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16 ◇頼ってほしい
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松島は、かたかたと一太の手が震えたことに気付いて、ぎゅっと繋いだ手に力を込めた。どうしたのだろう、と見下ろしてみるが、うつ向き気味のその表情は全く見えない。
店内で離れてしまっていた手をようやく繋ぎ直してほっとしたのに、すぐにはいつものように握り返してくれなくて不安に思っていたのだ。今、ようやくいつも通りの形に手が動いてきたと思ったら、今度は震えている?
「ね、松島くんは何食べたい?」
広い店内をぶらぶらと歩きながら渡辺が可愛らしく見上げてきて、ああ、と思った。繋いでいる一太の手にじっとりと汗を感じる。
昼ごはん代を心配しているんだな。
学食で最も安いうどんを食べ続けている一太だ。外食なんて考えたことも無いに違いない。松島としては、一太の食事代くらい少々値が張っても出してあげることができるのだが、何の理由もないそれを一太は受け取らないだろう。
厄介なことだ。
友達なんだから、少しは頼ってくれてもいいのに。
けれど、一太がそれをしないことは分かっていた。そうすると今できるのは、思いつくことのできる値段の安い場所の提案しかないだろう。
「ハンバーガーが食べたいかな」
「ええ。そんなものでいいの?」
「うん、大好きだよ」
「意外。何か家の人から禁止されてそう」
「え? ハンバーガーを?」
「うんうん。そんなイメージある」
伊東も加わってきてそんなことを言う。
確かに薄味の食事しか取れなかった頃には禁止されていたが、手術で病気が治ってからは好きなものを食べることができている。禁止していたのは家族ではなく医者で、家族は松島を気遣って、一緒に減塩の食事を摂ってくれていた。今も、だいぶ過保護ではあるが、余程の暴飲暴食ではない限り何も言われたりしない。その上この四月からは一人暮らしだから、誰に何を言われることもなく気楽なものである。
「いいな。俺の財布の事情的にもハンバーガーかな」
安部がけろりと援護してくれた。ナイスだ。そういえば、先ほど耳打ちしてくれた注意も助かった。安部が遮ってくれなければ、一太が気に入っていたエプロンを、プレゼントした途端に返品されていたかもしれない。
「フードコートにハンバーガー屋あるし、とりあえずフードコートに移動して好きなものを頼めばいいんじゃない?」
岸田も先ほどから、うまいこと会話を回してくれている。この二人とはこれからも仲良くしていきたい、と松島は思った。きっと、友達の村瀬くんの食生活を見守りたいと思うこの気持ちを分かってくれる。
「あの、俺、もう……」
一太がおずおずと声を上げた。
「買い物できたし、帰ろうかなって」
「あ、何か用事あった? バイト?」
「じゃあ、村瀬くんだけ帰る?」
渡辺と伊東が、当然の反応を返す。この年齢になったら、友達同士で出かけて買い物だけして帰るなんてことはほとんどない。だいたいは、食事もして遊んで、という流れになることは皆分かっていた。
けれど、村瀬くんは分かっていなかったのだろう。でも、ここで一人帰すわけにはいかない。村瀬くんが一人で帰れるとも思えない……。
「ハンバーガーだけ食べて帰ろ? ね? そんなに高くないから。大丈夫だから」
松島は、一太の手を両手で握って必死で説得した。
店内で離れてしまっていた手をようやく繋ぎ直してほっとしたのに、すぐにはいつものように握り返してくれなくて不安に思っていたのだ。今、ようやくいつも通りの形に手が動いてきたと思ったら、今度は震えている?
「ね、松島くんは何食べたい?」
広い店内をぶらぶらと歩きながら渡辺が可愛らしく見上げてきて、ああ、と思った。繋いでいる一太の手にじっとりと汗を感じる。
昼ごはん代を心配しているんだな。
学食で最も安いうどんを食べ続けている一太だ。外食なんて考えたことも無いに違いない。松島としては、一太の食事代くらい少々値が張っても出してあげることができるのだが、何の理由もないそれを一太は受け取らないだろう。
厄介なことだ。
友達なんだから、少しは頼ってくれてもいいのに。
けれど、一太がそれをしないことは分かっていた。そうすると今できるのは、思いつくことのできる値段の安い場所の提案しかないだろう。
「ハンバーガーが食べたいかな」
「ええ。そんなものでいいの?」
「うん、大好きだよ」
「意外。何か家の人から禁止されてそう」
「え? ハンバーガーを?」
「うんうん。そんなイメージある」
伊東も加わってきてそんなことを言う。
確かに薄味の食事しか取れなかった頃には禁止されていたが、手術で病気が治ってからは好きなものを食べることができている。禁止していたのは家族ではなく医者で、家族は松島を気遣って、一緒に減塩の食事を摂ってくれていた。今も、だいぶ過保護ではあるが、余程の暴飲暴食ではない限り何も言われたりしない。その上この四月からは一人暮らしだから、誰に何を言われることもなく気楽なものである。
「いいな。俺の財布の事情的にもハンバーガーかな」
安部がけろりと援護してくれた。ナイスだ。そういえば、先ほど耳打ちしてくれた注意も助かった。安部が遮ってくれなければ、一太が気に入っていたエプロンを、プレゼントした途端に返品されていたかもしれない。
「フードコートにハンバーガー屋あるし、とりあえずフードコートに移動して好きなものを頼めばいいんじゃない?」
岸田も先ほどから、うまいこと会話を回してくれている。この二人とはこれからも仲良くしていきたい、と松島は思った。きっと、友達の村瀬くんの食生活を見守りたいと思うこの気持ちを分かってくれる。
「あの、俺、もう……」
一太がおずおずと声を上げた。
「買い物できたし、帰ろうかなって」
「あ、何か用事あった? バイト?」
「じゃあ、村瀬くんだけ帰る?」
渡辺と伊東が、当然の反応を返す。この年齢になったら、友達同士で出かけて買い物だけして帰るなんてことはほとんどない。だいたいは、食事もして遊んで、という流れになることは皆分かっていた。
けれど、村瀬くんは分かっていなかったのだろう。でも、ここで一人帰すわけにはいかない。村瀬くんが一人で帰れるとも思えない……。
「ハンバーガーだけ食べて帰ろ? ね? そんなに高くないから。大丈夫だから」
松島は、一太の手を両手で握って必死で説得した。
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