完璧な薬

秋川真了

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灰色の雨

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高層ビルの一室で男は不快さと共に目覚めた。
原因は雨だった。
街に敷き詰められた高層ビルに叩きつけられるように灰色の雨が爆音を響かせる。
雨はかれこれ二週間は降り続いていた。
液晶に映ったメディアは「異常気象」という単語を飽きずに連呼している。
憂鬱さを紛らわそうと男はタバコに火をつけながら、窓から街を見下ろした。
灰色の空から灰色の雨が灰色の街に落ち、それをうつむいた灰色の人々が受け止める。
男はそんな気色の悪い景色がつくられた原因をジロリと睨んだ。

高層ビルより少し背の低い建物が煙を吐き続けている。
端的に言えばその建物は工場であった。

「あれのせいだ、あれがなければ」最近の男はこんなことばかり考えていた。

灰色の雨は以前降り続いていた。


高層ビルの最上階でも2人の人間が雨を見ていた。

「しっかし最近の気象は大変なことになってますね」

優しい顔つきの男が対極に険しい顔をしている女に話しかけた。

男はあの工場に勤めている役員である。
そして女は社長であった。

「私のせいだと言いたいのかね?」

男の言葉に女は睨んで返答した。
男はひどく萎縮したのち小さな声で否定をした。

そんな様子を見た女は呆れ気味に話し始めた。

「確かにあの工場の稼働を始めたのは私だ。そして少なからずこの街にも害を与えてしまっているだろう」

女の顔に自責は映っていなかった。

「しかし...現にこの街はかなりの気象の乱れが」

男が吃りながら返した。

女はその質問が分かっていたのか間髪を入れずに返答した。

「少なからずと言っているだろう。本当の原因はこの街の住人にある。我々のおかげで職があり、経済的にも発展してこんな高層ビルまで乱立させてもらっているくせにまるで我々が悪かのように振る舞ってくる。
原因は我々のみと考え、自分たちからすることといえば愚痴をこぼすくらい。
ほら、向かい側のビルに見えるあの男を見てみろ。煙草を吸ってろくな生活を送っていない。
あのような無責任な奴らの小さな積み重ねの方が我々の何倍も環境を壊していると言うのに...」





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