【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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67 家電製品との日々

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 少し元気になった一太が、松島の部屋でまず興味を惹かれたのは家電製品の数々だった。
 洗濯機は、実家で一太が使用していたものと形が違う上に、設定によっては乾燥までしてしまう。ドラム式、と言うらしい。まずは、見た目が格好いいことにうっとりした。洗濯だけで取り出すことも可能だから、晴れている時は外に干して、雨で外に干せない時はそのまま乾燥に移行すればいい。洗剤や柔軟剤は自動で投入してくれるし、様々な細かい設定も可能。一太は、説明書をじっくり読んで設定のボタンを押しては、おお、と感動した。
 なんなら、回っている洗濯機をぼおっと眺めていることもある。

「ええーと。面白いの?」
「うん」
「そ、そうか」

 松島はさっぱり分からないという顔をしていたが、一太が楽しいならまあいいか、と放っておいてくれた。松島は一太が何をしても、一太のことを変だと言わない。それが、とても楽だった。
 一太はこの家に越してきてから、一人で暮らしている時より心安らかに過ごせていた。
 そのまま、洗濯は一太が請け負うことになった。本人の強い希望である。まあ、基本、洗濯機がやるから、そんなに疲れる作業ではないし、と松島は感謝しながら任せてくれた。
 松島は、干す作業は手伝うよ、と何度も言っていたのだが、一太は何せ家事をするときの行動が素早い。その上、人に頼るとか手伝ってもらうということを知らないで生きてきたから、松島が気づいた時には洗濯物干しは終わっていることが多かった。
 一太は、家事に慣れているため次の行動の予測がついていて、次々と動いてしまう。家事など、一人暮らしを始めてからも碌々やっていない松島とは経験値が違うのである。
 一太は、雨の日にも、気温が高ければ乾燥に移行せずに洗濯物を部屋のあちこちに干していたりした。機械で乾燥すればいいのに、と松島が言うと、部屋でも乾くのにもったいない、と返事をした。そうして、簡単に乾燥機能を使うことを許さなかった。季節は夏である。雨などあっという間に止む。

「洗濯に風呂水も使うから、風呂洗いも洗濯が済んでからね」
「あのさ。せめて風呂洗いはするから、風呂水を吸い終わったら呼んでね」

 そんな会話を交わしていても松島が間に合うことは少なくて、結局、洗濯機の前で二人並んで座っていたりした。
 風呂洗いは松島の仕事、と一太が認識するまでは、しばらくそんな日々だった。
 
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