完璧な薬

秋川真了

文字の大きさ
上 下
6 / 11

酔っ払い

しおりを挟む
「やってられるかよー」
男は叫ぶ。ここは町外れにある小さな居酒屋。嫌なことがあるとここのカウンター席に座り思い切り酒を飲み、酔いつぶれるのが男の習慣だった。はじめの頃こそ邪険に扱われていた男だったが、彼の成り行きを知った店のものたちは次第に男のことを黙認するようになった。そもそも過疎が進んでいるこの社会。客もかなり少ないため、いつ潰れるかも分からないこの店にとっては男でも一種の常連客であった。


その日もやはり男は酔いつぶれていた。
「どうしたんです旦那」
暇を持て余している店主がいつものように話しかける。
「どうしたもこうしたもねえよ。上司が今日もうるさくてさぁ。やってられねえたらありぁしねえ。俺はあいつより歳上なんだぜ。それなのによお」
「ええ。分かりますよ。最近の若い人たちはいけませんねえ」
「やっぱあんたもそう思うかい。最近の若い奴は根性がなってねえ」
「ええ。分かります。最近の奴はすぐ何かあるたびに、やれセクハラだ。やれパワハラだ。やれ◯◯だ。とすぐに相手に危険者のレッテルを貼りますからねえ」
「ああ。そうだ。やっぱあんたはわかってくれるかい」
「ええもちろん」
そのようなやり取りを幾分かした後、男はやはり酔いつぶれててしまった。
ウニャウニャと何か寝言を呟きながらヨダレを垂らして寝ている。こうなれば男はしばらく目覚めない。皆、既に閉店の準備をしている。そして朝日が窓に差し込むようになった頃。
「旦那。起きてください。朝です」
しかし未だ男は寝ぼけているようだった。
「うるさい。俺は地球を救った英雄だぞ」
「はいはい。もうじき出勤の準備をしないとまずいですよ」


男はおぼつかない足取りで会計を済まし、店を出る。そしてしばらく道を歩いているときだった。
「おい。そこのお前」
突然男が話かけられる。振り向くとそこには、大きな黒い目、カゲのような皮膚、宇宙人がそこに立っていた。何やら後ろには乗ってきたであろう円盤のようなものがある。
「なんだ、俺はこんな幻覚見えるくらい飲みすぎたのか」
「何わけのわからないことを言っている。私は二クル星人。この星を侵略しにきた」
「なにー侵略だと」
「抵抗しても無駄だ。俺にはお前らでは作ることのできない最新鋭の銃がある。お前をさらい人間の生態系を調べ尽くすのだ」
「俺はあまり時間がないんだー」
未だ酔いが回っていることもあり、状況判断もできない男が宇宙人に飛びかかる。
「無駄だ。死ねー」
しかし宇宙人の銃は一向に当たらない。
「なんだこの変則的な歩き方。我々が調べた人間の歩き方とはるかに違う」
「どりゃー」
動揺している宇宙人に素早くありったけの恨みを込めて殴りかかる。そしてしばらくした後…宇宙人は生き絶えたように動かなくなり体が蒸発して跡形もなくなる。
「はあ。こんな感じの幻覚を見るのもう何度目だろう。しばらく酒はやめよう」
男は悲しそうに立ち去っていった。 
自分が地球を救った英雄とは気づかずに…



「えーと。やっぱりあった」
しばらくした後居酒屋の店主が男の歩いてきた道にやってくる。
「どういうわけか、あの人が来るときに決まってこんな凄い物が捨てられてんだよなあ。まあこれ分解して売れば高くつくからありがたいけど。不思議だなー」
店主は円盤を見ながら呟く。
過疎が進んでいるこの社会。しかしほとんど客が来ないのにこの店が潰れないのはこういう理由だったりする…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

140字のおやすみ

柊原 ゆず
現代文学
Twitterで2021年7月4日からほぼ毎日投稿している「#140字のおやすみ」をまとめたものです。 読んだ方が穏やかな気持ちになっていただけたらいいなと思い書いています。 半分ノンフィクション、半分フィクションのつもりで書いています。 表紙はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしました。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

【完結】「『王太子を呼べ!』と国王陛下が言っています。国王陛下は激オコです」

まほりろ
恋愛
王命で決められた公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢との婚約を発表した王太子に、国王陛下が激オコです。 ※他サイトにも投稿しています。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 小説家になろうで日間総合ランキング3位まで上がった作品です。

処理中です...