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第1章

1-3 本に囲まれた日常③

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 喫茶店に入るなり、自己紹介からはじまった。

「俺はルカ・スィエーナ、よろしくお願いします」

とりあえず、先輩から挨拶しておく。なんとなく。

「ルチア・ファリナ・カメリンです。よろしくお願い致します。ルチアと及びください」

(白髪の子はルチアさんね。)

「はい!私はノエミ・エレナ・ネロです。ノエミで良いですよっ!」

(黒髪の子はノエミさんか。)

「じゃあ俺のこともルカで良いです」

それぞれ、席につき適当にメニューから注文する。俺は小腹が空いていたので、サンドイッチとコーヒーを。ルチアさんとノエミさんは、ケーキと紅茶を選んでいた。

「そうだな、まずは訓練学校卒業おめでとうと、学院入学おめでとう。」

こうやって改めて後輩の人と話すのは初めてかもしれない。

「ありがとうございます!ルカ先輩!」

「うれしい!ありがとうルカ先輩!」

改めて先輩と言われるとむず痒いなぁと思う。訓練生の時は、自分より先輩だらけだったから...とつい一年前のことが遠い昔の様に感じられる。次々に思いを馳せていると、いつの間にか二人から質問攻めにあっていた。訓練学校は学院付属以外もあるので、二人は外の学校だろう学院の中の雰囲気はどうとか、教科は難しい簡単など、期待と不安を混ぜた眼差しで質問を続けて行く。

「ルカ先輩は、訓練校に何年在学されたんですか?」

ルチアさんが聞いてくる。

「三年ギリギリですね、本を読むのは好きなんですが、勉強は嫌いだったので赤点取らないよう頑張りました。訓練生へは三度目の正直で受かりました。」

訓練学校は3年以内に訓練生への試験に合格しなければ、強制的に卒業させられる。ただし、一年に一回受験できるため、3回はチャンスがある。

「私とルーちゃんは二回で合格しました!(ドヤ)」

「ノエちゃん自慢しないの!!すみません悪気はないんですが...」

(お、おう別に気にしてないし...一回の差だろ、たいしてかわんないし...)

はれて学院の訓練生になれば、学院だけの図書の閲覧権と魔導書行使の権利を得る。それが訓練生、司書候補生、司書、大司書、副館長、館長と上がれば、権利が上がっていくという仕組みだ。

「ちなみに、明日から候補生になられるんですよね?やっぱり訓練生の方が職務がきついと聞いています。先輩はどのくらい訓練生だったのですか?」

「......訓練生でした。」

そうですか一年目なんですね!とルチアが言ったところで、二人の頭に??が浮かぶ。そして違和感に気づいたように声を上げて言ってきた。

「一年目ではなくて!一年だけ訓練生だったんですか?たった一年!!?」

「それって!すごいことじゃないの?!!」

(だから言うの嫌だったんだ。絶対理由を聞かれるし、すでに訓練生の何人かに睨まれてるし。候補生からもどんな目をむけられるかわからんし。)

訓練生から候補生になるには、より壁が高い。ランク7の魔導書の扱いが十分でなければならない、9から7の詠唱の暗記問題や実技試験等さまざまな問題をクリアして訓練生の一部が候補生になれる。訓練生のまま年上の人がわんさかいる。及第点いってるかないかの俺が成れたのはあるきっかけと偶然のせいだけど...あまり話したくない。

「ゼンゼンスゴイコトジャナイデスヨ、ウンガヨカッタダケデス」

隠そうとすると逆にボロが出てしまった。かなり不自然な人だよこれは...

「そっかぁ」

「そっかぁじゃなくて!」

ルチアさんにすぐつっこまれた。ノエミさんだけなら、やり過ごせたかもしれないけど大丈夫かなこの子...

「ルカ先輩、一年で候補生になる事は異例だと思います。でも先輩が言いたく無いなら無理には聞きません。」

「大丈夫!です。学院に入れば嫌でも聴こえて来るだろうし!あ、でも噂は嘘が多いんで本当には信用しないですよ!安心して下さい。」

(おぉなんかすごい出来た子達だなホントに後輩か?)

アルバートより大人だぞ...フィルが可愛がりそうな後輩たちだ。後で二人に話してやろう。

「ありがとう二人とも。少し落ち着いたら話そうと思う。もう夕方だし、約束があるからそろそろ行かないと。二人も明日に備えて早く休むんだよ?入学式に遅れない様にね。」

「そうですか、少し残念ですが明日からは同じ学院の中ですからね!楽しみにしています。」

「今日はとても楽しかったよ!ありがとう先輩!」

二人して頭を律儀に下げてくる。こっちも楽しかったし良い時間だったな。

(お茶代を奢って少しでも先輩ヅラしておこう。)



喫茶店で二人と別れたのち、購入した荷物を抱えて待ち合わせ場所の鳥のバラバラ亭へやってきた。ちょうど日没後だったのでよかった。

(二人はもうきているかな?)

入店し、中を見渡したがまだきていないようだった。とりあえず、荷物が重いので四人がけの席に通してもらい、二人を待つことに。中は夕飯時で賑わい、良い匂いがそこかしこに漂っている。ただ座っているのもなんなので、適当に注文し近くの席の人たちの会話に耳を傾ける。

「最近、穿虫せんちゅうが多くないか?貿易に支障が出るな」

「数だけじゃねぇぞ、図体もでかいのがちらほらいるってうわさだ!」

「この前、候補生と軍に死傷者が出たってのは本当かもな!」

「なんでもがカリオペイアに持ち込まれたって話だ」

「虫どもは写本より原典に寄ってくる、信憑性があるな」


穿虫せんちゅう...いわゆる本の虫が魔導書を喰らい、体に魔力を蓄積して変化した害虫。魔導書や写本、人間を襲う。通常、魔導書は本といっても魔力を帯びているため、魔導書の防御機能が働いて虫や水・炎から身を守っている。しかし穿虫の中には防御機能を喰い破る虫が確認されている。今のところ、ランクが低ければ低い本ほど被害にあっている。

(物騒な話だな、やだな明日学院行くの)

幸先が悪いな...やっぱり昇進は無かったことにならないだろうかと項垂れていると、新たに入店してきた二人組が俺を見つけてやってきた。

「おーいっルカ!悪いまたせた!何辛気臭い顔してるんだ?」

「ルカ聞いてくれよ、アルバートがお説教を受けてて遅くなったんだ」

学院内で必要な物を揃えていた、アルバートとフィルだ。予想よりも時間がかかってしまったらしく。少し疲れている様だ。

「さっき着いた所だよ、二人は何かあったのか?またアルバートがやらかしたか?」

アルバートが何か否定しようとしたが、フィルに睨まれとぼけた顔でどこかを向いてしまった。

「アルバートが写本の申請をしたんだが、不備があってな。あと春休み最終日に一度に申請出したから、若干キレられたり、申請中に女子寮に行って寮監のおねぇさんをナンパしていたら司書の先生に見つかって大目玉だった。ついでに男子寮の寮監から今朝うるさかったと、注意をうけた。俺も一緒にな」

淡々と述べるフィルに対してアルバートが後から、言い返す。

「違うんだよ!申請に時間がかかるからって、フィルの所行こうとしたらコイツ庭園で女子とイチャイチャしやがってよ!たまたま女子寮の前を通ったら、おねぇさんがいたから挨拶したんだ!先生には普通に怒られた...フィルと寮に荷物置きに行ったら、また怒られるしよう!あとルカお前も帰ったら注意されると思う。」

(その場にいなくてよかった。ホントに。)

歓談していただけだろう!とか、裏切りものが!などまだ言い合いをしている。

「とりあえず、何か飲もうぜ二人とも。俺ワインで」

無視して店員さんを呼び注文していく、二人も落ち着いたのか自分の品を頼んでいく。

(アルバート自分の奢りって覚えてるよな?)

一抹の不安を抱えながら、空腹を満たしていった。
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