【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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33 色々と初体験(したくなかった)

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 は、は、と吐く息は苦しくて熱かった。
 汗をかいて気持ち悪い。目をつぶって寝ているのに、くらりくらりと目眩がした。
 だいたいの不調は寝れば治ったのに……。
 経験したことがないほどの体調の悪さにぞっとして、何とかもう一度寝ようと頑張ってみる。寝られればきっと大丈夫。どんなに嫌なことがあって心が壊れそうな時にも、体がしんどくて堪らなかった時にも、とりあえず寝てしまえば何とかなったものだ。そうやって生きてきた。
 そうやって……。

「まだ目が覚めないってどうしてですか」
「うん。それだけ疲れてたんじゃないかな」
「本当にそれだけ?」
「うん。まあ、昨日することができた検査で出た結果によると、本当にそれだけだよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「熱はまだ高いみたいだけど、熱中症による発熱から疲れによる発熱に変わっているから、放っておいてもそのうち下がる。一週間ほどここに居たら、少しは体も楽になると思うよ。点滴と食事療法で様子をみるから」
「はい」
「ご家族の連絡先が分かったら教えてね」
「……はい」

 あきらくんの声がする。もう一人は誰だろう。
 一太がぼんやりとそんなことを思っていると、温かいタオルで顔を、そっと、そおっと拭われた。
 頑張った甲斐があって、もう一度寝られたらしい。一度目覚めた時より、目眩がだいぶましになっていた。気持ち悪かった汗を拭ってもらって、更にすっきりする。弟の看病をしたことはあっても、看病をしてもらったことなんて無かった。ほわりと温かいタオルが気持ちいい。
 首すじまで拭ってもらったところで、一太は不意に覚醒した。
 看病?
 あり得ない。
 だって、俺は一人暮らしだ。寝てても誰もいない。やっと一人になることができたんだ。一人暮らしでなかった時は、しんどくて寝てる時にも、ご飯を作れと蹴り飛ばされて無理やり起こされたけれど、今はそんなことをする人もいない。
 なのに、何で?
 ぱちりと目を開けると松島がいた。
 タオルを洗面器に浸して絞っている。周りはカーテンで囲われていて、それでも明るい日が射していた。
 
「あ、いっちゃん」

 目を開けた一太に気付いた松島が、絞ったタオルを置いて屈みこんでくる。

「おはよう。気分はどう? 辛いとこない?」
 
 いつも通りの笑顔に、瞬きを返すしかない。
 なに? ここどこ?
 視線を動かして見ても分からず、起き上がろうとして左腕に違和感を覚えた。
 一太が起き上がる手伝いの手を差し伸べながら松島が言う。

「いっちゃん、左腕気を付けて。点滴、しばらく繋げておかなくちゃならないらしいから、トイレ行くときとか、ゴロゴロと引っ張っていくんだ。やり方教えてあげるから、トイレ行きたくなったら言ってね」

 てん、てき?
 点滴?!
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