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ヴァンティアン(21) 「ソフィーの休日」
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神使いであったソニアとヤーナを倒した私とマリア。
その後、遣いである翡翠の周りでは、騒動が起きていたらしいのだけれど、私はこれと言って問題が無かった為、有休を使い旅行に出掛ける事にしたの。でもそこで、ちょと変わった人と出会う事になったわ。
「いえ、アレだから。ゼロが言ったから、ここに決めただけよ……」
「な~」
私は、ペット可の温泉施設に行こうと場所を探していたのだけれど、その温泉はゼロのメッセージを聞いて決めたのであって、決して私の意思では無いから。
その場所とは、日本は静岡県、伊豆の温泉街であったの。まあ、この場所から隼の住む町までは、距離があるので行く事は無いのだけれど、出張、翡翠に会う為、今回の旅行で、何度目の来日になっているのか私も忘れたわ。
そして旅館に着いた私は、早速温泉に向かう事にしたの。
「ふぅ~…… 何でなのかしら? フランスにも温泉はあるけど、日本の温泉は別格ねぇ……」
温泉の効能を良く読み、私はしっかりと浸かったわ。
と、そこへ、1人の女性が入って来たの。その女性は、私より少し年上の感じであったのだけれど、湯に浸かるなり頭まで完全に潜ってしまっていたわ。そして30秒後……。
「だあーっ!! はぁ、はぁ、はぁ……やっぱり……窒息死は止めよぉ……」
実はこの女性、失恋したばかりであるらしく、その悲しみから逃れようと自殺をする場所を探していたらしいの。
「ええとぉ……大丈夫ですか?」
そんな事だとは露知らず、私は女性に話し掛けてしまっていたわ。
女性の名は、 十文字 朝日(じゅうもんじ あさひ) と言うらしいのだけれど、何故だか私を見て愕然としてしまったの。
「貴女……何者ですかっ!? と言うか、女優さんですか? いや、この品格は……どっかのプリンセスっ!?」
「いえ、ただの会社員よ」
「日本語うまーっ!!」
潜水をしていたかと思えば、弾丸トークをし出した朝日に、今度は私が面食らってしまったわ。
元々、私自身は要件だけを話す性格なので、朝日の質問責めに驚いてしまっていたの。
「私の名前は、ソフィー マリソーよ。貴女のお名前は?」
「名前もヤバーっ!! あっ、すみません。私も、しがないサラリーマンの十文字 朝日です」
普段の私であったら、こういったタイプは避けるのだけれど、旅行と言う事もあって話に付き合う事にしたわ。
「朝日も旅行で来たの?」
「呼び捨て来たーっ!! 本当にすいません。そう……なのかな」
一々驚く朝日。だけど私の問いに、朝日は一瞬言葉を溜めていたわ。何度でも言うけれど、朝日は自殺をしに来ていたの。
だけど何故、自殺を考えているのかと言うと、朝日は1週間程前に突然、婚約を破棄されてしまっていた事が原因であるらしいわ。でも朝日の不幸はそれだけでは無く、住んでいたアパートが火事で全焼してしまい、今はネットカフェ暮らしをしているのだと告げて来たの。
更に、こういった性格の為、仕事に集中出来ずミスばかりしていると朝日は言っていたわ。そしてそんな生活にも嫌気がさし、この世から消え様と考えたらしいの。
「ああ、それで温泉に潜っていたのね。そうねぇ……ここからだったら、樹海が良いんじゃないかしら?」
朝日の自殺を、私はあっさりと助言してあげたわ。ヤーナ戦の時も言い放ったのだけれど、私は精神の弱い者が嫌いだからよ。
「ああ、その手もありますね。でも樹海って、虫とかいませんかね? 私、苦手なんですよ」
淡々と、私の言葉を聞き入れる朝日。そこで私は、次から次へと助言して行ったのだけれど、朝日は何だかんだ言い訳をして却下していたわ。
「じゃあ、こうしましょう。私が朝日を殺してあげるわ」
「え?」
そう告げ、私は徐に風呂桶を握り締め、何の躊躇も無く朝日の頭上から勢い良く振り下ろしたの。
「まあ、これで仮死状態にはなったでしょう。我に誓いしその力 今この時この瞬間 無限の数で突き動かん……ソフィー……エボリューションっ!」
私は変身すると同時に、ヌフと唱えたわ。ヌフは自分とゼロにも使った事がある、『終わりと始まり』 の能力を持つ魔法なの。
でも、1回失敗しているのだけれどね。そして数分後、目を覚ました朝日。
「あれ……私…………」
「朝日、貴女は死んでいたのよ」
朝日は記憶が曖昧であった様なので、私は状況を説明してあげたわ。朝日が死に方を考えていたので、私が風呂桶で叩き殺したのだと。
「貴女は数秒だけど、完全に死んでいたの」
「そっ、そうなんですね…… 確かに、頭が痛いです……」
「後、1度死んだ事により、朝日の願いは叶ったわ。でも、同じ願いを2度する事は反則よ」
要するに私は、面倒なのでもう死ぬなと言ったの。
そして日本には、『死ぬ気でやれ』 と言う言葉があるらしいのだけれど、朝日は既に1度死んでいるので、それが出来る筈だと私は告げたわ。
「……あい……はひっ! ……うわーんっ!!」
私に殴られた性では無いのだと思うけど、感情が高ぶりうまく『はい』 と言えなかった朝日。
そして今度は、大泣きをし出す始末であったわ。流石にこれ以上は付き合っていられないと私は考え、一足先に温泉から上がる事にしたの。
「お待たせ、ゼロ。夕食にしましょう」
「な~な~」
その後、私は久しぶりにまったりとした時間を過ごし、22時頃には布団に入る事にしたわ。
そして目を閉じると、走馬灯にも似た思い出が蘇って来たの。魔術師アグリッタの遣いになり、初めて魔法の存在を知る事となった時からの事を。
その魔法は天使達を同化させる事で使える様になり、これもまた初めての魔法を使用した戦いをする事になったわ。その時感じた感覚は、今でも私は覚えているわよ。魔法の国、魔法の力こそ、自分が求めていた世界だったのだとね。
だけど、遣いになる事を選択した私は、辛い思いもして来ているの。アグリッタに遣いである事を解任され、記憶を失しなわれてしまったわ。それは私にとって、1度手に入れた幸せを奪い取られる事であったの。
でも、私に与えられた宿命は、もう1度魔法使いとなり戦う事であったわ。この先に、どんな現実が待ち受けているのかは分からないのだけれど、それでも私は生きる為に、遣いになる事を今1度選んだの。
そして、その思いの中心にはやはり、隼がいる事を再確認していたわ。
「隼……私は必ず貴方の記憶を取り戻してみせるわ。貴方が私を救ってくれた様に……」
そんな感じで布団に入ってたは良いものの、寝付けなくなってしまった私は、近くにある浜辺まで散歩に行く事にしたの。でも、そこには……。
「バカヤローっ!! 私はこれでも頑張ってるんだーっ!! 結婚なんてその内……出来たらしてやるぞーっ!!」
「……何をしてしているの、朝日?」
私と目が合い、咄嗟に逃げ出す朝日。条件反射なのか、恥ずかしかったからなのかは分からないのだけれど。
でも朝日は、10m程走った所で足をもつれさせ、砂浜に顔から埋もれてしまっていたわ。そして私は、その砂を払ってあげる事にしたの。
「心より、すいません……」
「ボイストレーニングでもしていたの?」
朝日は砂だらけの顔を夜空に向け、『違います』 と言ったわ。私のお陰で1度死ねたので、後は自分の中に残っていた悩みを、海に捨てていたのだと告げたの。
「私は本当にくだらない女です。結婚を破棄されたくらいで悩むなんて」
「いえ、それはかなり衝撃的な事だと思うわ」
「でも、もう大丈夫です。1度死んだ私は、生まれ変われた気がします」
色んな意味で生まれ変われていない朝日であったのだけれど、私は朝日の言葉に、『それは素晴らしい事ね』 と言ってあげたわ。
大抵の人は、何も変わらぬ日常を淡々と過ごしているわよね。朝起き、学校や仕事に行って、家に帰れば食事をして寝るだけの毎日を。だけど朝日は、そんなありきたりな日常の中で、辛い事ではあったのだけれど、いつもとは違う経験をしたわ。
そしてその経験をしたからこそ、新しい自分に気付けたのだと、私は教えてあげたの。
「だから朝日は、それで良いのよ」
「……そうですよね」
朝日は、今にも泣き出しそうになるのを堪え、無理矢理口角を上げる事で笑顔を見せていたわ。だけどそれを見た私は、ある事に気が付いたの。
「貴女、まさか……。ちょっと、手を借りるわね」
私は朝日の手の平を上に向かせ、そこに自分の手の平を重ねたわ。そして私は確信したの。朝日にも、魔力が備わっている事を。
「どうしたんですか、ソフィーさん?」
「朝日、今から貴女をこことは違う世界に連れて行くわ」
ベタではあるのだけれど、私に連れて行かれた魔法の国を見た朝日は、ほっぺを抓る事になっていたわ。
「いっ……たーっっ!!」
「それは痛いでしょうね。でも、これは現実にある魔法の国よ」
その後、私に魔法の国について簡単に聞かされた朝日。魔力をその身に宿していて、魔法の国の存在を信じれる者は行き来出来るのだと。
「じゃあ……ソフィーさんは魔法使い何ですか?」
「そう言う事になるわね。でも、私達は遣いと言って、戦う為に選定された魔法使いなの」
朝日は、思考回路がショート寸前であったでしょうね。まあ、それは仕方がない事なのだけれど、私の魔法を見る事で、現実の出来事だと朝日は認識する事になるの。
「魔法って、空を飛んだり出来るんですよね?」
「飛べない遣いもいるみたいだけど、ほらこの通りよ」
私は宙に浮いて見せたわ。そして朝日の手を取り一緒に浮いたの。そこで私は、朝日がまたギャーギャー騒ぐと思っていたのだけれど、朝日は呆然とするだけであったわ。
それには理由があったのだけれど、朝日は幼い頃に魔法使いのアニメを、熱心に見ていたからであったらしいの。そしていつしか、自分も飛べる筈だと思い込む様になっていた様だわ。
でも、当然一般世界で空を飛ぶ事など出来ないと理解してしまった朝日は、大人になるに連れ飛べる事を忘れてしまっていたの。
だけど今、地面から足が離れている事で、やはり飛べたのだと、朝日は再認識出来ていたみたいだわ。
「ソフィーさん……私、やっと気付けました。私はこの世界に来る為に、死ねなかったんだって」
「そうね。私も初めて魔法の国に来た時は、同じ様な思いだったわ」
でもそこで、1つ問題がある事を私は気付いてしまったの。朝日は魔術師の遣いでは無い為、戦闘魔法が使えないわ。ゼロの様に魔力は備わっいたので、魔法の国に来る事は出来たのだけれど、このままでは他の遣いに消されてしまう恐れがあるかも知れないの。
かと言って、遣いにしてくれる魔術師を探すのも大変な為、私が少しの間、魔法を教える事にしたわ。そして朝日に宿る魔法が、魚系を召喚させる力だと私は気付いたの。
「魚……ですか?」
「ええ、何か魚をイメージしてみなさい」
朝日は魚を思い浮かべ、1本のカツオを召喚する事に成功したわ。そこから朝日は、計12匹の魚を召喚したのだけれど、いずれも大きな魚ばかりであったの。
そして、その光景を見た私は驚く事になっていたわ。魔術師から魔力を供給されていないのにも関わらず、朝日がたった数日でこれだけの物体を召喚していたのだから。
「やっぱり、小さい魚の方が可愛いですね」
「……朝日、貴女は遣いには向いていないわ。だから……魔術師になりなさい」
突拍子も無い提案かも知れないけど、私はそう告げたわ。だけど、魔術師と遣いの違いを理解出来ていなかった朝日は、普通に了承してしまっていたの。
そもそも、魔術師と遣いの違いを簡単に例えるならば、親と子や師匠と弟子の様な関係であり、魔術師になるには子を守る為の力を身に付けなくてはいけないわ。でもそう考えると、既に私も魔術師ランクの魔力を発揮出来る様になっているので、親になるか、子のままでいるかの違いだけであったの。
そして朝日はまだ、形式上一般人であるので、魔術師になると言っても、領土を持つ事が出来ないわ。そこで、その日から猛特訓をする事になったの。
因みに、魔術師として認められるには、1人でも遣いを選定出来る様にならなければいけないらしいわ。
「ソフィーさん、色々有難う御座いました。私、頑張って魔術師になりますね」
「ええ。でも、朝日が魔術師であろうと遣いであろうと、魔法の存在を知ったからには、私の敵よ」
朝日は、少し複雑そうな顔をしていたわ。でも、もう少し後の話になるのだけれど、朝日は遣いを選定出来る程の魔術師になっているの。
そして私は休暇を終え、フランスへと帰国し、仕事場へ出勤していたわ。
「後、2か月も経てば、今年も終わりね」
「どうしたのソフィー。何かやり残した事でもあるの?」
私がやり残した事と言えば、神黒翡翠を手にする事が出来なかった事。もしこのままの状態が続けば、隼の記憶が戻る事は無いわ。それだけは、私にとってどうしても許されない事であったの。
その後、遣いである翡翠の周りでは、騒動が起きていたらしいのだけれど、私はこれと言って問題が無かった為、有休を使い旅行に出掛ける事にしたの。でもそこで、ちょと変わった人と出会う事になったわ。
「いえ、アレだから。ゼロが言ったから、ここに決めただけよ……」
「な~」
私は、ペット可の温泉施設に行こうと場所を探していたのだけれど、その温泉はゼロのメッセージを聞いて決めたのであって、決して私の意思では無いから。
その場所とは、日本は静岡県、伊豆の温泉街であったの。まあ、この場所から隼の住む町までは、距離があるので行く事は無いのだけれど、出張、翡翠に会う為、今回の旅行で、何度目の来日になっているのか私も忘れたわ。
そして旅館に着いた私は、早速温泉に向かう事にしたの。
「ふぅ~…… 何でなのかしら? フランスにも温泉はあるけど、日本の温泉は別格ねぇ……」
温泉の効能を良く読み、私はしっかりと浸かったわ。
と、そこへ、1人の女性が入って来たの。その女性は、私より少し年上の感じであったのだけれど、湯に浸かるなり頭まで完全に潜ってしまっていたわ。そして30秒後……。
「だあーっ!! はぁ、はぁ、はぁ……やっぱり……窒息死は止めよぉ……」
実はこの女性、失恋したばかりであるらしく、その悲しみから逃れようと自殺をする場所を探していたらしいの。
「ええとぉ……大丈夫ですか?」
そんな事だとは露知らず、私は女性に話し掛けてしまっていたわ。
女性の名は、 十文字 朝日(じゅうもんじ あさひ) と言うらしいのだけれど、何故だか私を見て愕然としてしまったの。
「貴女……何者ですかっ!? と言うか、女優さんですか? いや、この品格は……どっかのプリンセスっ!?」
「いえ、ただの会社員よ」
「日本語うまーっ!!」
潜水をしていたかと思えば、弾丸トークをし出した朝日に、今度は私が面食らってしまったわ。
元々、私自身は要件だけを話す性格なので、朝日の質問責めに驚いてしまっていたの。
「私の名前は、ソフィー マリソーよ。貴女のお名前は?」
「名前もヤバーっ!! あっ、すみません。私も、しがないサラリーマンの十文字 朝日です」
普段の私であったら、こういったタイプは避けるのだけれど、旅行と言う事もあって話に付き合う事にしたわ。
「朝日も旅行で来たの?」
「呼び捨て来たーっ!! 本当にすいません。そう……なのかな」
一々驚く朝日。だけど私の問いに、朝日は一瞬言葉を溜めていたわ。何度でも言うけれど、朝日は自殺をしに来ていたの。
だけど何故、自殺を考えているのかと言うと、朝日は1週間程前に突然、婚約を破棄されてしまっていた事が原因であるらしいわ。でも朝日の不幸はそれだけでは無く、住んでいたアパートが火事で全焼してしまい、今はネットカフェ暮らしをしているのだと告げて来たの。
更に、こういった性格の為、仕事に集中出来ずミスばかりしていると朝日は言っていたわ。そしてそんな生活にも嫌気がさし、この世から消え様と考えたらしいの。
「ああ、それで温泉に潜っていたのね。そうねぇ……ここからだったら、樹海が良いんじゃないかしら?」
朝日の自殺を、私はあっさりと助言してあげたわ。ヤーナ戦の時も言い放ったのだけれど、私は精神の弱い者が嫌いだからよ。
「ああ、その手もありますね。でも樹海って、虫とかいませんかね? 私、苦手なんですよ」
淡々と、私の言葉を聞き入れる朝日。そこで私は、次から次へと助言して行ったのだけれど、朝日は何だかんだ言い訳をして却下していたわ。
「じゃあ、こうしましょう。私が朝日を殺してあげるわ」
「え?」
そう告げ、私は徐に風呂桶を握り締め、何の躊躇も無く朝日の頭上から勢い良く振り下ろしたの。
「まあ、これで仮死状態にはなったでしょう。我に誓いしその力 今この時この瞬間 無限の数で突き動かん……ソフィー……エボリューションっ!」
私は変身すると同時に、ヌフと唱えたわ。ヌフは自分とゼロにも使った事がある、『終わりと始まり』 の能力を持つ魔法なの。
でも、1回失敗しているのだけれどね。そして数分後、目を覚ました朝日。
「あれ……私…………」
「朝日、貴女は死んでいたのよ」
朝日は記憶が曖昧であった様なので、私は状況を説明してあげたわ。朝日が死に方を考えていたので、私が風呂桶で叩き殺したのだと。
「貴女は数秒だけど、完全に死んでいたの」
「そっ、そうなんですね…… 確かに、頭が痛いです……」
「後、1度死んだ事により、朝日の願いは叶ったわ。でも、同じ願いを2度する事は反則よ」
要するに私は、面倒なのでもう死ぬなと言ったの。
そして日本には、『死ぬ気でやれ』 と言う言葉があるらしいのだけれど、朝日は既に1度死んでいるので、それが出来る筈だと私は告げたわ。
「……あい……はひっ! ……うわーんっ!!」
私に殴られた性では無いのだと思うけど、感情が高ぶりうまく『はい』 と言えなかった朝日。
そして今度は、大泣きをし出す始末であったわ。流石にこれ以上は付き合っていられないと私は考え、一足先に温泉から上がる事にしたの。
「お待たせ、ゼロ。夕食にしましょう」
「な~な~」
その後、私は久しぶりにまったりとした時間を過ごし、22時頃には布団に入る事にしたわ。
そして目を閉じると、走馬灯にも似た思い出が蘇って来たの。魔術師アグリッタの遣いになり、初めて魔法の存在を知る事となった時からの事を。
その魔法は天使達を同化させる事で使える様になり、これもまた初めての魔法を使用した戦いをする事になったわ。その時感じた感覚は、今でも私は覚えているわよ。魔法の国、魔法の力こそ、自分が求めていた世界だったのだとね。
だけど、遣いになる事を選択した私は、辛い思いもして来ているの。アグリッタに遣いである事を解任され、記憶を失しなわれてしまったわ。それは私にとって、1度手に入れた幸せを奪い取られる事であったの。
でも、私に与えられた宿命は、もう1度魔法使いとなり戦う事であったわ。この先に、どんな現実が待ち受けているのかは分からないのだけれど、それでも私は生きる為に、遣いになる事を今1度選んだの。
そして、その思いの中心にはやはり、隼がいる事を再確認していたわ。
「隼……私は必ず貴方の記憶を取り戻してみせるわ。貴方が私を救ってくれた様に……」
そんな感じで布団に入ってたは良いものの、寝付けなくなってしまった私は、近くにある浜辺まで散歩に行く事にしたの。でも、そこには……。
「バカヤローっ!! 私はこれでも頑張ってるんだーっ!! 結婚なんてその内……出来たらしてやるぞーっ!!」
「……何をしてしているの、朝日?」
私と目が合い、咄嗟に逃げ出す朝日。条件反射なのか、恥ずかしかったからなのかは分からないのだけれど。
でも朝日は、10m程走った所で足をもつれさせ、砂浜に顔から埋もれてしまっていたわ。そして私は、その砂を払ってあげる事にしたの。
「心より、すいません……」
「ボイストレーニングでもしていたの?」
朝日は砂だらけの顔を夜空に向け、『違います』 と言ったわ。私のお陰で1度死ねたので、後は自分の中に残っていた悩みを、海に捨てていたのだと告げたの。
「私は本当にくだらない女です。結婚を破棄されたくらいで悩むなんて」
「いえ、それはかなり衝撃的な事だと思うわ」
「でも、もう大丈夫です。1度死んだ私は、生まれ変われた気がします」
色んな意味で生まれ変われていない朝日であったのだけれど、私は朝日の言葉に、『それは素晴らしい事ね』 と言ってあげたわ。
大抵の人は、何も変わらぬ日常を淡々と過ごしているわよね。朝起き、学校や仕事に行って、家に帰れば食事をして寝るだけの毎日を。だけど朝日は、そんなありきたりな日常の中で、辛い事ではあったのだけれど、いつもとは違う経験をしたわ。
そしてその経験をしたからこそ、新しい自分に気付けたのだと、私は教えてあげたの。
「だから朝日は、それで良いのよ」
「……そうですよね」
朝日は、今にも泣き出しそうになるのを堪え、無理矢理口角を上げる事で笑顔を見せていたわ。だけどそれを見た私は、ある事に気が付いたの。
「貴女、まさか……。ちょっと、手を借りるわね」
私は朝日の手の平を上に向かせ、そこに自分の手の平を重ねたわ。そして私は確信したの。朝日にも、魔力が備わっている事を。
「どうしたんですか、ソフィーさん?」
「朝日、今から貴女をこことは違う世界に連れて行くわ」
ベタではあるのだけれど、私に連れて行かれた魔法の国を見た朝日は、ほっぺを抓る事になっていたわ。
「いっ……たーっっ!!」
「それは痛いでしょうね。でも、これは現実にある魔法の国よ」
その後、私に魔法の国について簡単に聞かされた朝日。魔力をその身に宿していて、魔法の国の存在を信じれる者は行き来出来るのだと。
「じゃあ……ソフィーさんは魔法使い何ですか?」
「そう言う事になるわね。でも、私達は遣いと言って、戦う為に選定された魔法使いなの」
朝日は、思考回路がショート寸前であったでしょうね。まあ、それは仕方がない事なのだけれど、私の魔法を見る事で、現実の出来事だと朝日は認識する事になるの。
「魔法って、空を飛んだり出来るんですよね?」
「飛べない遣いもいるみたいだけど、ほらこの通りよ」
私は宙に浮いて見せたわ。そして朝日の手を取り一緒に浮いたの。そこで私は、朝日がまたギャーギャー騒ぐと思っていたのだけれど、朝日は呆然とするだけであったわ。
それには理由があったのだけれど、朝日は幼い頃に魔法使いのアニメを、熱心に見ていたからであったらしいの。そしていつしか、自分も飛べる筈だと思い込む様になっていた様だわ。
でも、当然一般世界で空を飛ぶ事など出来ないと理解してしまった朝日は、大人になるに連れ飛べる事を忘れてしまっていたの。
だけど今、地面から足が離れている事で、やはり飛べたのだと、朝日は再認識出来ていたみたいだわ。
「ソフィーさん……私、やっと気付けました。私はこの世界に来る為に、死ねなかったんだって」
「そうね。私も初めて魔法の国に来た時は、同じ様な思いだったわ」
でもそこで、1つ問題がある事を私は気付いてしまったの。朝日は魔術師の遣いでは無い為、戦闘魔法が使えないわ。ゼロの様に魔力は備わっいたので、魔法の国に来る事は出来たのだけれど、このままでは他の遣いに消されてしまう恐れがあるかも知れないの。
かと言って、遣いにしてくれる魔術師を探すのも大変な為、私が少しの間、魔法を教える事にしたわ。そして朝日に宿る魔法が、魚系を召喚させる力だと私は気付いたの。
「魚……ですか?」
「ええ、何か魚をイメージしてみなさい」
朝日は魚を思い浮かべ、1本のカツオを召喚する事に成功したわ。そこから朝日は、計12匹の魚を召喚したのだけれど、いずれも大きな魚ばかりであったの。
そして、その光景を見た私は驚く事になっていたわ。魔術師から魔力を供給されていないのにも関わらず、朝日がたった数日でこれだけの物体を召喚していたのだから。
「やっぱり、小さい魚の方が可愛いですね」
「……朝日、貴女は遣いには向いていないわ。だから……魔術師になりなさい」
突拍子も無い提案かも知れないけど、私はそう告げたわ。だけど、魔術師と遣いの違いを理解出来ていなかった朝日は、普通に了承してしまっていたの。
そもそも、魔術師と遣いの違いを簡単に例えるならば、親と子や師匠と弟子の様な関係であり、魔術師になるには子を守る為の力を身に付けなくてはいけないわ。でもそう考えると、既に私も魔術師ランクの魔力を発揮出来る様になっているので、親になるか、子のままでいるかの違いだけであったの。
そして朝日はまだ、形式上一般人であるので、魔術師になると言っても、領土を持つ事が出来ないわ。そこで、その日から猛特訓をする事になったの。
因みに、魔術師として認められるには、1人でも遣いを選定出来る様にならなければいけないらしいわ。
「ソフィーさん、色々有難う御座いました。私、頑張って魔術師になりますね」
「ええ。でも、朝日が魔術師であろうと遣いであろうと、魔法の存在を知ったからには、私の敵よ」
朝日は、少し複雑そうな顔をしていたわ。でも、もう少し後の話になるのだけれど、朝日は遣いを選定出来る程の魔術師になっているの。
そして私は休暇を終え、フランスへと帰国し、仕事場へ出勤していたわ。
「後、2か月も経てば、今年も終わりね」
「どうしたのソフィー。何かやり残した事でもあるの?」
私がやり残した事と言えば、神黒翡翠を手にする事が出来なかった事。もしこのままの状態が続けば、隼の記憶が戻る事は無いわ。それだけは、私にとってどうしても許されない事であったの。
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