上 下
52 / 89

生配信20 焼肉会2

しおりを挟む
「はい、滝です」

 待ち合わせ場所の近くにある喫茶店で休憩をしていると、スマホが鳴る。

 LINEからの着信。画面にはの4文字が表示されている。

『すみません、送れました。今、ハチ公前にいます』

「はーい。そこで待ってて貰えますか?」

『了解でーす』

「ちなみに、佐々木さんもそこに居ますか?」

『2人一緒にいまーす』

「了解です。今から向かいます」

 通話を切り、スマホの時計を見る。

 現在時刻は、17時35分と。35分の遅刻だ。

「なんだって?」

 俺の横でアイスコーヒーを飲んでいる聡太さんが訊いてくる。

「今、着いたそうです」

 アイスティーをズズズッと飲み干し、スマホをポッケに突っ込む。

「サキサキさんって、そんなに美人さんなの?」

 興味津々のワンスこと一美さん。先程まで遅れた2人について話していたので、若干興奮気味。

「そうですね。このクソイケメンの聡太さんと並んでも、タメを張れるほどの美人さんですね」

「よせよ、褒めるな」

 褒めたつもりはないんですけど? クソが付いてる時点で、貶しているつもりなんですけどね?

「まじか! このイケメンの聡太君と同じぐらいの美人さんなんだ!」

 早く会ってみたい、って顔の一美さん。一方、ゼロスこと零さんは、

「すぅー、緊張してきた。ちゃんと話せるかな?」

 初対面には弱いらしく、緊張気味。

「大丈夫、大丈夫。基本、ポンコツだから。あの人」

 聡太さんがフォローに回り、アイスコーヒーを飲み終える。

「さて、じゃあ、迎えに行きますか」

 みんながみんな、注文したドリンクを飲み終えたので、席を立ち、お店を出る。

 ハチ公像前まで、そう距離はないので喋りながら歩いていくと、1人だけ凄い存在感の女性が居るのが見える。

「もしかして、あれ?」

「あっ、更に緊張してきた」

 一美さんと零さんにも見えたらしい。

 俺と聡太さんは「「そうです、あれです」」と指差しながら伝えた。

 指を差している俺と聡太さんに、佐々木さんが気付いたのか、横にいる女性の手を取り、こちらに向かってくる。

 あの横にいる人が絵茶さんか。確かに学生だな。

 パッと見て、学生だと分かる。

 何故かって?

 だって、

「なんで制服で来てんの? コスプレかなんかか?」

 制服でこっちに来てるんだもの。

 ちなみに、聡太さんだけが知らない。絵茶さんが高校生だということを。

「すみません、遅れてしまって」

 申し訳無さそうに謝る佐々木さん。

 遅れたわけを訊くと、どうやら今日の10時ごろからこの2人は遊んでいたらしく、遊び疲れて寝てしまったらしい。

 可愛い理由だこと。

「まあ、許すには許しますけど、罰は受けてもらわないと。そうだな………牛タンは無しって事で」

「「ええ!」」

 なんですか、その悲しそうな顔は。

 冗談ですよ、と心の中で呟く。

「そうだな、30分異常遅れている訳だし。カルビもなしって事で」

「「う、うそだ」」

 聡太さんの言葉により、悲しそうな顔から絶望した顔へと変化する。
 
「そういう流れなら、ロースなんかもダメにする?」

「「………」」

 涙目になってますよ、お2人とも。

 俺が牛タンで、聡太さんがカルビ。一美さんがロースか。焼肉屋行く意味がなくなってきてるな。

 涙目の2人は、まだ発言していない零さんに希望の眼差しを向ける。しかし、

「………サンチュだけなら食べていいですよ」

 最後の希望だと思っていた男から伝えられた言葉は、死亡宣告そのものだった。

「………私もえっちゃんも、芋虫じゃあない」

「………肉、肉が食べたかった」

 ポロポロと溢れる涙。

 こんな所で号泣されても困るので、「冗談ですよ、冗談」と伝えると、フラフラっと俺に近づき、

「牛タン食べていいんですか?」

「カルビもロースもハラミも?」

 すがるように服を掴んでくる。

「ちょ、離して」

 距離が近い! 美女と女子高校生に迫られる気分は、正直とてもいい気分なのだが、周りの目がキツい。

 ほら、そこら中の人がこっち見てますよ! 目立っちゃってますから、離れて!

 2人の頭を押し、服から剥がす。

 剥がれた2人に対して、俺からの答えは、

「おほん。食べても良いですけど、条件があります。まずは、自己紹介! ちゃんと出来たら、奢りますよ」

 挨拶しなさい、というものだった。

 こうしてメンバーが無事集まり、各々、自己紹介をする。

 知っている者同士だろうが、先程挨拶したばかりだろうが、1から自己紹介をするのであった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「えっ? じゃあ、絵茶さんはマジの高校生なの? んで、絵茶っていうのが本名?」

「はい! そうですよ!」

 事実を知った聡太さんは「コスプレじゃなかったんだ」と制服を見て言う。

 絵茶こと、桜田絵茶さくらだえちゃは、現在17歳の高校2年生らしい。

 身長160ピッタと少し小さいが、ポニーテールと小柄がマッチしていて可愛らしい女の子に見える。配信でのブラック絵茶が、演技なのではないか、と疑いたくなる。
 
「顔、ちっちゃいね! 絵茶は将来、小悪魔女子になるかもな!」

「ふふふ、褒めないでよ、ワンちゃん!」

 笑う姿は年相応で、幼く見える。童顔だからなのかもしれない。

「美玲ちゃんも本当に聞いた通りの美人さんだね? 私が男だったら抱いてるね、確実に」

「だ、抱くって、そんな」

 若干下ネタに分類される言葉を聞き、顔を少し赤らめる佐々木さん。

 一美さんは興奮しているらしく、佐々木さんと絵茶さんに絡んでいく。

 あの2人のことは一美さんに任せるとして、

「絵茶さんの名前が本名なら、苗字で呼んだ方が良いですかね?」

 身バレの要素が増えたため、男性陣は緊急会議を開いていた。

「確かに、名前バレから身バレするかもしれないし、危険ですね」

 今日集まったメンバーは素顔をバラしていない。零さんの言う通り、名前から身バレする恐れが出てくる。

「じゃあ、どうする? 佐々木さんみたいにえっちゃんって呼ぶか? ってか、呼べるのか、お前ら?」

 聡太さんの問いに、俺と零さんはそっぽを向く。

 呼べる訳あるか! もし、えっちゃん呼びで呼んで、「はあ、馴れ馴れしいんですけど? マジきもいわ」なんて言われてみろ。俺、配信活動やめて、一生引きこもる自信あるわ。

 ってか、女子高生という存在に恐怖してるんだから、俺は。

 女子高生の絵茶さんの呼び方について、3人であれやこれやと考えていると、

「何してるんですか?」

 佐々木さんが不思議そうな顔してこちらを見ている。

「男子だけでコソコソして怪しい! エロい話でもしてたんじゃないの?」

「うわ、無いわ。男子は脳内ピンク色だから近づかないどこ」

 一美さんの煽りに、乗っかる絵茶さん。

「あんま調子に乗んなよ、一美。はしゃぎ過ぎてると、痛い目見るぞ」

 おちょくってくる一美さんに、零さんが強く出る。ってか、名前呼びなんですね、零さん。

「痛い目なんて見ないから。ってか、マジでエロいこと考えてたら殺すぞ、零」

 強く出た零さんに、反論する一美さん。嫉妬ですかね、一美さんの最後の一言は嫉妬から出てきたんですかね?

 2人の間に険悪ムードが流れるが、それは置いといて、俺は今話していた懸念事項を女子3人に話す。

 すると、

「苗字で呼べば良いんじゃ無いの、普通に」

 何当たり前なことを難しく考えてんの、みたいな顔で最適解な案を出す絵茶さん。

 うん、そうだね。普通に考えて苗字で呼べばいいね。

 全く思いつかんかったわ。

 でも、素直に思いつかなかったとは、言いたく無いので、

「はあ、面白味もない案だなぁ。でも、それしか無さそうなんで、苗字読みにしますわ。ありがとうね、桜田さん」

「はあ⁉︎」

 決して負け惜しみとかではないよ。大切なことなので、2回言うけど、負け惜しみじゃあないからね!

 こうして絵茶さんだけは苗字読みとなり、緊急会議はこれにて終了となる。

 えっ? 聡太さんはそのままなのかって?

 いいんじゃない? 聡太なんて名前どこにでもいるでしょ!

 聡太さんの場合は適当になるが、それでよし。イケメンなどぞんざいに扱うのが、正しい扱い方なんだから。

 とまあ、メンバーも集まったことだし、そろそろ予約した焼肉店に行かなくては。

「18時予約なので、そろそろここを離れなきゃいけません。ついてきて下さい」

 道案内のため先頭を歩く俺。

「おい、コラ! 何が面白みのない案だ? 面白い案出してみろよ! 聞いてんのか、コラ」

 絵茶さんを無視して歩く。焼肉屋に着くまで、永遠と背中を叩かれ続けたが、気にしない。

 背中が赤く染まっている気がするが、気にしない。

 絵茶さんだけでなく、佐々木さんも面白がって叩いているが気にしない。

 気にしないって言ったら、気にしなあああああい!


 
 





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

イルカノスミカ

よん
青春
2014年、神奈川県立小田原東高二年の瀬戸入果は競泳バタフライの選手。 弱小水泳部ながらインターハイ出場を決めるも関東大会で傷めた水泳肩により現在はリハビリ中。 敬老の日の晩に、両親からダブル不倫の末に離婚という衝撃の宣告を受けた入果は行き場を失ってしまう。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

転校してきた美少女に僕はヒトメボレ、でも彼女って実はサキュバスらしい!?

釈 余白(しやく)
青春
 吉田一(よしだ かず)はこの春二年生になった、自称硬派な高校球児だ。鋭い変化球と抜群の制球で入部後すぐにエースとなり、今年も多くの期待を背負って練習に精を出す野球一筋の少年である。  かたや蓮根咲(はすね さき)は新学期に転校してきたばかりの、謎めいてクールな美少女だ。大きな瞳、黒く艶やかな髪、凛とした立ち姿は、高潔さを感じるも少々近寄りがたい雰囲気を醸し出している。  そんな純情スポ根系野球部男子が、魅惑的小悪魔系女子へ一目惚れをしたことから、ちょっとエッチで少し不思議な青春恋愛ストーリーが始まったのである。

冬の夕暮れに君のもとへ

まみはらまさゆき
青春
紘孝は偶然出会った同年代の少女に心を奪われ、そして彼女と付き合い始める。 しかし彼女は複雑な家庭環境にあり、ふたりの交際はそれをさらに複雑化させてしまう・・・。 インターネット普及以後・ケータイ普及以前の熊本を舞台に繰り広げられる、ある青春模様。 20年以上前に「774d」名義で楽天ブログで公表した小説を、改稿の上で再掲載します。 性的な場面はわずかしかありませんが、念のためR15としました。 改稿にあたり、具体的な地名は伏せて全国的に通用する舞台にしようと思いましたが、故郷・熊本への愛着と、方言の持つ味わいは捨てがたく、そのままにしました。 また同様に現在(2020年代)に時代を設定しようと思いましたが、熊本地震以後、いろいろと変わってしまった熊本の風景を心のなかでアップデートできず、1990年代後半のままとしました。

処理中です...