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第1章
1-4 本に囲まれた日常④
しおりを挟む言い合いをしていた二人の会話は、お腹が満たされていくにつれ収まってきた。いつもの調子になってきてふと、フィルがそういえばと話題をふる。
「庭園で聞いたんだが、虫が多くなってきているらしい。虫除けのラベンダーがこのままだと例年より少なくなってしまうみたいなんだ。写本は要注意だな。」
普通の本ならまだしも写本だって一応は魔力を持っているので大丈夫ではなかろうか?と思っているとアルバートが口を出す。
「いちいち天日干しするの面倒だ‥‥でも大丈夫だろ!学院の図書館は一つの結界だから、虫すら入れないし。都市の方の結界は穿虫用、候補生以上と軍が24時間警備してるし。」
魔導書と写本は学院の完全管理下のもと本の虫を殺す結界を張っている。都市も外から穿虫が侵入しないよう結界と警備体制が整っている。ラベンダーは改良を重ねてかなりの虫除け効果があり、学院製のラベンダーは街でも人気だ。
「俺もさっきその話聞こえてきたぞ、異国の本が高くならなければ良いけどな。」
問題は貿易に支障が出て、まだ見ぬ本に出会えなくなることがつらい。ハァ‥‥とため息を着いていると、何人ごと言ってるんだよと皮肉をこめてきた。
「ちゃんと警備しないとな、候補生さん♪」
(お前は人ごとだもんな!!)
おい煽るなとフィルが嗜める。フィルは俺が候補生になりたくない理由をわかってくれている。
「危険な任務が増えるなルカ。でも今まで通りとは行かないが、俺たちも応援しているぞ。それとすぐオレは追いつくからな」
「おい!俺たちじゃないのかよ!俺もすぐ追いつくぞ!あと、フィルはすぐ面倒ごとに巻き込まれるからほっとけないしな!」
ほとんどアルバートのせいだけどな!!!お前が巻き込んでんの!と心でつっこむ。思えば一年よくやってこれたな‥‥‥でも二人がいなければ今頃どうなっていたことか。
「すまない二人とも。俺だけ昇進する形になってしまって‥‥」
望んでいるものからすれば、昇進に否定的な自分はよろしく見えないだろう。
「何言ってんだ、俺たちの中じゃルカが候補生に成るのが一番妥当だ。しょうがねぇし、もっと自信もてよ。」
アルバートも色んな事情をわかった上で言ってくれているのだ。
「あの時はルカがいなかったら、生きていなかったかもしれない。的確な判断だった、感謝しているよ。」
つい、二ヶ月ほど前はいつも通りだった。偶然にも幸運なんだろうなこんな時間があるのは‥‥今ある日常をしみじみ噛み締めている。
「俺こそ二人には感謝しているさ、言いたいことは山ほどあるがな。」
二人はなんだよ‥‥と視線をむけてくるが、ワインを飲んでスルーする。アルバートは大半のトラブルを持ち込んでくるし、フィルは頭が硬い部分があるし、飛び火とフォローが耐えなかった。
その後、どうでもいい話をしながらしゃべり、あっと言う間に時間が経ってしまった。
(寮の門限過ぎた‥‥どうしよう)
ラストオーダーを取りに来た定員さんに酔い覚ましのお冷を注文し、店を出る準備をする。
「すまないねぇ宿を利用しているお客さんはまだ大丈夫だけど、食事だけのお客さんはここまでなんだよ。」
水一気に飲み干して、大丈夫ですごちそうさまとお礼を言って店を出る。アルバートが先に出ようとしていたので、首根っこを捕まえてカウンターの前に立たせた。外の気温はまだ寒く、良いがすぐ覚めていく。アルバートの懐はもっと寒そうだった。
「とりあえず、歩くか。」
月明かりだけで照らされた夜道を三人並んで帰路に就く。フィルはアルバートの荷物を半分持ってあげている、甘やかすな。
「何で荷物こんなあんだよっ多くね?」
こいつときたら‥‥人に買わせておいて文句を言うアルバートに理由を説明してやる。
「店に行ったらさ、アルバートのお使いって言ったら色々おまけしてくれてさ、ラッキーだった。お前そういうところすごいよな。」
街でよく遊んでいるアルバートは店の主人達とも顔見知りになっていた。こっそり俺の分もまけて貰っている。特に必需品はとても助かっていた。買い物途中に伝言を預かっていたのを思い出す。
「あぁ、そうだアルバート。水屋のお姉さんから『次はいつ来るの?』だって伝えといてくれってさっ」
会ったのかよ‥‥と羨ましそうに俺を見てきた。
「俺が買い物行けば良かった!もし会ったら絶対行くからって伝えてくれ!!フィルも頼む!」
あーはいはいと生返事している。そういえばもう一つあったんだっけ、後輩二人のことだ、面白いから紹介しよう。
「実は今日な、後h」
言いかけた時フィルの様子がおかしく、何か遠くの方を見ていた。アルバートも異変に気づいて黙る。気配を集中してみると違和感が押し寄せる。
「静かだ‥‥イヤに静かで、重々しい。」
感じた胸騒ぎが的中するかのように何処かで悲鳴が聞こえてきた。
いつもなら、喧嘩や酔っ払いトラブルがたまにあって、またかと思うが今日は違う。明らかに違和感が漂う。三人はフードを深く被り、悲鳴の元へ走りだす。
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