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41 欠勤連絡はただ謝るしかない

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「電話番号が分かるなら、とりあえず僕の携帯で電話連絡だけしておいたらどうかな?」

 一太は、松島の提案に頷いた。
 どうしても休まなければならないなら、早く連絡した方がいい。他の人に代わりに入ってもらわないと仕事が回らなくなってしまう。一太の今のバイト仲間に、バイト開始の時間が過ぎてから、休みます、遅れますと連絡してくる人がいて、とても困ったことが何度もあるのだ。今日もその人とペアだった気がする。
 一太は、松島のスマホを借りて、四月に百円ショップで買ったスケジュール手帳をバッグから取り出した。これが無いと困る、というほど役に立ってくれている、何でも書いてある手帳。仕事先の電話番号はきちんと控えていた。
 今まで休んだことなんて無いから、電話をかけるのは初めてだ。

「はい。マート大学北店です」

 パートの柿谷さんの声。朝から昼過ぎまで店にいることが多い中年の女の人だ。土日の午前中にシフトを入れると会うことがある。

「あの、すみません。村瀬です」
「ああ、村瀬くん?」
「すみません。体調不良で、今日のバイトを休みます」
「ええ?」
「あの、体調不良で」
「えええ? 村瀬くん、来れないの? うわ、私もうすぐ上がりだし、もう一人って瀬戸内せとうちくんよね? ちょっと待って。店長に電話代わるから。店長ー、店長! 電話。村瀬くん、休むって」

 大きな声。
 すぐに、初老の店長と電話を代わった。

「すみません」
「体調不良ってどんな? 発熱? 今日はもう来れない? 明日は?」
「あの、熱中症で病院に運ばれて、明日、は……」

 そういえば、いつまでここにいなければいけないのか聞いていなかった。松島の方へ視線をさまよわせると、気付いてくれたらしい。言いにくそうに小声で告げられる。

「まずは一週間ほど入院して様子を見るってお医者さんが言ってた」

 一週間?!

「もしもし? 村瀬くん?」

 思わず絶句してしまって、電話口から呼び掛けられる。

「あの。一週間、行けないみたいです……」
「はああ? いや、困る、困るよ、村瀬くん。一週間全部、シフト入ってるんだよ。何の病気って言ったっけ? うつるものなの?」
「あの、熱中症で……」
「熱中症? そんなもの、水分取って寝たら治るんじゃないの?」
「あの、俺、まだ目を覚ましたばかりで、あまりお医者さんと話してなくて分からないんです。本当にすみません」

 約束していた仕事に穴を開けたのだから、とにかく謝るしかない。

「村瀬くん、体調管理をしっかりしないと。君、痩せすぎだし顔色はいつも悪いし、ふらふらしてただろう? そんな無責任なことでは、社会に出たときにやっていけないよ。今日は仕方ないけど、明日からは何とかならないの?」
「明日……は、その……」

 正直、明日いつも通りに仕事ができる気はしなかった。

「はあ、分かった。今日と明日はとりあえず休みってこと? まだうちで仕事を始めて六ヶ月経っていないから、有給休暇は取れないからね。欠勤だから。あと、本当に一週間来られないってことなら、申し訳ないけれど雇い続けるのは難しい」
「はい。あの、また連絡します……」

 電話はぶちっと切れた。
 そうか。
 もし本当に一週間このままなら、仕事も……。
 稼ぎ時の夏休みに……。
 
「いっちゃん、休み取れた?」

 松島の心配げな声にあっ、とスマホを返す。

「電話ありがとう。うん、とりあえず今日と明日休むってお願いしたけど、一週間休みはちょっと無理だって」
「え? でも、お医者さんの許可がないと行けないよ」
「うん。本当に行けなかったらクビになるだけだから、また仕事を探すとこから頑張るよ」
「そうか……。皆、心配してたでしょ」
「え?」
「え?」

 心配?
 何を?
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