50 / 89
生配信20 将棋って知ってる?
しおりを挟む
「どうも、滝です!」
午前中に家事を終わらせ、昼配信を始める。
『こん!』
『こん!』
『自己紹介短くね?』
『やる気あんの?』
『自己紹介やめたの?』
配信を始めると、早速リスナーさん達から指摘を受ける。
「………じゃあ、気を取り直して。どうも、今日もゲーム配信。配信者はお馴染み、Takiチャンネルの滝です! これでいい?」
『自己紹介なが』
『配信始まった感があっていいね』
『最初っからやればいいじゃん』
『やる気なかったのか?』
別にやる気がなかったわけじゃあないんだけど。
「いやね、ちょっと挨拶を変えたら、どんな反応見せるか気になってさ。昨日の昼配信で『自己紹介飽きなの?』みたいなコメントが来たから、ちょっと短くしてみた」
まあ、反応は人それぞれだけど、やっぱ今の挨拶の方がしっくりくるな。変える必要性は無さそう。
さて、挨拶も改めてやったことだし、早速ね。
「今日配信するゲームは、任天堂Switchのゲームソフト『アソビ大全』をプレイしていきたいと思っています」
『おお!』
『じゃあ、リスナー参加型?』
『俺も持ってる!』
『今からダウンロードしてきます』
「ちなみにどういうゲームかというと」
各国のボードゲームやカードゲームが種類収録されていて、51種類のゲームがこのソフト1本で出来る。
『アソビ大全』は1人で遊びこともできるし、友達や家族、オンライで通信すればネット上の人とも遊べるゲームなのだ。
とまあ、簡単にゲームソフトの説明し、俺は『アソビ大全』を配信画面に載せる。
「んでね、今日はね、この『アソビ大全』に収録されているボードゲーム1種だけをやっていこうかな、って思ってて」
『1種のみ!』
『51種類あるうちの1種だけ?』
『その1種とは?』
『アソビ大全じゃなくても良くね?』
リスナーさん達の言っていることは「確かにそうだ」と言いたくなるが、
「別に1種だけでも良いじゃん! 俺の配信なのだから、俺の好きなように遊ばせてくれよ」
やりたいようにやらせてくれ、と言ってみる。
『まあ、良いけどさ』
『んで、その1種とは?』
『仕方ないな。何で遊ぶ?』
『どれだい? どれで遊ぶ?』
何で、俺のコメント欄には上から目線で言ってくる人が多いんだろう。しかも、仕方ない感出してくるコメント打ち込んでさ。
まあ、良いけどさ。コメント打つのは自由なんだし。
「ええ、じゃあ、今回やるボードゲームは」
配信内容をここで伝える。
「ドルルルルルル」
ドラムロールを口ずさみ、
『はよ、教えろ!』
『下手か、ドラムロール!』
『聞くに堪えない』
『え、下手!』
コメント欄ではバッシンクを受け、
「ドドン。今日は将棋をメインでやっていこうと思います! さあ、拍手!」
俺は、配信のメインは将棋だと宣言する。
『マジでこのソフトじゃなくてもいい説』
『ねぇ、将棋のゲームソフトとかあるのに、何でこのソフト選んだの?』
『あまり言ってやるな、みんな。滝は、お馬鹿さんなの』
『ああ』
『なるほど』
『温かい目で見守っとこうぜ!』
「おい、やめろやめろ! 可哀想な子なんだな、みたいなコメント打つな! それが1番、腹立つ」
『効いてる』
『効果抜群のようだ』
『痛い? ねぇ、痛いの?』
『どこが痛いのかな? 心かな?』
なんなの、今日は? やたらと棘のある言葉ばかりコメント欄に流すやん。
もしかして、
「今日はどうした! いつにも増して攻撃的だね? もしかして、サキサキさん、絵茶さん達とご飯食べにいくから、羨ましくて攻撃的なのかな?」
もしかしたら、ご飯会のせいでこうなっているのでは?
そう思い、煽るように言ってみると、コメント欄の流れが若干遅くなる。
「あれ? 図星ですか?」
散々言われたのだから、俺も追い討ちをかけるように煽っていく。
すると、コメント欄が目で追えないくらい早く流れていくではありませんか。
『調子乗んな! おう、将棋でもなんでもやってやろうじゃあねぇか!』
『おめえ、1勝も出来ると思うなよ!』
『メンタルボコボコにしてから、送り出してやるよ!』
『は? 顔面出せよ。両頬グーパン入れてやるからよ!』
ははは、図星図星!
「悔しいですか? 悔しいですよね? ………1勝もさせないようにしてやる? やれるもんならやってみやがれ! 是が非でも1勝してやるよ!」
売られた喧嘩は買うのが俺の流儀。どっからでもかかってきやがれ!
とは、思いつつ、
「でも、ただ単に楽しみたいっていう人は、対戦する前にコメント欄で『楽しくやりたいです』と打ち込んでください。そのコメントを見た人達は、全力で教えてください。それだけはお願いします」
『了解!』
『任せろ』
『じゃあ、滝に1勝もさせたくない奴らは『かかって来いよ!』にしようか?』
『そうだな。分けた方がいいな』
こういうところは協力的で有難い。
「じゃあ、1局目いきましょうか」
オンラインで将棋を選び、マッチングがされるのを待つ。
こうして、俺と俺を憎んでいるリスナーさん達との戦いが始まる。
「1局目! コメント欄!」
『楽しくやりたいです、だって!』
『楽しく!』
『楽しく』
初戦目は楽しくやっていきますか!
「さて名前は、っと」
俺のSwitchアカウントの名前は『タキ』になっている。カタカナにしている理由は特にない。
そして、対戦相手のアカウント名は、
「………『調子に乗るな』」
………ん、誰に対して言ってんの? これ俺に向けて言ってんのかな?
えっ、でも、コメントには『楽しくやりたい』って書かれてたんでしょ?
ちょっと聞いてみるか。
「これってどっち? 楽しくやりたいの? それとも煽りリスナーさん達の仲間なの? どっちなの?」
『名前からしてこっち派』
『あっち派でしょ』
『そっち派じゃあないの?』
「あっちこっちそっち、なんて使うんじゃあねぇよ! 俺の出した選択肢にはないから!」
『多分、煽り派の仲間じゃないですかね?』
『名前からして煽ってきてる』
『煽り派のような気がする』
そうそう、こういうコメントを求めてたの!
「じゃあ、この人は煽り派として扱います。んで、この人に将棋で勝てば、1勝って事でいいんだよね?」
『おい、負けんなよ!』
『滝、負けろ!』
『これは滝の負けですね』
『負けんなよ!』
1人だけ未来見えてるやついるんだが。
まあ、負けらんない勝負って事ですよね。じゃあまあ、俺の本気を見せてやりますか!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
5分後。
「あれ? 銀って駒、横いけないんだっけ?」
「あっ、飛車は斜め無理なんだ」
「香車は進んだら後ろに下がれないんだ!」
そして、
「詰みって何?」
『負けなんよ』
『もう逃げ場ありませんって意味』
『負け』
『もう手がありませんって意味』
そうそうに負けてしまった俺。
『ってかさ』
『もしかして』
『まさかさ』
『『『将棋やった事ないの?』』』
あはははは、バレてしまいましたか。
「実は、ルールは若干知っている程度で、1度も遊んだことありません」
昔やらなかったか、って? やったことがないんですよね、実は!
そんな初心者の俺に向けて、
『あんなに啖呵切ってたのに?』
『あんだけ強気だったのに?』
『初心者なのに、勝てる気でいたの?』
『将棋って結構難しいんだよ?』
煽っていたリスナーさん達も俺を応援していたリスナーさん達も、揃いに揃って聞いてくる。
「そうですけど何か?」
えっ、いけない? 初心者だけど啖呵って切っちゃいけないの?
な訳ないよね!
己を強く見せるには、強気で出ていく必要があるよね………なんて、ただ単純に何も考えずに強気に出ただけなんだけどね。
まあ、そんなことは置いといて、
「将棋っておもろいな。次、行こう。2局目行きましょう!」
「初戦の人対ありでした!」と感謝をし、次の1局に向かう。
さて、次の人のアカウント名は———『うんこ』と。
「じゃあやろうか、うんこ」
『うんこがんば!』
『うんこがんば!』
『うんこ、まあがんば』
『うんこ負けるなよ』
俺もだが、リスナーさん達みんな、対戦相手のアカウント名見ても反応が薄い。
それはそうだよね。だって、面白みも欠けるし、汚いだけだし。
ちなみに、アカウント名からして、煽ってきたリスナーさん達の1人でしょう。
2局目が今始まり、数手打っただけなのだが、
『その手は悪手の様な』
『そこに置いちゃあ』
『待て、早まるな!』
『他の手を考えろ』
などなど、リスナーさん達からダメ出しコメントがチラホラと見て取れる。
「ちょっと指示出しは無しで。1対1の真剣勝負なんで、何か言いたい時は『うんうん』ってコメント打ち込んでください」
こうすれば『あーあ』とか『え?』みたいなコメントでコメント欄が埋まらなくなる。
我ながら完璧。これで将棋に集中できる。
集中して2局目に挑むこと4分。
「また負けてしまった」
2戦目0勝2敗と酷い結果を残してしまっている。
「でもまだ、始まったばっかだしね! 勝てばいいのよ、勝てば。何戦もやって学習して勝ちますよ!」
そう言ったものの、3局目。
「飛車狙いとは。残念だが取らせないよ」
『うんうん』
パチッ!
「あああ、王様取られた!」
『うんうん』
4局目。
「攻めあるのみ!」
『うんうん』
「角行が! なら飛車を!」
『うんうん』
「角行! 飛車! ああああああ!」
5局目。
「金、銀、桂馬! 返して、俺の駒!」
『うんうん』
「飛車よ、飛べ!」
『うんうん』
「すぅー、ああああああああああ!」
5戦0勝5敗。
「まあまあ、始まったばっかだしね。学習してますから」
『学習? どこが?』
『学習って言葉理解してる?』
『学習って調べた方がいいよ』
『学習してない!』
「学習って言葉ぐらい知っているわ! あと、学習してないって言い切るんじゃあねぇ」
ほんとウチのリスナーさん達は素直で辛辣で、可愛くないよな。
「もっとさ、優しい言葉を掛けてくれないかな?」
『優しいって何?』
『優しいって言葉知らない!』
『日本語って難しいね?』
『滝に優しくしても一文の徳にもならん』
プチン。
「何が『日本語って難しいね?』だ! 絶対お前日本人だろうが! あと、一文の徳にもならないって何? 優しくしろよ、なあ!」
キレちまったぜ。久々にプチンといってしまったぜ。
『効いてる効いてる』
『空気悪くね』
『かかせんな』
『効果抜群の様だ』
「あああああああああ!」
バンッ!
こいつら、楽しんでやがるな!
見てろよ! 絶っ対1勝してやる。
俺は心にそう誓い、次の対戦に向けて闘志を燃やす………つもりだったが、コメント欄にあの人が現れ、矛先はリスナーさん達からその人へと変わる。
『Souちゃんチャンネル : 電話を無視した挙句、俺のTwitterを意見箱みたいな扱いしてくれたな』
そう、聡太さんが現れたのだ。
「あれ、どうかしました? 電話? はて、記憶にございませんな」
嘘である。聡太さんは文句を言うために、俺に何度も何度も電話してきた。
それを俺は、「うるさ。スマホの電源落とそう」とスマホの電源を落として、無視を続けていたのだ。
『聡太さんのツイッターwww』
『俺は送った。だって、滝の指示に従っただけだもん』
『滝が悪い』
『意見箱化したか、、、』
おいおい、送ったら同罪だぜ?
俺1人の罪ではないんだよ、リスナー諸君。
「まあまあ、落ち着きなさいな。かっかせんといて」
『Souちゃんチャンネル : 喧嘩か? 謝罪はなしか?』
「はて、謝罪ですか? して欲しいんですか?」
まあ謝罪は求めてくるよな。
でもね、聡太さん。
その呪いのメッセージの送り主さん達、サキサキさんと絵茶さんのリスナーさん達なんですよ。
つまり、俺のリスナーさん達が送ったわけでないため、俺があなたに迷惑をかけたわけではない。
しかも、俺は「聡太さんに送ってくれ」ってお願いしただけであって命令したわけじゃない。強制はしてない。
送った人たちが悪いわけで、悪者は送り主だけなのよ。
そう説明すると、
『確かにw』
『滝は悪くないな』
『お願いだったたか! 命令されてると思って送っちゃった!』
『言い訳臭くて草』
リスナーさん達もノリが良いため、俺の言葉に賛同してくれる。
みんなで言い訳して、罪から乗り切ろう!
俺らの言い訳を聞いた聡太さんは、『ああ、そうか。なら仕方ないな』と言う——訳なく、
『Souちゃんチャンネル : ふざけろ! お前!』
許してはくれないらしい。
ならさ、
「聡太さん。なら、勝負しましょう。将棋で聡太さんが勝ったら、土下座でも何でも配信でしますよ。その代わり俺が勝ったのなら、俺とリスナーさん達を許してください」
こうやってリスナーさん達を巻き込むことで、味方につける戦法なんだが、聡太さんは勝負に乗ってくれるだろうか?
ここはダメ押しで、
「怖いならいいですよ、戦わなくても。チキンと言う称号を貴方に授けましょう」
『Souちゃんチャンネル : 調子に乗るなよ! 買ってやるよ、その安い挑発をよ!』
はい、煽り耐性の低いやつは、扱い易くて助かりますと。
さあ、リスナーさん達。この愚か者をボコボコにしてあげましょう!
6局目の対戦相手は、聡太さんとなった。
「じゃあ、始めますか。先手は俺からで」
パチン、と先程までの対局で学んだことを生かす。
何十手か打ち合っていると、少し不味い展開に追い込まれている。
「ここはどうすれば」
コメント欄には俺の指示通り、『うんうん』の文字が数多く流れている。
リスナーさん達に助けを求めても良いのだが、多分この配信を聡太さんは見ながら対局している。
声を出して助けを呼ぶことはできない。でも、俺の知識ではもう分からない。
ならば!
『Takiチャンネル : 助けを求む』
とコメントを打ち込む。
すると、数々の指示がどんどん打ち込まれてくるではないか。
数ある内のコメントから、多そうな手を見つけ、それ通りに打っていく。
ゲームに集中している聡太さんは、俺が打ち込んだコメントに気づいておらず、何も言ってこない。
フハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
聡太さん、貴方の敗北は決定事項なのですよ! なにせ、1対1の勝負と思っているのは貴方だけで、本当は1対約1600人のリスナーさん達と俺の戦いと化しているのですから。
俺はリスナーさん達の指示通りに将棋を打っていく。打っていくことものの4分で、
『Souちゃんチャンネル : 負けた?』
聡太さんの詰みになり、俺は勝つことができた。
「聡太さん。将棋って知ってる? 頭の良い人や先を見る事が出来る人が勝つボードゲームなんですよ? つまり、貴方は俺よりも下の存在なんですよ! 出直してこい!」
卑怯だって? はぁ? 誰も俺1人で戦うとは言ってませんけど? 俺は「勝負しましょう」と言っただけ。勘違いしたのは聡太さんなんだから、卑怯と言われる筋合いはない!
『Souちゃんチャンネル : クソ! どうせリスナーから知恵を借りたくせに! 覚えてろよ!』
そう言い残し、聡太さんは去っていった。
ああ、なんかもう聡太さんに勝っただけで満足しちゃったな。
リスナーさん達への怒りは消え去り、今は聡太さんに勝った優越感しか無い。
「じゃあ、まあ、この後の対局はまったりやりますか?」
何故だろうな。あの人に勝っただけなのに、心に余裕ができた。
まだ配信時間は2時間あるわけだが、その2時間は心穏やかに将棋をさせそうな気がする。
「さあ、次の対局行きますか? もう勝ち負けなんてどうでも良くなっちゃった。楽しく打ちましょう」
『はーい』
『はーい』
『はーい』
『はーい』
残りの時間、リスナーさん達に戦術や定石を教えてもらいながら、将棋を指すのであった。
午前中に家事を終わらせ、昼配信を始める。
『こん!』
『こん!』
『自己紹介短くね?』
『やる気あんの?』
『自己紹介やめたの?』
配信を始めると、早速リスナーさん達から指摘を受ける。
「………じゃあ、気を取り直して。どうも、今日もゲーム配信。配信者はお馴染み、Takiチャンネルの滝です! これでいい?」
『自己紹介なが』
『配信始まった感があっていいね』
『最初っからやればいいじゃん』
『やる気なかったのか?』
別にやる気がなかったわけじゃあないんだけど。
「いやね、ちょっと挨拶を変えたら、どんな反応見せるか気になってさ。昨日の昼配信で『自己紹介飽きなの?』みたいなコメントが来たから、ちょっと短くしてみた」
まあ、反応は人それぞれだけど、やっぱ今の挨拶の方がしっくりくるな。変える必要性は無さそう。
さて、挨拶も改めてやったことだし、早速ね。
「今日配信するゲームは、任天堂Switchのゲームソフト『アソビ大全』をプレイしていきたいと思っています」
『おお!』
『じゃあ、リスナー参加型?』
『俺も持ってる!』
『今からダウンロードしてきます』
「ちなみにどういうゲームかというと」
各国のボードゲームやカードゲームが種類収録されていて、51種類のゲームがこのソフト1本で出来る。
『アソビ大全』は1人で遊びこともできるし、友達や家族、オンライで通信すればネット上の人とも遊べるゲームなのだ。
とまあ、簡単にゲームソフトの説明し、俺は『アソビ大全』を配信画面に載せる。
「んでね、今日はね、この『アソビ大全』に収録されているボードゲーム1種だけをやっていこうかな、って思ってて」
『1種のみ!』
『51種類あるうちの1種だけ?』
『その1種とは?』
『アソビ大全じゃなくても良くね?』
リスナーさん達の言っていることは「確かにそうだ」と言いたくなるが、
「別に1種だけでも良いじゃん! 俺の配信なのだから、俺の好きなように遊ばせてくれよ」
やりたいようにやらせてくれ、と言ってみる。
『まあ、良いけどさ』
『んで、その1種とは?』
『仕方ないな。何で遊ぶ?』
『どれだい? どれで遊ぶ?』
何で、俺のコメント欄には上から目線で言ってくる人が多いんだろう。しかも、仕方ない感出してくるコメント打ち込んでさ。
まあ、良いけどさ。コメント打つのは自由なんだし。
「ええ、じゃあ、今回やるボードゲームは」
配信内容をここで伝える。
「ドルルルルルル」
ドラムロールを口ずさみ、
『はよ、教えろ!』
『下手か、ドラムロール!』
『聞くに堪えない』
『え、下手!』
コメント欄ではバッシンクを受け、
「ドドン。今日は将棋をメインでやっていこうと思います! さあ、拍手!」
俺は、配信のメインは将棋だと宣言する。
『マジでこのソフトじゃなくてもいい説』
『ねぇ、将棋のゲームソフトとかあるのに、何でこのソフト選んだの?』
『あまり言ってやるな、みんな。滝は、お馬鹿さんなの』
『ああ』
『なるほど』
『温かい目で見守っとこうぜ!』
「おい、やめろやめろ! 可哀想な子なんだな、みたいなコメント打つな! それが1番、腹立つ」
『効いてる』
『効果抜群のようだ』
『痛い? ねぇ、痛いの?』
『どこが痛いのかな? 心かな?』
なんなの、今日は? やたらと棘のある言葉ばかりコメント欄に流すやん。
もしかして、
「今日はどうした! いつにも増して攻撃的だね? もしかして、サキサキさん、絵茶さん達とご飯食べにいくから、羨ましくて攻撃的なのかな?」
もしかしたら、ご飯会のせいでこうなっているのでは?
そう思い、煽るように言ってみると、コメント欄の流れが若干遅くなる。
「あれ? 図星ですか?」
散々言われたのだから、俺も追い討ちをかけるように煽っていく。
すると、コメント欄が目で追えないくらい早く流れていくではありませんか。
『調子乗んな! おう、将棋でもなんでもやってやろうじゃあねぇか!』
『おめえ、1勝も出来ると思うなよ!』
『メンタルボコボコにしてから、送り出してやるよ!』
『は? 顔面出せよ。両頬グーパン入れてやるからよ!』
ははは、図星図星!
「悔しいですか? 悔しいですよね? ………1勝もさせないようにしてやる? やれるもんならやってみやがれ! 是が非でも1勝してやるよ!」
売られた喧嘩は買うのが俺の流儀。どっからでもかかってきやがれ!
とは、思いつつ、
「でも、ただ単に楽しみたいっていう人は、対戦する前にコメント欄で『楽しくやりたいです』と打ち込んでください。そのコメントを見た人達は、全力で教えてください。それだけはお願いします」
『了解!』
『任せろ』
『じゃあ、滝に1勝もさせたくない奴らは『かかって来いよ!』にしようか?』
『そうだな。分けた方がいいな』
こういうところは協力的で有難い。
「じゃあ、1局目いきましょうか」
オンラインで将棋を選び、マッチングがされるのを待つ。
こうして、俺と俺を憎んでいるリスナーさん達との戦いが始まる。
「1局目! コメント欄!」
『楽しくやりたいです、だって!』
『楽しく!』
『楽しく』
初戦目は楽しくやっていきますか!
「さて名前は、っと」
俺のSwitchアカウントの名前は『タキ』になっている。カタカナにしている理由は特にない。
そして、対戦相手のアカウント名は、
「………『調子に乗るな』」
………ん、誰に対して言ってんの? これ俺に向けて言ってんのかな?
えっ、でも、コメントには『楽しくやりたい』って書かれてたんでしょ?
ちょっと聞いてみるか。
「これってどっち? 楽しくやりたいの? それとも煽りリスナーさん達の仲間なの? どっちなの?」
『名前からしてこっち派』
『あっち派でしょ』
『そっち派じゃあないの?』
「あっちこっちそっち、なんて使うんじゃあねぇよ! 俺の出した選択肢にはないから!」
『多分、煽り派の仲間じゃないですかね?』
『名前からして煽ってきてる』
『煽り派のような気がする』
そうそう、こういうコメントを求めてたの!
「じゃあ、この人は煽り派として扱います。んで、この人に将棋で勝てば、1勝って事でいいんだよね?」
『おい、負けんなよ!』
『滝、負けろ!』
『これは滝の負けですね』
『負けんなよ!』
1人だけ未来見えてるやついるんだが。
まあ、負けらんない勝負って事ですよね。じゃあまあ、俺の本気を見せてやりますか!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
5分後。
「あれ? 銀って駒、横いけないんだっけ?」
「あっ、飛車は斜め無理なんだ」
「香車は進んだら後ろに下がれないんだ!」
そして、
「詰みって何?」
『負けなんよ』
『もう逃げ場ありませんって意味』
『負け』
『もう手がありませんって意味』
そうそうに負けてしまった俺。
『ってかさ』
『もしかして』
『まさかさ』
『『『将棋やった事ないの?』』』
あはははは、バレてしまいましたか。
「実は、ルールは若干知っている程度で、1度も遊んだことありません」
昔やらなかったか、って? やったことがないんですよね、実は!
そんな初心者の俺に向けて、
『あんなに啖呵切ってたのに?』
『あんだけ強気だったのに?』
『初心者なのに、勝てる気でいたの?』
『将棋って結構難しいんだよ?』
煽っていたリスナーさん達も俺を応援していたリスナーさん達も、揃いに揃って聞いてくる。
「そうですけど何か?」
えっ、いけない? 初心者だけど啖呵って切っちゃいけないの?
な訳ないよね!
己を強く見せるには、強気で出ていく必要があるよね………なんて、ただ単純に何も考えずに強気に出ただけなんだけどね。
まあ、そんなことは置いといて、
「将棋っておもろいな。次、行こう。2局目行きましょう!」
「初戦の人対ありでした!」と感謝をし、次の1局に向かう。
さて、次の人のアカウント名は———『うんこ』と。
「じゃあやろうか、うんこ」
『うんこがんば!』
『うんこがんば!』
『うんこ、まあがんば』
『うんこ負けるなよ』
俺もだが、リスナーさん達みんな、対戦相手のアカウント名見ても反応が薄い。
それはそうだよね。だって、面白みも欠けるし、汚いだけだし。
ちなみに、アカウント名からして、煽ってきたリスナーさん達の1人でしょう。
2局目が今始まり、数手打っただけなのだが、
『その手は悪手の様な』
『そこに置いちゃあ』
『待て、早まるな!』
『他の手を考えろ』
などなど、リスナーさん達からダメ出しコメントがチラホラと見て取れる。
「ちょっと指示出しは無しで。1対1の真剣勝負なんで、何か言いたい時は『うんうん』ってコメント打ち込んでください」
こうすれば『あーあ』とか『え?』みたいなコメントでコメント欄が埋まらなくなる。
我ながら完璧。これで将棋に集中できる。
集中して2局目に挑むこと4分。
「また負けてしまった」
2戦目0勝2敗と酷い結果を残してしまっている。
「でもまだ、始まったばっかだしね! 勝てばいいのよ、勝てば。何戦もやって学習して勝ちますよ!」
そう言ったものの、3局目。
「飛車狙いとは。残念だが取らせないよ」
『うんうん』
パチッ!
「あああ、王様取られた!」
『うんうん』
4局目。
「攻めあるのみ!」
『うんうん』
「角行が! なら飛車を!」
『うんうん』
「角行! 飛車! ああああああ!」
5局目。
「金、銀、桂馬! 返して、俺の駒!」
『うんうん』
「飛車よ、飛べ!」
『うんうん』
「すぅー、ああああああああああ!」
5戦0勝5敗。
「まあまあ、始まったばっかだしね。学習してますから」
『学習? どこが?』
『学習って言葉理解してる?』
『学習って調べた方がいいよ』
『学習してない!』
「学習って言葉ぐらい知っているわ! あと、学習してないって言い切るんじゃあねぇ」
ほんとウチのリスナーさん達は素直で辛辣で、可愛くないよな。
「もっとさ、優しい言葉を掛けてくれないかな?」
『優しいって何?』
『優しいって言葉知らない!』
『日本語って難しいね?』
『滝に優しくしても一文の徳にもならん』
プチン。
「何が『日本語って難しいね?』だ! 絶対お前日本人だろうが! あと、一文の徳にもならないって何? 優しくしろよ、なあ!」
キレちまったぜ。久々にプチンといってしまったぜ。
『効いてる効いてる』
『空気悪くね』
『かかせんな』
『効果抜群の様だ』
「あああああああああ!」
バンッ!
こいつら、楽しんでやがるな!
見てろよ! 絶っ対1勝してやる。
俺は心にそう誓い、次の対戦に向けて闘志を燃やす………つもりだったが、コメント欄にあの人が現れ、矛先はリスナーさん達からその人へと変わる。
『Souちゃんチャンネル : 電話を無視した挙句、俺のTwitterを意見箱みたいな扱いしてくれたな』
そう、聡太さんが現れたのだ。
「あれ、どうかしました? 電話? はて、記憶にございませんな」
嘘である。聡太さんは文句を言うために、俺に何度も何度も電話してきた。
それを俺は、「うるさ。スマホの電源落とそう」とスマホの電源を落として、無視を続けていたのだ。
『聡太さんのツイッターwww』
『俺は送った。だって、滝の指示に従っただけだもん』
『滝が悪い』
『意見箱化したか、、、』
おいおい、送ったら同罪だぜ?
俺1人の罪ではないんだよ、リスナー諸君。
「まあまあ、落ち着きなさいな。かっかせんといて」
『Souちゃんチャンネル : 喧嘩か? 謝罪はなしか?』
「はて、謝罪ですか? して欲しいんですか?」
まあ謝罪は求めてくるよな。
でもね、聡太さん。
その呪いのメッセージの送り主さん達、サキサキさんと絵茶さんのリスナーさん達なんですよ。
つまり、俺のリスナーさん達が送ったわけでないため、俺があなたに迷惑をかけたわけではない。
しかも、俺は「聡太さんに送ってくれ」ってお願いしただけであって命令したわけじゃない。強制はしてない。
送った人たちが悪いわけで、悪者は送り主だけなのよ。
そう説明すると、
『確かにw』
『滝は悪くないな』
『お願いだったたか! 命令されてると思って送っちゃった!』
『言い訳臭くて草』
リスナーさん達もノリが良いため、俺の言葉に賛同してくれる。
みんなで言い訳して、罪から乗り切ろう!
俺らの言い訳を聞いた聡太さんは、『ああ、そうか。なら仕方ないな』と言う——訳なく、
『Souちゃんチャンネル : ふざけろ! お前!』
許してはくれないらしい。
ならさ、
「聡太さん。なら、勝負しましょう。将棋で聡太さんが勝ったら、土下座でも何でも配信でしますよ。その代わり俺が勝ったのなら、俺とリスナーさん達を許してください」
こうやってリスナーさん達を巻き込むことで、味方につける戦法なんだが、聡太さんは勝負に乗ってくれるだろうか?
ここはダメ押しで、
「怖いならいいですよ、戦わなくても。チキンと言う称号を貴方に授けましょう」
『Souちゃんチャンネル : 調子に乗るなよ! 買ってやるよ、その安い挑発をよ!』
はい、煽り耐性の低いやつは、扱い易くて助かりますと。
さあ、リスナーさん達。この愚か者をボコボコにしてあげましょう!
6局目の対戦相手は、聡太さんとなった。
「じゃあ、始めますか。先手は俺からで」
パチン、と先程までの対局で学んだことを生かす。
何十手か打ち合っていると、少し不味い展開に追い込まれている。
「ここはどうすれば」
コメント欄には俺の指示通り、『うんうん』の文字が数多く流れている。
リスナーさん達に助けを求めても良いのだが、多分この配信を聡太さんは見ながら対局している。
声を出して助けを呼ぶことはできない。でも、俺の知識ではもう分からない。
ならば!
『Takiチャンネル : 助けを求む』
とコメントを打ち込む。
すると、数々の指示がどんどん打ち込まれてくるではないか。
数ある内のコメントから、多そうな手を見つけ、それ通りに打っていく。
ゲームに集中している聡太さんは、俺が打ち込んだコメントに気づいておらず、何も言ってこない。
フハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
聡太さん、貴方の敗北は決定事項なのですよ! なにせ、1対1の勝負と思っているのは貴方だけで、本当は1対約1600人のリスナーさん達と俺の戦いと化しているのですから。
俺はリスナーさん達の指示通りに将棋を打っていく。打っていくことものの4分で、
『Souちゃんチャンネル : 負けた?』
聡太さんの詰みになり、俺は勝つことができた。
「聡太さん。将棋って知ってる? 頭の良い人や先を見る事が出来る人が勝つボードゲームなんですよ? つまり、貴方は俺よりも下の存在なんですよ! 出直してこい!」
卑怯だって? はぁ? 誰も俺1人で戦うとは言ってませんけど? 俺は「勝負しましょう」と言っただけ。勘違いしたのは聡太さんなんだから、卑怯と言われる筋合いはない!
『Souちゃんチャンネル : クソ! どうせリスナーから知恵を借りたくせに! 覚えてろよ!』
そう言い残し、聡太さんは去っていった。
ああ、なんかもう聡太さんに勝っただけで満足しちゃったな。
リスナーさん達への怒りは消え去り、今は聡太さんに勝った優越感しか無い。
「じゃあ、まあ、この後の対局はまったりやりますか?」
何故だろうな。あの人に勝っただけなのに、心に余裕ができた。
まだ配信時間は2時間あるわけだが、その2時間は心穏やかに将棋をさせそうな気がする。
「さあ、次の対局行きますか? もう勝ち負けなんてどうでも良くなっちゃった。楽しく打ちましょう」
『はーい』
『はーい』
『はーい』
『はーい』
残りの時間、リスナーさん達に戦術や定石を教えてもらいながら、将棋を指すのであった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
私の守護者
安東門々
青春
大小併せると二十を超える企業を運営する三春グループ。
そこの高校生で一人娘の 五色 愛(ごしき めぐ)は常に災難に見舞われている。
ついに命を狙う犯行予告まで届いてしまった。
困り果てた両親は、青年 蒲生 盛矢(がもう もりや) に娘の命を護るように命じた。
二人が織りなすドタバタ・ハッピーで同居な日常。
「私がいつも安心して暮らせているのは、あなたがいるからです」
今日も彼女たちに災難が降りかかる!
※表紙絵 もみじこ様
※本編完結しております。エタりません!
※ドリーム大賞応募作品!
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話
赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。
前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる