリンターがあればすぐできるから、家に帰ったら出してあげるけど」
「おお」

 家で?

「普通の? 普通の写真?」
「普通? うん、まあどんな紙でもすぐできるよ? アルバムの形で印刷する? 写真の形で出してアルバムに入れる? 文房具屋とかで売ってるから買いに行く?」

 そういうものなのか、と一太は感心する。いつでも見られる旅の記念は、今日すぐにでも完成するらしい。一太は大喜びで自分のスマホを構えた。晃くんの写真もいっぱい欲しい。

「僕はいいよ。いっちゃんの写真をたくさん撮ろう?」

 松島が顔を隠そうとするから、一太は少ししょんぼりとした。

「俺だけの写真がたくさんあってもつまらない。晃くんの写真も欲しい......」

 どちらかというと、晃くんの写真が欲しい、と一太は思う。会いたくなった時に、いつでも顔が見られるなんて素敵だ。

「あ、ああ、ごめん。ちょっと照れくさくて。あのさ、一緒に撮ろう? 一緒にいたことが分かる写真」

 それは嬉しい。二人で旅行したのだと分かるなんて最高だ。それなら、たくさん撮りたい。一太は笑顔で頷いてから、それでも、とお願いした。

「一枚だけ。一枚だけでいいから晃くん一人の写真を撮ってもいい?」
「何で?」
「晃くんに会いたくなった時にいつでも見られるから」
「何だよ、それ」

 そう言って、松島がふわりと笑った時に、一太の構えていたスマホがタイミング良くシャッター音を響かせた。
 照れたような、でも嬉しそうな松島の可愛い笑顔が画面に広がって、一太は満足の息を吐く。保存のボタンを押すと、フォルダに入っていることまでしっかり確認してからスマホを置いた。

「見せてくれないの?」
「俺の宝物」
「はは。何だよ、それ」

 松島はおかしそうに笑うけれど、一太はいたって真剣だ。本当に、宝物を手に入れてしまった。もともとスマホは、連絡のためや大学の様々な手続きのために絶対に必要な宝物ではあったけれど、松島の笑顔の写真が保存されたことで、もう手放せない大切な大切な物になってしまった。一生、このスマホを持っていなければなるまい、と一太は決意して笑う。もちろん、写真用紙に印刷もしてもらって、贅沢を言っていいなら保存用と持ち歩き用と二枚欲しい。

「楽しそうだね」
「うん。最高に楽しい」

 少し冷めてしまった町の名物らしい焼きそばは、それなりに美味しかった。
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