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「村瀬くん。頭を上げてくれ。責任は取るつもりだ。すぐに借りられる部屋を今、調べている。だが、君の借りていたような金額で探すことは難しくてな。今のところ見つかっていない」
一太は頭を上げて、笑顔を作った。優しい人だな、と思う。晃くんに似て、優しい人だ。
「通う、ことを諦めたら……大丈夫なので……」
「諦める?」
「大学です。分かってたんです。通信教育にしたら、費用が少なくて済むって。授業やテストは休みの日にやってくれるから、平日の昼間はずっと仕事ができるし、一回の対面授業やテスト毎に八千円とか一万円とかお金を添えて申し込めばいいから、まとまったお金が無くても何とかなるんです。入学の時に五十万円いるけど、それで三年分なんです。毎年その倍の費用を払う通学より全然安いんです」
「…………」
「分かってたんです。……でも、通いたかった。学校、通いたかったから頑張ってみたんですけど、ちょっと頑張りが足りなかったみたいです。俺の我儘で、ご迷惑をおかけしてすみません。来年の学費にと置いておいたお金を使えば、借りられる部屋もあると思います。仕事もちゃんと探して、生活費だけなら、学費がいらないなら、多分、俺一人、生きて……」
一人……。
一人で生きていく。
自分の稼いだお金を、自分で使って生きていくなら簡単だと思っていた。母や弟にお金を取られることなく、二人の世話をすることもなく、自分のことだけすればいいのだから。
通学の学校さえ諦めたらきっと。
でも、その人生を俺は頑張れるだろうか。
友達と楽しく過ごすことを知ってしまった。晃くんや安部くんと学食で一緒にご飯を食べたり、エプロンを買いに行ったりしたことは、ハラハラすることもあったけれど本当に楽しかった。バスに乗った。ハンバーガー屋にだって入れた。昨日のボランティアで預かった子どもたちは、泣いていても可愛かった。
それらと離れて仕事をしながら、一人で勉強を続けるの? 頑張ったらまた、子どもたちを抱っこできる? でもそこに、晃くんはいない。
「あのさ、いっちゃん。僕の家にとりあえず住んだらどうかな。とりあえず」
一太の話が途切れた所で、松島が口を挟んだ。言おう言おうとしていたらしく、前のめりで。
半分物思いに沈んでいた一太は、きょとんとしてしまう。
「ん? お前の部屋に?」
松島の父も驚いている。
「僕の部屋は、月に二回は、母さんが様子を見に来て泊まっているんだから、他の人が泊まってても大丈夫だよ。一人しか駄目って書いてなかったと思う。二人で暮らすには狭いかもしれないけど、布団は二つ敷けるし。とりあえず、その、元気になるまでだけでも、一緒にいない?」
「そうか、そうだな。そうするか! そうしている間に、村瀬くんの部屋を探せばいい。焦ってもよいことはないからな。二人で住めるもう少し広い部屋を探してもいいかもしれん。それなら費用も抑えられる。晃、そうしなさい」
「はい、父さん。いっちゃん、一緒に登校しよう? 小さいけど電子ピアノもあるから、家でもピアノの練習できるよ。僕は、家事はまだ練習中で部屋はあんまり綺麗じゃないんだけど、なるべく片付けておくね。いっちゃんちの荷物、運べるものは運んでおくよ」
「そうか……そうか! とりあえずそれでいいな。ああ、良かった」
一太がぽかんとしている間に、松島親子の話がまとまってしまった。
「え? え? でも、俺。ええ?」
一太は頭を上げて、笑顔を作った。優しい人だな、と思う。晃くんに似て、優しい人だ。
「通う、ことを諦めたら……大丈夫なので……」
「諦める?」
「大学です。分かってたんです。通信教育にしたら、費用が少なくて済むって。授業やテストは休みの日にやってくれるから、平日の昼間はずっと仕事ができるし、一回の対面授業やテスト毎に八千円とか一万円とかお金を添えて申し込めばいいから、まとまったお金が無くても何とかなるんです。入学の時に五十万円いるけど、それで三年分なんです。毎年その倍の費用を払う通学より全然安いんです」
「…………」
「分かってたんです。……でも、通いたかった。学校、通いたかったから頑張ってみたんですけど、ちょっと頑張りが足りなかったみたいです。俺の我儘で、ご迷惑をおかけしてすみません。来年の学費にと置いておいたお金を使えば、借りられる部屋もあると思います。仕事もちゃんと探して、生活費だけなら、学費がいらないなら、多分、俺一人、生きて……」
一人……。
一人で生きていく。
自分の稼いだお金を、自分で使って生きていくなら簡単だと思っていた。母や弟にお金を取られることなく、二人の世話をすることもなく、自分のことだけすればいいのだから。
通学の学校さえ諦めたらきっと。
でも、その人生を俺は頑張れるだろうか。
友達と楽しく過ごすことを知ってしまった。晃くんや安部くんと学食で一緒にご飯を食べたり、エプロンを買いに行ったりしたことは、ハラハラすることもあったけれど本当に楽しかった。バスに乗った。ハンバーガー屋にだって入れた。昨日のボランティアで預かった子どもたちは、泣いていても可愛かった。
それらと離れて仕事をしながら、一人で勉強を続けるの? 頑張ったらまた、子どもたちを抱っこできる? でもそこに、晃くんはいない。
「あのさ、いっちゃん。僕の家にとりあえず住んだらどうかな。とりあえず」
一太の話が途切れた所で、松島が口を挟んだ。言おう言おうとしていたらしく、前のめりで。
半分物思いに沈んでいた一太は、きょとんとしてしまう。
「ん? お前の部屋に?」
松島の父も驚いている。
「僕の部屋は、月に二回は、母さんが様子を見に来て泊まっているんだから、他の人が泊まってても大丈夫だよ。一人しか駄目って書いてなかったと思う。二人で暮らすには狭いかもしれないけど、布団は二つ敷けるし。とりあえず、その、元気になるまでだけでも、一緒にいない?」
「そうか、そうだな。そうするか! そうしている間に、村瀬くんの部屋を探せばいい。焦ってもよいことはないからな。二人で住めるもう少し広い部屋を探してもいいかもしれん。それなら費用も抑えられる。晃、そうしなさい」
「はい、父さん。いっちゃん、一緒に登校しよう? 小さいけど電子ピアノもあるから、家でもピアノの練習できるよ。僕は、家事はまだ練習中で部屋はあんまり綺麗じゃないんだけど、なるべく片付けておくね。いっちゃんちの荷物、運べるものは運んでおくよ」
「そうか……そうか! とりあえずそれでいいな。ああ、良かった」
一太がぽかんとしている間に、松島親子の話がまとまってしまった。
「え? え? でも、俺。ええ?」
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