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68 初めての手作りケーキ
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一太が、洗濯機の次にじっくりと説明書を読み込んだのは、電子レンジである。松島の家にあったのはオーブンレンジで、電子レンジの機能とオーブンの機能を兼ね備えた物だった。
「何でもできるじゃん!」
説明書を読んで、思わず声を上げてしまったほどである。
大学の図書室に出かけて料理本を借りて来たのは、ボランティア翌日の木曜日だった。
「いっちゃん、お菓子も作れるの?」
「え? あ、えーと……。作ったことは無くて……。作ってみたいなって……」
本の表紙で、作りたいものが松島にバレてしまった。声が小さくなったのは、お菓子が普段の生活に必要のない贅沢品だからである。一太の今までの生活に、お菓子やデザートは存在しなかった。
小学校の頃の給食のデザートは、人生の楽しみだったと言っても過言ではない。
もちろん、児童養護施設にいた頃は、クリスマスなどの行事や月に一度のお誕生日会でケーキが登場していた。それも、おぼろ気な記憶で、小学校以降の食事と言えば給食である。給食にケーキが出ることは無かった。
弟や母は、時々買ってきて食べているのを見たことがある。児童養護施設で食べたことがあり味を知っているから、自分だけ食べられないことはとても辛かった。すっかり諦めることができるまで、大分時間がかかった気がする。
だから、自分でお金を稼ぐようになっても、一度も、ケーキを食べようなどという気持ちにはならなかったのかもしれない。一人暮らしになってからも、とにかく余裕が無かった。
お菓子、なんて。
「ごめん。贅沢……」
一太が小さな声で言って本を閉じようとすると、松島が、ものすごく期待した顔で一太の腕を掴んだ。
「すごい。すごいよ、いっちゃん! 炒飯や餃子を作れるだけでなく、お菓子まで作れるなんて! いっちゃんは何て凄いんだ」
炒飯と餃子って……。餃子、焼いただけだし。
一太は、昨日のことを思い出して、思わず苦笑した。
ボランティアの後、学食で遅い昼食を取ってからの帰り道、近所のスーパーに寄って、出来合いの炒飯と餃子を買おうとする松島に待ったをかけたのだ。
炒飯なんて、米と卵と長ねぎとハム、中華だしがあればできる。餃子は、焼いてあるだけで、焼いていない品の倍の値段だった。確か米と卵は冷蔵庫にあったからと足りない物だけを買えば、最初に買おうとしていた出来合いの半額以下で済んだ。
そうして、家で一太が作った炒飯と餃子は、松島の大絶賛の元に平らげられたのだ。
あまりに褒められすぎて、どうしていいか分からなかった一太だが、じわじわとずっと嬉しかった。
そしてまた、お菓子を作ろうとしただけでこの褒め言葉。
戸惑うばかりだけれど、全然嫌じゃない。むしろ、嬉しい。
「作っていいの?」
「もちろん。僕、甘いもの好きだよ」
「俺も」
一時間後には生クリームと苺を買いに出かけて、大騒ぎで二人でケーキを焼いた。膨らみは悪かったが、一太の人生で一番美味しいお菓子だった。
「何でもできるじゃん!」
説明書を読んで、思わず声を上げてしまったほどである。
大学の図書室に出かけて料理本を借りて来たのは、ボランティア翌日の木曜日だった。
「いっちゃん、お菓子も作れるの?」
「え? あ、えーと……。作ったことは無くて……。作ってみたいなって……」
本の表紙で、作りたいものが松島にバレてしまった。声が小さくなったのは、お菓子が普段の生活に必要のない贅沢品だからである。一太の今までの生活に、お菓子やデザートは存在しなかった。
小学校の頃の給食のデザートは、人生の楽しみだったと言っても過言ではない。
もちろん、児童養護施設にいた頃は、クリスマスなどの行事や月に一度のお誕生日会でケーキが登場していた。それも、おぼろ気な記憶で、小学校以降の食事と言えば給食である。給食にケーキが出ることは無かった。
弟や母は、時々買ってきて食べているのを見たことがある。児童養護施設で食べたことがあり味を知っているから、自分だけ食べられないことはとても辛かった。すっかり諦めることができるまで、大分時間がかかった気がする。
だから、自分でお金を稼ぐようになっても、一度も、ケーキを食べようなどという気持ちにはならなかったのかもしれない。一人暮らしになってからも、とにかく余裕が無かった。
お菓子、なんて。
「ごめん。贅沢……」
一太が小さな声で言って本を閉じようとすると、松島が、ものすごく期待した顔で一太の腕を掴んだ。
「すごい。すごいよ、いっちゃん! 炒飯や餃子を作れるだけでなく、お菓子まで作れるなんて! いっちゃんは何て凄いんだ」
炒飯と餃子って……。餃子、焼いただけだし。
一太は、昨日のことを思い出して、思わず苦笑した。
ボランティアの後、学食で遅い昼食を取ってからの帰り道、近所のスーパーに寄って、出来合いの炒飯と餃子を買おうとする松島に待ったをかけたのだ。
炒飯なんて、米と卵と長ねぎとハム、中華だしがあればできる。餃子は、焼いてあるだけで、焼いていない品の倍の値段だった。確か米と卵は冷蔵庫にあったからと足りない物だけを買えば、最初に買おうとしていた出来合いの半額以下で済んだ。
そうして、家で一太が作った炒飯と餃子は、松島の大絶賛の元に平らげられたのだ。
あまりに褒められすぎて、どうしていいか分からなかった一太だが、じわじわとずっと嬉しかった。
そしてまた、お菓子を作ろうとしただけでこの褒め言葉。
戸惑うばかりだけれど、全然嫌じゃない。むしろ、嬉しい。
「作っていいの?」
「もちろん。僕、甘いもの好きだよ」
「俺も」
一時間後には生クリームと苺を買いに出かけて、大騒ぎで二人でケーキを焼いた。膨らみは悪かったが、一太の人生で一番美味しいお菓子だった。
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