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61 ◇大変お世話になりました
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「瀬戸口くん!」
店長が大きい声で遮った。店内に人がいなかったのは幸いだった。
「あの、村瀬一太のロッカーから、荷物だけ取らせて頂けます?」
母は変わらずにこやかに話し掛ける。
「ああ、すみません、お母さん。大変、失礼なことを。瀬戸口くんも謝りなさい」
「え? お母さん? 本当に?」
店長に無理やり頭を押さえられた瀬戸口は、その手を振りほどきながら不躾に松島の母を見る。
金が無いようには見えないけど、とぶつぶつ口の中で呟いてから、すみませんともごもご言う。前半部分の方が声が大きくて、聞いていた松島は苛々した。
「村瀬くん、急に休んで迷惑してます。とにかく、俺はこれ以上シフト入れられませんし、ずっと裏で仕事してる店長と組んでも手伝ってもらえないから、給料上げてもらわないとやってられないっす」
ことのついでとばかりに捲し立てる瀬戸口に呆れ、松島は母の袖を引いた。
「いっちゃんが心配だから、そろそろ帰ろう」
「あら、そうね」
たまたま他に客がいなかったから良かったものの、こんな店先でする話ではない。奥へ案内することも思い付かない店長は、相当疲れている様子だった。
「店長さん。ロッカーはどこ?」
「あ、うちはそんなものは無くて、裏の部屋で適当に制服を着ます。ちょっとした品物やパソコンの置いてある部屋で。あの、だから、ハンガーに掛けてある制服以外には何もないはずです」
「あら、そう。なら、良かったわ。それでは、お世話になりました」
「ま、待ってください。彼は、とても真面目で優秀な人です。是非まだまだ働いてもらいたい。村瀬くんがいないと困るお客様もいらっしゃる。月曜からで良いので、戻ってくるようにお伝えください」
月曜の診察は、本来なら、退院しても大丈夫かどうかの診察だ。その後、家で安静にできるのなら退院してもいいよ、という感じのもの。そんな日の午後から通常通り勤務なんてできるわけがない。そんなことをすればまた、病院に逆戻りすること間違いなしだ。
どうして店長の中では、月曜から仕事に戻れることになっているのだろう。
松島は内心で首を傾げながら、月曜からでいい、という言葉に腹を立てていた。これだけ休みをあげたのだ、だいぶ譲歩している、と言わんばかりの台詞。
「月曜に戻るのは無理だと、何度言えば伝わるのかしら? こちらの店員さんもずいぶんと話が支離滅裂ですし、どうも私のお話は伝わっていないようですわ。お褒め頂いて光栄です。本人に伝えておきますね」
母の、にこやかさが崩れない所はすごいと思う。松島は、ただ黙って、店を出ようと歩く母の後に続いた。
「そうそう。店長さんも、随分と顔色が悪いようだわ。体調を崩さないようにお気をつけください」
誰も心配してはくれないだろうしね。
最後に振り返って言った母の言葉に心の中で付け加えて、松島は店を後にした。
店長が大きい声で遮った。店内に人がいなかったのは幸いだった。
「あの、村瀬一太のロッカーから、荷物だけ取らせて頂けます?」
母は変わらずにこやかに話し掛ける。
「ああ、すみません、お母さん。大変、失礼なことを。瀬戸口くんも謝りなさい」
「え? お母さん? 本当に?」
店長に無理やり頭を押さえられた瀬戸口は、その手を振りほどきながら不躾に松島の母を見る。
金が無いようには見えないけど、とぶつぶつ口の中で呟いてから、すみませんともごもご言う。前半部分の方が声が大きくて、聞いていた松島は苛々した。
「村瀬くん、急に休んで迷惑してます。とにかく、俺はこれ以上シフト入れられませんし、ずっと裏で仕事してる店長と組んでも手伝ってもらえないから、給料上げてもらわないとやってられないっす」
ことのついでとばかりに捲し立てる瀬戸口に呆れ、松島は母の袖を引いた。
「いっちゃんが心配だから、そろそろ帰ろう」
「あら、そうね」
たまたま他に客がいなかったから良かったものの、こんな店先でする話ではない。奥へ案内することも思い付かない店長は、相当疲れている様子だった。
「店長さん。ロッカーはどこ?」
「あ、うちはそんなものは無くて、裏の部屋で適当に制服を着ます。ちょっとした品物やパソコンの置いてある部屋で。あの、だから、ハンガーに掛けてある制服以外には何もないはずです」
「あら、そう。なら、良かったわ。それでは、お世話になりました」
「ま、待ってください。彼は、とても真面目で優秀な人です。是非まだまだ働いてもらいたい。村瀬くんがいないと困るお客様もいらっしゃる。月曜からで良いので、戻ってくるようにお伝えください」
月曜の診察は、本来なら、退院しても大丈夫かどうかの診察だ。その後、家で安静にできるのなら退院してもいいよ、という感じのもの。そんな日の午後から通常通り勤務なんてできるわけがない。そんなことをすればまた、病院に逆戻りすること間違いなしだ。
どうして店長の中では、月曜から仕事に戻れることになっているのだろう。
松島は内心で首を傾げながら、月曜からでいい、という言葉に腹を立てていた。これだけ休みをあげたのだ、だいぶ譲歩している、と言わんばかりの台詞。
「月曜に戻るのは無理だと、何度言えば伝わるのかしら? こちらの店員さんもずいぶんと話が支離滅裂ですし、どうも私のお話は伝わっていないようですわ。お褒め頂いて光栄です。本人に伝えておきますね」
母の、にこやかさが崩れない所はすごいと思う。松島は、ただ黙って、店を出ようと歩く母の後に続いた。
「そうそう。店長さんも、随分と顔色が悪いようだわ。体調を崩さないようにお気をつけください」
誰も心配してはくれないだろうしね。
最後に振り返って言った母の言葉に心の中で付け加えて、松島は店を後にした。
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ムーンライトノベルズでも連載中。
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