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23 お別れの朝は大騒ぎ
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「いーやー。マーマー!」
「みうちゃん、ごめんね。ママご用事があるんだ。ちょっとここで待ってて」
「いーやー!」
「大丈夫ですよー。みうちゃん、先生とお留守番してようか。いってらっしゃーい」
優子先生が二歳のみうちゃんを笑顔で羽交い締めしている。みうちゃんは、ちっとも大丈夫では無さそうだが、大丈夫らしい。
うーん、すごい。笑顔なのに、暴れるみうちゃんが部屋から出ていかないように見事に拘束している。
「あ、けいとくん? おはよう。六ヶ月さんだったね。わあ、しっかりしてるねえ。ミルクは飲んできた? はい。はい、了解です。一太先生、けいとくんを抱っこしてくれる? うん、上手」
「一応ミルクは持ってきました。哺乳瓶嫌がるんですけど、どうしてもお腹が空いたら飲むと思うので」
「はーい。お湯も入れてくれてるんですね。了解です」
優子先生はぐすぐすと泣くみうちゃんを抱えたまま、次の子どもと母親に笑顔で対応する。昌江先生は同じように笑顔で、母親から受け取った荷物と子どもたちの背中に名前を書いたシールを貼り付けて、荷物の中身の説明を聞いている。お母さんたちが書いてくれた子どもの本日の様子の用紙にもさっと目を通して、黒板に貼っていく。手早いなあ、と感心してしまう。
ずっしりとした抱き心地のけいとくんは、まだ人見知り前らしい。一太が母親から受け取って抱いても泣きもせずに、じいっと一太の顔を観察していた。
うーん、可愛い。
「わ、今日は男の先生がいらっしゃるんですね」
「そうなの、二人ともイケメンでしょ。一太先生と晃先生。みうちゃん、晃先生に遊んでもらう? おもちゃ色々あるよ、見てきて」
「いや」
「うんうん、いやよねえ。あ、優子先生がいい? 優子先生と一緒にいようか」
「いや」
「うんうん。あ、晃先生、預かったお荷物、あちらに置いておいてくれる? そうそう、かごの中。あ、うみちゃん、おはよう。もう遊ぶ? 晃先生、うみちゃん行きましたよー」
「はい」
松島が大急ぎで預かった荷物をかごにまとめて、さっさとサンダルを自分で脱いで託児室へ入っていった二歳のうみちゃんを追いかけた。とても緊張している。
笑顔忘れてるぞって言ってやらなきゃ。
一太がけいとくんを抱いて松島に近寄ろうとすると、大泣きの声が響き渡った。
「うわああああぁ」
「はーい。しゅんくん、また来てくれたの。嬉しいな。お母さん、何か心配なこととかありますか?」
「ぎぃゃああぁ」
いや、心配なことしかないけど。
「あの、私の服とかハンカチとかタオルとか、お気に入りのタオルケットと本人の上着と普段の玩具と色々詰めてきました。すみません、お願いします」
一歳のしゅんくんのお母さんは、一泊旅行ができそうな鞄にしゅんくんお気に入りの品を、これでもかと詰め込んで来たらしい。
「ああ、しゅんくん、いいねえ。たくさんだねえ。お気に入りのタオルケットがあるんですね、分かりましたー。じゃあ、お母さん、いってらっしゃーい」
昌江先生が、自分の荷物を抱えて泣きわめくしゅんくんを少し出入り口から奥に押しやり、流れるように靴と靴下を脱がす。
ぎゃあぎゃあと泣き続けるしゅんくんは、荷物を漁って膝の上に積み上げていく。
「なんか、すごいな」
「うん」
「晃先生、ちょっと来てー。とものりくん抱っこしてあげてー」
「あ、はい」
慣れた様子でブロックの玩具を引っ張り出して組み立てているうみちゃんを二人で見ていると、優子先生からの呼び出しが来た。
「晃先生。笑顔、笑顔」
一太の声に引きつったような笑顔を見せて、松島が出入り口に向かう。
大学では、どんな授業も余裕でこなしている松島の焦る様子が何となくおかしくて、一太はけいとくんをぎゅっと抱き締めながらうみちゃんの横に座った。
ああ、可愛い。
出入り口では、更に二人分の泣き声が加わった。
朝の予約の子どもたちが揃ったらしい。
「みうちゃん、ごめんね。ママご用事があるんだ。ちょっとここで待ってて」
「いーやー!」
「大丈夫ですよー。みうちゃん、先生とお留守番してようか。いってらっしゃーい」
優子先生が二歳のみうちゃんを笑顔で羽交い締めしている。みうちゃんは、ちっとも大丈夫では無さそうだが、大丈夫らしい。
うーん、すごい。笑顔なのに、暴れるみうちゃんが部屋から出ていかないように見事に拘束している。
「あ、けいとくん? おはよう。六ヶ月さんだったね。わあ、しっかりしてるねえ。ミルクは飲んできた? はい。はい、了解です。一太先生、けいとくんを抱っこしてくれる? うん、上手」
「一応ミルクは持ってきました。哺乳瓶嫌がるんですけど、どうしてもお腹が空いたら飲むと思うので」
「はーい。お湯も入れてくれてるんですね。了解です」
優子先生はぐすぐすと泣くみうちゃんを抱えたまま、次の子どもと母親に笑顔で対応する。昌江先生は同じように笑顔で、母親から受け取った荷物と子どもたちの背中に名前を書いたシールを貼り付けて、荷物の中身の説明を聞いている。お母さんたちが書いてくれた子どもの本日の様子の用紙にもさっと目を通して、黒板に貼っていく。手早いなあ、と感心してしまう。
ずっしりとした抱き心地のけいとくんは、まだ人見知り前らしい。一太が母親から受け取って抱いても泣きもせずに、じいっと一太の顔を観察していた。
うーん、可愛い。
「わ、今日は男の先生がいらっしゃるんですね」
「そうなの、二人ともイケメンでしょ。一太先生と晃先生。みうちゃん、晃先生に遊んでもらう? おもちゃ色々あるよ、見てきて」
「いや」
「うんうん、いやよねえ。あ、優子先生がいい? 優子先生と一緒にいようか」
「いや」
「うんうん。あ、晃先生、預かったお荷物、あちらに置いておいてくれる? そうそう、かごの中。あ、うみちゃん、おはよう。もう遊ぶ? 晃先生、うみちゃん行きましたよー」
「はい」
松島が大急ぎで預かった荷物をかごにまとめて、さっさとサンダルを自分で脱いで託児室へ入っていった二歳のうみちゃんを追いかけた。とても緊張している。
笑顔忘れてるぞって言ってやらなきゃ。
一太がけいとくんを抱いて松島に近寄ろうとすると、大泣きの声が響き渡った。
「うわああああぁ」
「はーい。しゅんくん、また来てくれたの。嬉しいな。お母さん、何か心配なこととかありますか?」
「ぎぃゃああぁ」
いや、心配なことしかないけど。
「あの、私の服とかハンカチとかタオルとか、お気に入りのタオルケットと本人の上着と普段の玩具と色々詰めてきました。すみません、お願いします」
一歳のしゅんくんのお母さんは、一泊旅行ができそうな鞄にしゅんくんお気に入りの品を、これでもかと詰め込んで来たらしい。
「ああ、しゅんくん、いいねえ。たくさんだねえ。お気に入りのタオルケットがあるんですね、分かりましたー。じゃあ、お母さん、いってらっしゃーい」
昌江先生が、自分の荷物を抱えて泣きわめくしゅんくんを少し出入り口から奥に押しやり、流れるように靴と靴下を脱がす。
ぎゃあぎゃあと泣き続けるしゅんくんは、荷物を漁って膝の上に積み上げていく。
「なんか、すごいな」
「うん」
「晃先生、ちょっと来てー。とものりくん抱っこしてあげてー」
「あ、はい」
慣れた様子でブロックの玩具を引っ張り出して組み立てているうみちゃんを二人で見ていると、優子先生からの呼び出しが来た。
「晃先生。笑顔、笑顔」
一太の声に引きつったような笑顔を見せて、松島が出入り口に向かう。
大学では、どんな授業も余裕でこなしている松島の焦る様子が何となくおかしくて、一太はけいとくんをぎゅっと抱き締めながらうみちゃんの横に座った。
ああ、可愛い。
出入り口では、更に二人分の泣き声が加わった。
朝の予約の子どもたちが揃ったらしい。
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