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ディズヌフ(19) 「グラデーションの様に」

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 私との戦いの為、特訓をしていた遣いのダン。だけどダンの前には、神の魔法を使うソニアが現れ、魔法の国から消される事になってしまったの。

 そしてソニアは、次々と遣い達を葬り去って行き、翡翠の友達である遣いのアリスまで倒してしまっていたわ。でもアリスは魔術師の父に、残りの魔力を受け継ぐ事で、アリス自身が仮魔術師になる事になったらしいの。

 続いてソニアはマリアを倒す為、領土に訪れたそうなのだけれど、逆にマリアに追い詰められてしまった様だわ。そこでマリアはトドメの魔法を放とうとしたらしいのだけれど、そこにもう1人の神使いであるヤーナが現れ、ソニアは危機を脱する事になってしった様なの。

 その後、ヤーナとソニアの神使い達は、結託する事になってしまったのだけれど、マリアも2人を敵に回すのは厄介だと考え、私の領土へと赴く事になっていたわ。

 と、その2時間程前に私は、一般世界にいたのだけれど。



「ゼロ、ご飯よ」

「……ソフィー、魔法の国で今、マリアが戦っているよ」

 ゼロはその状況を簡単に説明してくれたわ。最近遣いになったソニアと言う少女と、マリアが戦っているのだと。

 そしてマリアが優勢であったらしいのだけれど、ソニアは神の魔法を宿している事を私は教えて貰ったの。


「神の魔法? でも、マリアが優勢なんでしょ?」

「うん。マリアが勝ったみたいだ。でも……もう1人の神使いが現れたよ」

 ソニアとヤーナの存在を聞かされた私。その後、私はマリアが来る事をゼロに聞かされていたので、魔法の国で待つ事にしていたわ。

 そして現時点に戻って。


「ソフィー、単刀直入に言いますわ。私と手を組みなさい」

「成る程ね。しかし、条件があるわ。戦闘は、私が前衛でマリアは後衛よ」

 流石に私も、2人の神使いを相手にするのは骨が折れると考え、マリアと共闘する事にしたの。

 そして、それから数日が過ぎたのだけれど、ソニア達の行動も一旦止まっていた様だわ。

 そこで私達は先手を打つ為、ソニアの領土へ向かう事になったの。


「さあ、ソフィー。この戦いを制しますわよ」

「貴女こそ、呉々も私の足を引っ張らない様にしなさい」

 颯爽と出向く私達であったのだけれど、そこには既にソニアとヤーナが待ち構えていたわ。

 そして、私とマリアは変身呪文を唱え、戦闘体勢に入ったの。


「我に誓いしその力 今この時この瞬間
無限の数で突き動かん……ソフィー……エボリューションっ!」

「我に奏でしその力 今この時この瞬間 聖なる音源で魅了せん……マリア……エボリューションっ!」


 以前、私とマリアは、本気の戦いをした事があるわ。その時は僅差であったのだけれど、私が勝利する事となったの。だけど、私達もまた、遣いとしてトップクラスの強さを誇っていると自負しているわ。

 そんな私達は言葉を交わさずとも、己の役割を把握し戦う事になっていたの。マリアは1度対決したソニアと。私はヤーナとぶつかり合う事になったの。


「マリア、この前の仕返しをするわよ」

「掛かっていらっしゃい、ソニア」

 ソニアは先制で、ガンガーの『ワニ』 、ハヌマーンの『大猿』、 ピシャーチャの『鬼神』 を呼び出し、攻撃を開始した様ね。

 そして、私とヤーナは。


「ソフィーさん、貴女は冷静沈着で……慈悲など掛けない非情な心の持ち主だと聞きました」

「その通りよ。私はね、精神的に弱い者が嫌いなの。例えば……ヤーナの様な人間よ」

 私は、この戦いに出向く前に、魔法の国から直接ある場所へ訪れていたの。そこはヤーナの住むエジプトであったのだけれど、私はヤーナについて少しだけ聴き込みをしていたわ。

 普通に考えて、神の能力を使う遣い相手では苦労すると私は考え、ヤーナの弱点に成り得る情報を掴もうとしていたの。

 そして、ヤーナは遣いになる前に、イジメられていた事を知った私は、ヤーナが精神的に弱いのだと考え、今の言葉を突き付ける事で、様子を観察する事にしたのだけれど。


「私が弱いですって? 確かに以前の私はそうだったかも知れない。だけど……今は違うわっ。メンヒトっ!」

 私の言葉で、ヤーナは逆上してしまっていたわ。この作戦は当たりだった様ね。そしてヤーナはメンヒトの『ライオンの女神』 である魔法を使い、鋭い牙で私に襲い掛からせたの。

 だけど私にとって、大した知能を持た無い猛獣など、この魔力によって軽々と押さえ付けてしまっていたわ。


「私を倒したければ、殺す気で来なさい。でないと貴女がまた……泣く事になるわよ」

 私の言葉で、更に半錯乱状態になってしまったヤーナ。そして、次々と神の魔法をヤーナは放って来たの。


「ウプウアウトっ、ハピっ、ハトメヒトっ、ベスっ、ゲブっ、レーっ、アムンっ……モンチュっ!!」

「滅茶苦茶ね。でも魔力を乱発したところで、1つ1つの威力が落ちているわよ。アン、ドゥ、サンクっ!」

 私は、ヤーナが乱発させて来た神の魔法を全て凌ぎ切ったわ。


「どうして……どうして貴女は私を…………イジメるのよっ!?」

 ヤーナは、前回の戦いの時もそうであったらしいのだけれど、『イジメ』 と言う言葉を無意識に発してしまっていたの。

 それは、子供の頃から受けて来た行いが、トラウマとして染み付いてしまっている証拠であったわ。遣いになり神の力を手に入れたヤーナであったのだけれど、イジメられていた記憶は拭いきれない過去であったのよ。


「貴女は既に、負けを認めた様ね」

 私はトドメの魔法として、トロアを放ったわ。トロアは数字の『3』 を示し、アンデットマスターである『以前生存していた聖職者を呼び出す』 能力なの。

 そしてヤーナの前に、欠かさず通っていたらしいコパト教会の、今は亡き神父を出現させたわ。


「神父様……。私は、私はどうすればっ」

 私の魔法で出現させた神父は、ヤーナに告げたわ。弱さもまた、強さであり、己の内にある弱き心を認めるのだと。

 そして、その言葉を聞かされたヤーナは、完全に戦意を失う事になってしまっていたの。

 一方、マリアもソニアを追い詰める事になっていた様だわ。


「残念でしたわね、ソニア。化け物さん達はこの通り、私の音で静まり返ってしまいましたわよ?」

 神をも震えさせるマリアの音により、ソニアが放っていた魔力は、封じ込まれてしまう事になっていたらしいの。

 だけど、そこで諦めるソニアでは無く、ルドラの暴風攻撃を放った様ね。でもマリアは、その暴風さえも聖なる音で切り裂いてしまっていたわ。


「どう言う事なの? ヤーナも苦戦してるみたいだし、何で神の力が押されてるのよっ!」

 その答えは至って単純な事であったの。ソニアやヤーナが使っている神の魔法には、『神』 の力など備わってい無かったからよ。

 元々、神と言う存在は、人間が創り出した虚像なのだから。

 勿論、信じている人には、その存在を見る事が出来るのかも知れないわ。でも、現代科学で立証されていない現象は、大抵の人に理解されないの。

 だけど、ソニアとヤーナは神の存在を信じ、魔法として使っていたのだけれど、それを信じない私とマリアには、通用しなかったと言う事ね。

 魔法の力自体、一般の人にしてみれば、非現実の出来事であるのかも知れないけど、もしそれをも超越する神の力を使えるのならば、戦わずともその者の勝利は決まっている筈だわ。それにも関わらず、私とマリアに追い詰めらていると言う事は、少なくともこの世界に神は存在しない事になるのでしょうね。

 そして、マリアは全ての音を組み合わせソニアに一撃を与え、私もヤーナにトドメを刺したわ。


「いや……この力を失いたくない……も う……イジメられたくなんかないのっ!!」

「……辛さはね、他力本願で紛らすものでは無いわ。己だけの強さで打ち砕くものなのよ」

 私の言葉を聞いたヤーナは、止めどなく涙を流す事になっていたわ。

 魔法を使えなくなってしまう自分には、もう何も残っていないのだと察したからでしょうね。それは、以前の様にイジメられるだけの日々が訪れてしまう事であり、そして自分に出来る事は、神に祈る事だけしか無くなってしまうと言う事だったのかも知れないわ。


「神様だけがっ、私の救いなのよっ!!」

「いいえ、貴女にも自分の意思があるわ。願いを乞うならば神では無く、自身の中に存在する真心に乞いなさい」

 祈りの言葉さえ、失ってしまったヤーナ。そして私とマリアの魔法で、2人は完全に魔力を消費させられてしまい、魔法の国から去る事になってしまっていたわ。

 その後、私はマリアに、ここで決着を付けるかと言い渡したの。だけどマリアは体力の限界であった様で、私は次会う時に倒すと言い残し、一般世界へと帰って行ったわ。

 私自身、隼以外の遣いと初めて共闘する事となっていたの。それは、無意識の事であったのだけれど、遣いになりたての頃の私の心境とは違う変化が起きていた様だわ。

 昨日の自分と比べても、その変わりようは気付けないでしょうね。でも、1ヶ月、1年と月日が過ぎて行くにつれ、徐々にだけれど、その者が本来持っていた色とは、全く別の色になっている事もあるのだと、私は少しだけ実感していたわ。

 私もまた、多くの経験をして来た事により、冷たかった筈の色に、温かみを帯びた色を混ぜていたのかも知れないわね。マリアや翡翠にダンと……その中心にいる、隼との出会いのお陰で。

 と、その頃、隼は何をしているかと言うと、


「隼、ちょっと来い。お前に部下を付けてやる」

「初めまして。今日からお世話になります、南 靨です。先輩、宜しくお願いしますね」

 南 靨(みなみ えくぼ)。取り敢えず、魔法に関係する人物では無い様なのだけれど……。


「えと、鈴本 隼です。てか先輩、新入社員が来る何て聞いてませんでしたよ?」

 実を言うとエクボは、先輩の従妹であるらしいわ。今年で23歳になる様なのだけれど、高校を卒業してからと言うもの、ずっとニート生活をしていたらしいの。それを見兼ねた先輩はコネを使い、無理矢理エクボを入社させていたのだと、私は後に聞く事になったわ。

 でも、エクボは手先が器用であるらしく、自室で物作りをしていた事を知っていた先輩は、隼の部下として働かせてる事で更生させ様と考えていた様ね。因みにこの会社の社長は、先輩の幼馴染である為、コネを使えたらしいの。

 そして更に先輩は、2人の相性が合うようであれば、結婚させようと……目論んでいた様だわっ!!


「んじゃ隼、エクボをヨロシクな」

「はぁ……。じゃあ南さん、先ずは」

「エクボで良いですよ、隼先輩」

 かくして、エクボの面倒を任されてしまった隼。記憶を失っている事と、幸い近くに私が居ない為、三角関係的な事にはならないのでしょうが、隼の日常にちょっとした変化をもたらす事になるらしいわ。


「じゃあ、エクボさん」

「さんはいりませんっ。若しくは、ちゃんでお願いします」

 いきなり我儘を言い出したエクボ。だけど、一応会社内である為、一般常識として『さん』 を付ける事にした隼だったらしいわ。

 そしてこんな調子で、中々仕事の話に進められなかった隼は、ある物を持ち出しエクボにやらせる事にしたそうなの。それは立方体の形をし、一面が9分割されていて、6つの色があるオモチャであった様だわ。隼はそれをエクボに渡し、何面まで揃える事が出来るか試させたらしいの。


「そうだなぁ、3面揃えられたら」

「出来ました」

 速攻で、6面の色を揃えてしまったエクボ。流石に偶然だと思った隼は、その後何度か試させたらしいのだけれど、完璧に揃えてしまうエクボであった様なの。

 このオモチャは、空間認識能力を鍛える物らしいのだけれど、女性には難しいとされているそうだわ。だけど、ニート生活をしていたエクボは偶然部屋で、スポーツ観戦や片付けなどを小まめにすることで、右脳が鍛えられていたらしいの。


「これなら仕事に活かせるぞ、エクボ……さん」

 隼は物を造る仕事をしているのだけれど、平面だけでは無く、立体的に想像をしなければいけない為、空間認識能力は欠かせないそうだわ。

 そして少し時間を進め、私も会社へと出勤しよとしていたのだけれど、ゼロの声を聞く事になっていたの。


「ソフィー、言って良いものかどうか何だけど……」

「どうしたの、ゼロ?」

 ゼロは、隼の近くに女性がいる事を知っていたらしいの。だけど、この事を私に伝えてしまうと、機嫌が悪くなってしまい、晩御飯に影響が出ると考えたらしく、適当に誤魔化した様だわ。


「いや、何でも無いんだ。今日も仕事頑張ってね」

 でも、私は会社でクシャミが止まらなくなり、何か起きているのだと気付いてしまっていたの。だけど、隼の事とは到底思わず、気の性だと言う事で結論付ける事にしたわ。

 そして隼達に戻り、終業後にエクボの入社祝いをしていたらしいのだけれど、隼はエクボに絡まれる事となっていた様だわ。


 「エクボ、働くってのは素晴らしい事だろ」

「まあ、それなりにね。そう言えば隼はさ、記憶喪失何んだって?」

 少し……いや、大分お酒が入っている状態であった為、エクボは無礼講全開であった様なの。


「ああ、4年分くらい抜けてるんだよ」

「んんん~……良し。頭貸して」

 エクボは徐に隼の頭を右腕でロックし、小突き始めたそうだわ。ショック療法で治そうとしていたらしの。


「ちょっ、先輩、何とかして下さいよっ!」

「いや~、良い光景だ。うちの娘はやれんが、エクボなら持って行って良いぞ」

 こんな調子で隼の日常は、先輩とエクボに乱されて行ったらしいわ。

 そして私は後数ヶ月程で、次に現れる神黒翡翠に出会う事になるのだけれど…………。


 と言うか、そこでも私は神黒翡翠を手にする事は出来ないの。
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