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ヌフ(9)「君への贈り物」
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隼の元にはカイリー、私の会社にはルシフェルと言う遣いがやって来ていたの。
ただ、カイリーは偶然、隼の会社に研修で来ていていたらしいのだけれど、ちょっとした騒動で互いが遣いだと分かってしまったらしいわ。
だけど、私の前に現れたルシフェルは、『黄道12宮悪魔』 を魔法として使い、私が使う『黄道12宮天使』 の魔法を確認する為、来訪していた様なの。
そしてカイリーとルシフェルは、去り際にある事を告げて行ったわ。
「隼、1ヶ月後のクリスマスイブに、魔法の国で会いましょう」
「ちょっと待て、カイリー。俺は、お前と戦いたく無いぞ?」
「それでも……来て、隼」
そう言い残し、カイリーは去って行ったそうなの。そしてルシフェルも同じ様に、私に告げていたわ。
「ソフィー、俺は悪魔使いだが、聖夜に決着を付ける事にするぞ」
「1ヶ月も先? どうせなら、今やりましょうよ?」
食って掛かる私に、お楽しみはジラすものだとルシフェルは告げていたわ。更にルシフェルは、私が2度と魔法の国へ来れない様にしてやると言い放ち、去って行ったの。
遅かれ早かれ、戦う事を宿命づけられている私達遣い。そして、神黒翡翠を手に出来る者は、たった1人だけだと言う事は、誰もが知っている事だわ。
「ヤマト、オーストラリアの魔術師って知ってるか?」
「ああ、確かクリス ジャックマンとか言う魔術師だな」
続いてヤマトは、衝撃的な事実を告げたらしいわ。少し前、その魔術師であるクリスの領土が、自分達の隣に出来たのだと。要するに、隼達の領土の隣には、カイリーがいると言う事ね。
魔法の国の領土は、新たな魔術師が来る事により出現するの。だけど逆に、何らかの理由により魔術師が消えると、その領土も消滅する事になるか、他の魔術師の領土となるわ。
そして偶然にも、ヤマトの領土の隣にカイリーがいる事を知った隼は、早速挨拶に行く事にしたらしいのだけれど。
「お~いカイリ~、いるか~?」
その領土にカイリーはいた様なのだけれど、約束の日まで会わないと決めていた為、顔を出す事は無かったらしいわ。
だけど隼は、24日の日にカイリーと会う意味を、薄々気付いていたそうなの。きっと、戦わなければいけないのだと。そして、期日の1週間前へと時間は迫り来ていたわ。
「ソフィー、お疲れ様。あと少しで、今年も終わりだね」
「そうね。でも、今年は色々あった年だったわ」
その後、私は同僚と食事をする事になったの。そこで同僚は、私を少しだけ困らせる質問をして来たわ。
「ソフィーはさ、彼氏とかいないの?」
「ちょっ、直球な質問ね? いないわよ。まぁ、気になる人は……」
同僚はその言葉を聞き漏らさず、弾丸の如く私に質問をし始めて来たわ。普段、男っ気の無い私に気になる人がいると言うのだから、それはもう知りたくて仕方がなかったのでしょうね。
「もしかして人事部の、ジャンの事? 」
立て続けに、男性の名を言い出す同僚。リュックなのか、はたまたジェラーなのか。いやまさか、ルシフェルではないのかと。
だけど私は、全てハズレだと言ったわ。当然、ルシフェルの時は語気を最も強めてね。
「私、日本へ商談に行った事があるでしょ? その時に出会った人かな」
「マジでっ!? 超遠距離恋愛だよ、それ」
私はそれでも、今は会う為の努力をしているのだと言ったわ。魔法の国の事は一般人の人に話せないのだけれど、ある戦いで勝ち続けなればいけないのだと説明したの。
だけど、次の相手(ルシフェル) には苦戦するかも知れないと、私は同僚から目をそらして言ったわ。
「そうだ。私、その戦いでもし負けてしまったら、記憶が無くなるかも知れないの。その時は、面倒を見てあげて」
同僚も初めて見る私の弱気に、ソフィーなら大丈夫だと励ましてくれたわ。
そしてその頃、隼も先輩と同じ様な話をしていたらしいの。
「隼、ソフィーちゃんが好きなら、休みにフランスまで会いに行って来いよ」
「いや、ちょっと事情がありまして、今は会え無いんですよ」
煮え切らない隼の態度に、ヘッドロックをかましたらしい先輩。そして、会えないのならば、クリスマスプレゼントくらい送れと、更に締め付けを強くされる隼だったそうよ。
「分かったか、隼っ!」
「はっ、はい。了解しま、痛てててっ!」
だけど隼は、女性にクリスマスプレゼントを贈るなど初めての事であったらしく、悩みまくる事になってしまったそうだわ。
会社も繁忙期である為、オリジナルの贈り物を製作する時間も無いでしょうね。そこで隼は、定番のマフラーを選ぶ事にしたらしいのだけれど。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「クリスマスプレゼントに、マフラーを贈ろうかと」
店員は目を光らせ、ブランド品売り場に案内したそうだわ。だけど、そこで勧められた商品に、隼は驚愕する事になってしまったらしいの。ブランドであるカシミヤマフラーの値段は、7万円近くする品ばかりであったのだそうよ。
「これ何かプレゼントされたら、彼女さんは貴方にメロメロですよぉ」
「いや、逆に引きますね」
入社して1年目の隼にとって、ボーナスは出ていたものの、やはり高価過ぎる品であった為、諦める事となったらしいわ。
そして店内をウロウロする隼は、ある店の前で足を止める事になったそうなの。その店はアクセサリー売り場であったらしいのだけれど、小さな工房が設置されていて、その場で製作して貰えると言う店だったそうよ。
「何? 兄ちゃん、シルバーに興味あんの?」
「あ、はい。えとぉ、そこでですね、1つお願いがあるのですがぁ……」
隼はその工房を借り、自分で製作したいと言い出したらしいわ。
そこでピアス全開の店員は了解し、隼は仕事の邪魔をしない様、私へのプレゼントを製作してくれていたらしいの。
そして1時間程でアクセサリーを完成させた隼であった様なのだけれど、それを見た店員は驚愕する事になっていたらしいわ。
「にっ、兄ちゃん、これは……」
「指輪です。土台になるリングがありましたから楽でした」
アクセサリー製作のプロである店員も、隼の作品を見て固まってしまう程の出来であったそうなの。
そして隼は品代と工房借り賃を払い、フランスへの発送手続きを完了させたらしいわ。
「25日に着けば良いよな。じゃあ、有難う御座いました~」
その頃、私も隼の為にプレゼントを探していたの。だけどいかんせん、私もプレゼントを贈るなど初めての事であった為、苦戦を強いられる事になっていたわ。
「なっ、何を贈れば良いのかしら……」
私の頭の中では何故か、武器系のプレゼントが浮かんでいたの。サバイバルナイフ、メリケンサック、ヌンチャクなどであったのだけれど、流石にクリスマスプレゼントとして贈る物では無いと我に返り、更に悩む事となっていたわ。
と、そこへ、1人の老婆が私に話し掛けて来たの。
「お嬢さん、何かお困りですか?」
「クリスマスプレゼントを探しているのですけど、中々決められなくて」
老婆は徐に私の手を取り、目を見つめ始めたわ。私も理解出来ない状況であったのだけれど、老婆は手を離し語り出したの。
私が稀有な人生を歩んでいる事。そこで出会った者達と争いが行われている事を。そしてその思いの中心には、1人の青年が存在していると言い当てたの。
「お嬢さんは、その彼の為にプレゼントを探しているんだね?」
一瞬、私は老婆を警戒してしまったわ。一般の人間であろう筈の者が、ここまで的確に私のして来た出来事を言い当てたのだから。
「お婆さん、魔法や遣いと言う言葉に、関連した人では無いわよね?」
その問いに老婆は、ほんの少しだけ当たりだと言ったの。そのほんの少しとは、魔法とは別に、人の人生が覗ける能力を持っていると言う事であったわ。
それは占いに似ていたのだけれど少し違い、予知の能力であったの。簡単に例えるならば『こうなるだろう』 では無く、『こうなる』 と言った明言を言う事ね。
「プレゼントならば、手袋にしなさい。手を温めると、心も朗らかになれるから」
「……そうね、そうするわ。お婆さん、プーボワール(チップ) よ」
別れ際に老婆は、もう二言私に告げたわ。悲しみは一瞬で消え、もう1度私らしい世界の扉が開くと。
それは、『終わりと始まり』 を意味する言葉であったのだと、私はもう少し後に気付く事になるの。
「忘れてしまうでしょうが、貴女を導く数字は、『ヌフ』 よ」
その後、私は老婆に助言されたマフラーを買い、日本へ25日に着く様発送手続きを済ませたわ。
そして12月24日が来てしまい、仕事から帰宅した隼と私は、魔法の国へ行く準備をしていたの。
「良しっ。そろそろ約束の時間だな……」
「さて、そろそろ鬼退治にでも出かけますか」
互いに覚悟を決め、魔法の国へ移動したわ。だけど、これから起こるであろう戦いに勝利しなければ、忘れてはいけない思い全てを失ってしまう事になってしまうの。
そして隼は、私の顔を思い浮かべてくれていたらしく、私は隼の声をその記憶に呼び戻し、魔法の国へと着いたわ。でもそこには既に、カイリーとルシフェルが待ち構えていたの。
「隼、来てくれてありがとう」
「カイリー……俺達は、戦わなければいけないのか?」
隼の問いにカイリーは俯いたまま、変身呪文を唱えたそうだわ。
「……我に潜みしその力 今この時この瞬間 深き眠りより目覚めん……カイリー……エボリューションっ!」
カイリーは己の魔法を鍛える為、隼と別れた後猛特訓をしていた様なの。そして元々飲み込みの早いカイリーは、たった1ヶ月でその能力を身に付けていたらしいわ。
その能力とは『十二真刀魔法』 と言うらしく、カイリーにより厳選された十二口(じゅうにくち) の日本刀を用いた戦闘魔法であったそうなの。
「凄いな、カイリー。魔法で刀を作っちまう何て」
「隼、私の願いの1つはね、本物の日本刀を造る事なの」
魔法で造られた刀は、本物の日本刀よりも斬れ味は優れている筈なの。それでもカイリーは、一般人のまま自分の手で日本刀を造りたいと考えていたらしいわ。
だけど、どう足掻いても今のカイリーでは造る事が出来ず、神黒翡翠の力でその技法を会得したいと願っていたらしいの。
でも隼は、それは違うと言ったらしいわ。刀であれ何であれ、己の発想と努力で造り上げなければ意味が無いのだと。
魔法の力を使えば、苦労なく完成させる事が出来るでしょうね。それでもそれは、本物を模しただけの模造品で、そこには魂の欠けらなど一片も無いのだと、隼は言ったそうよ。
そして、カイリーだけの刀を造りたいのであれば、遣いを辞め一般人として成し遂げなくてはいけないと隼は告げたらしいの。
「カイリー、お前なら出来る筈だっ」
「……隼なら困難を乗り越えられるかも知れないけど、私には無理なのっ!! 菊一文字っ!」
魔力で精製した刀を握り締め、カイリーは隼に斬り付け掛かったらしいわ。そして止む無く隼も変身し構えたそうなのだけれど、どうしてもカイリーに反撃する事が出来ずにいた様なの。
「やめてくれ、カイリーっ」
隼の言葉はカイリーに届かず、攻撃の勢いは増すばかりであったらしいわ。
それもその筈。カイリーの精製した日本刀の中には『蜘蛛切丸』 と言う妖刀が含まれていたらしく、カイリーの身体はその意図とは反した動きをさせられていた様なの。
「私に……神黒翡翠を譲ってよっ!!」
十二口全ての刀を宙に浮かせ、まるで矢を放つかの如く、カイリーは隼を狙い撃ちしてしまったそうだわ。
だけど隼はその場を動こうとはせず、全ての刀を受けてしまう事になってしまったらしいのだけど……。
「……やっぱりな。カイリーは、強くて優しい子だ」
放たれた刀の全ては、隼の身体を一寸避けて地面に突き刺さっていたそうだわ。
カイリーは最後の最後で、妖刀の魔力に打ち勝ったと言う事ね。そして、隼に近付いたらしいのだけれど、その身体は消えかけてしまっていたらしいの。
カイリーはここに来る前、魔術師とある約束をしていたそうだわ。その約束とは、もし隼を倒せなかった場合、自分を遣いの任から解いてくれと言う事であったらしいの。
「私も隼に……世界で1つだけの物を……作って貰いたかったなぁ……」
魔法の国から、隼の様子を眺めていたカイリーは、私への贈り物を作っているその姿を知っていたらしいわ。
「カイリー……分かった。今度、日本に来た時作ってやるよ」
「うんっ。約束だよ、隼」
カイリーは、涙目と笑顔を入り混ぜながら、一般世界へと戻って行ったそうなの。
その後、カイリーの記憶は数年分失われてしまう事になってしまっていた筈だわ。そして隼との思い出も消えてしまったのでしょうけど、カイリーはきっとまた日本を訪れると、隼は思っていたそうよ。
カイリーが、日本刀に興味を持ち始めたのは、小学生の頃からであったそうだから。
「さて、俺も帰るとする……ん? この気配は、ソフィーかっ!? いや待て……神黒翡翠の魔力も感じるぞ?」
私も隼と同時刻に魔法の国へ来ていて、ルシフェルと対峙していたわ。
そして2組の戦いにより、神黒翡翠は感化されたかの様に魔力を放ち、その姿を示そうとしていたの。
「良く逃げ出さずに来たな、ソフィー」
「逃げる理由が無いわね。私は貴方に敗北する事など無いのだから」
私は魔法の国へ来た時点で、隼がいる事に気が付いていたわ。ならば尚更負ける訳には行かないと、ルシフェルの動きに集中していたの。
「ソフィー、俺には勝てない事を思い知るらせてやるぞ。我を誘うその力 今この時この瞬間 闇の底から蘇らん……ルシフェル……エボリューションっ!」
ただ、カイリーは偶然、隼の会社に研修で来ていていたらしいのだけれど、ちょっとした騒動で互いが遣いだと分かってしまったらしいわ。
だけど、私の前に現れたルシフェルは、『黄道12宮悪魔』 を魔法として使い、私が使う『黄道12宮天使』 の魔法を確認する為、来訪していた様なの。
そしてカイリーとルシフェルは、去り際にある事を告げて行ったわ。
「隼、1ヶ月後のクリスマスイブに、魔法の国で会いましょう」
「ちょっと待て、カイリー。俺は、お前と戦いたく無いぞ?」
「それでも……来て、隼」
そう言い残し、カイリーは去って行ったそうなの。そしてルシフェルも同じ様に、私に告げていたわ。
「ソフィー、俺は悪魔使いだが、聖夜に決着を付ける事にするぞ」
「1ヶ月も先? どうせなら、今やりましょうよ?」
食って掛かる私に、お楽しみはジラすものだとルシフェルは告げていたわ。更にルシフェルは、私が2度と魔法の国へ来れない様にしてやると言い放ち、去って行ったの。
遅かれ早かれ、戦う事を宿命づけられている私達遣い。そして、神黒翡翠を手に出来る者は、たった1人だけだと言う事は、誰もが知っている事だわ。
「ヤマト、オーストラリアの魔術師って知ってるか?」
「ああ、確かクリス ジャックマンとか言う魔術師だな」
続いてヤマトは、衝撃的な事実を告げたらしいわ。少し前、その魔術師であるクリスの領土が、自分達の隣に出来たのだと。要するに、隼達の領土の隣には、カイリーがいると言う事ね。
魔法の国の領土は、新たな魔術師が来る事により出現するの。だけど逆に、何らかの理由により魔術師が消えると、その領土も消滅する事になるか、他の魔術師の領土となるわ。
そして偶然にも、ヤマトの領土の隣にカイリーがいる事を知った隼は、早速挨拶に行く事にしたらしいのだけれど。
「お~いカイリ~、いるか~?」
その領土にカイリーはいた様なのだけれど、約束の日まで会わないと決めていた為、顔を出す事は無かったらしいわ。
だけど隼は、24日の日にカイリーと会う意味を、薄々気付いていたそうなの。きっと、戦わなければいけないのだと。そして、期日の1週間前へと時間は迫り来ていたわ。
「ソフィー、お疲れ様。あと少しで、今年も終わりだね」
「そうね。でも、今年は色々あった年だったわ」
その後、私は同僚と食事をする事になったの。そこで同僚は、私を少しだけ困らせる質問をして来たわ。
「ソフィーはさ、彼氏とかいないの?」
「ちょっ、直球な質問ね? いないわよ。まぁ、気になる人は……」
同僚はその言葉を聞き漏らさず、弾丸の如く私に質問をし始めて来たわ。普段、男っ気の無い私に気になる人がいると言うのだから、それはもう知りたくて仕方がなかったのでしょうね。
「もしかして人事部の、ジャンの事? 」
立て続けに、男性の名を言い出す同僚。リュックなのか、はたまたジェラーなのか。いやまさか、ルシフェルではないのかと。
だけど私は、全てハズレだと言ったわ。当然、ルシフェルの時は語気を最も強めてね。
「私、日本へ商談に行った事があるでしょ? その時に出会った人かな」
「マジでっ!? 超遠距離恋愛だよ、それ」
私はそれでも、今は会う為の努力をしているのだと言ったわ。魔法の国の事は一般人の人に話せないのだけれど、ある戦いで勝ち続けなればいけないのだと説明したの。
だけど、次の相手(ルシフェル) には苦戦するかも知れないと、私は同僚から目をそらして言ったわ。
「そうだ。私、その戦いでもし負けてしまったら、記憶が無くなるかも知れないの。その時は、面倒を見てあげて」
同僚も初めて見る私の弱気に、ソフィーなら大丈夫だと励ましてくれたわ。
そしてその頃、隼も先輩と同じ様な話をしていたらしいの。
「隼、ソフィーちゃんが好きなら、休みにフランスまで会いに行って来いよ」
「いや、ちょっと事情がありまして、今は会え無いんですよ」
煮え切らない隼の態度に、ヘッドロックをかましたらしい先輩。そして、会えないのならば、クリスマスプレゼントくらい送れと、更に締め付けを強くされる隼だったそうよ。
「分かったか、隼っ!」
「はっ、はい。了解しま、痛てててっ!」
だけど隼は、女性にクリスマスプレゼントを贈るなど初めての事であったらしく、悩みまくる事になってしまったそうだわ。
会社も繁忙期である為、オリジナルの贈り物を製作する時間も無いでしょうね。そこで隼は、定番のマフラーを選ぶ事にしたらしいのだけれど。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「クリスマスプレゼントに、マフラーを贈ろうかと」
店員は目を光らせ、ブランド品売り場に案内したそうだわ。だけど、そこで勧められた商品に、隼は驚愕する事になってしまったらしいの。ブランドであるカシミヤマフラーの値段は、7万円近くする品ばかりであったのだそうよ。
「これ何かプレゼントされたら、彼女さんは貴方にメロメロですよぉ」
「いや、逆に引きますね」
入社して1年目の隼にとって、ボーナスは出ていたものの、やはり高価過ぎる品であった為、諦める事となったらしいわ。
そして店内をウロウロする隼は、ある店の前で足を止める事になったそうなの。その店はアクセサリー売り場であったらしいのだけれど、小さな工房が設置されていて、その場で製作して貰えると言う店だったそうよ。
「何? 兄ちゃん、シルバーに興味あんの?」
「あ、はい。えとぉ、そこでですね、1つお願いがあるのですがぁ……」
隼はその工房を借り、自分で製作したいと言い出したらしいわ。
そこでピアス全開の店員は了解し、隼は仕事の邪魔をしない様、私へのプレゼントを製作してくれていたらしいの。
そして1時間程でアクセサリーを完成させた隼であった様なのだけれど、それを見た店員は驚愕する事になっていたらしいわ。
「にっ、兄ちゃん、これは……」
「指輪です。土台になるリングがありましたから楽でした」
アクセサリー製作のプロである店員も、隼の作品を見て固まってしまう程の出来であったそうなの。
そして隼は品代と工房借り賃を払い、フランスへの発送手続きを完了させたらしいわ。
「25日に着けば良いよな。じゃあ、有難う御座いました~」
その頃、私も隼の為にプレゼントを探していたの。だけどいかんせん、私もプレゼントを贈るなど初めての事であった為、苦戦を強いられる事になっていたわ。
「なっ、何を贈れば良いのかしら……」
私の頭の中では何故か、武器系のプレゼントが浮かんでいたの。サバイバルナイフ、メリケンサック、ヌンチャクなどであったのだけれど、流石にクリスマスプレゼントとして贈る物では無いと我に返り、更に悩む事となっていたわ。
と、そこへ、1人の老婆が私に話し掛けて来たの。
「お嬢さん、何かお困りですか?」
「クリスマスプレゼントを探しているのですけど、中々決められなくて」
老婆は徐に私の手を取り、目を見つめ始めたわ。私も理解出来ない状況であったのだけれど、老婆は手を離し語り出したの。
私が稀有な人生を歩んでいる事。そこで出会った者達と争いが行われている事を。そしてその思いの中心には、1人の青年が存在していると言い当てたの。
「お嬢さんは、その彼の為にプレゼントを探しているんだね?」
一瞬、私は老婆を警戒してしまったわ。一般の人間であろう筈の者が、ここまで的確に私のして来た出来事を言い当てたのだから。
「お婆さん、魔法や遣いと言う言葉に、関連した人では無いわよね?」
その問いに老婆は、ほんの少しだけ当たりだと言ったの。そのほんの少しとは、魔法とは別に、人の人生が覗ける能力を持っていると言う事であったわ。
それは占いに似ていたのだけれど少し違い、予知の能力であったの。簡単に例えるならば『こうなるだろう』 では無く、『こうなる』 と言った明言を言う事ね。
「プレゼントならば、手袋にしなさい。手を温めると、心も朗らかになれるから」
「……そうね、そうするわ。お婆さん、プーボワール(チップ) よ」
別れ際に老婆は、もう二言私に告げたわ。悲しみは一瞬で消え、もう1度私らしい世界の扉が開くと。
それは、『終わりと始まり』 を意味する言葉であったのだと、私はもう少し後に気付く事になるの。
「忘れてしまうでしょうが、貴女を導く数字は、『ヌフ』 よ」
その後、私は老婆に助言されたマフラーを買い、日本へ25日に着く様発送手続きを済ませたわ。
そして12月24日が来てしまい、仕事から帰宅した隼と私は、魔法の国へ行く準備をしていたの。
「良しっ。そろそろ約束の時間だな……」
「さて、そろそろ鬼退治にでも出かけますか」
互いに覚悟を決め、魔法の国へ移動したわ。だけど、これから起こるであろう戦いに勝利しなければ、忘れてはいけない思い全てを失ってしまう事になってしまうの。
そして隼は、私の顔を思い浮かべてくれていたらしく、私は隼の声をその記憶に呼び戻し、魔法の国へと着いたわ。でもそこには既に、カイリーとルシフェルが待ち構えていたの。
「隼、来てくれてありがとう」
「カイリー……俺達は、戦わなければいけないのか?」
隼の問いにカイリーは俯いたまま、変身呪文を唱えたそうだわ。
「……我に潜みしその力 今この時この瞬間 深き眠りより目覚めん……カイリー……エボリューションっ!」
カイリーは己の魔法を鍛える為、隼と別れた後猛特訓をしていた様なの。そして元々飲み込みの早いカイリーは、たった1ヶ月でその能力を身に付けていたらしいわ。
その能力とは『十二真刀魔法』 と言うらしく、カイリーにより厳選された十二口(じゅうにくち) の日本刀を用いた戦闘魔法であったそうなの。
「凄いな、カイリー。魔法で刀を作っちまう何て」
「隼、私の願いの1つはね、本物の日本刀を造る事なの」
魔法で造られた刀は、本物の日本刀よりも斬れ味は優れている筈なの。それでもカイリーは、一般人のまま自分の手で日本刀を造りたいと考えていたらしいわ。
だけど、どう足掻いても今のカイリーでは造る事が出来ず、神黒翡翠の力でその技法を会得したいと願っていたらしいの。
でも隼は、それは違うと言ったらしいわ。刀であれ何であれ、己の発想と努力で造り上げなければ意味が無いのだと。
魔法の力を使えば、苦労なく完成させる事が出来るでしょうね。それでもそれは、本物を模しただけの模造品で、そこには魂の欠けらなど一片も無いのだと、隼は言ったそうよ。
そして、カイリーだけの刀を造りたいのであれば、遣いを辞め一般人として成し遂げなくてはいけないと隼は告げたらしいの。
「カイリー、お前なら出来る筈だっ」
「……隼なら困難を乗り越えられるかも知れないけど、私には無理なのっ!! 菊一文字っ!」
魔力で精製した刀を握り締め、カイリーは隼に斬り付け掛かったらしいわ。そして止む無く隼も変身し構えたそうなのだけれど、どうしてもカイリーに反撃する事が出来ずにいた様なの。
「やめてくれ、カイリーっ」
隼の言葉はカイリーに届かず、攻撃の勢いは増すばかりであったらしいわ。
それもその筈。カイリーの精製した日本刀の中には『蜘蛛切丸』 と言う妖刀が含まれていたらしく、カイリーの身体はその意図とは反した動きをさせられていた様なの。
「私に……神黒翡翠を譲ってよっ!!」
十二口全ての刀を宙に浮かせ、まるで矢を放つかの如く、カイリーは隼を狙い撃ちしてしまったそうだわ。
だけど隼はその場を動こうとはせず、全ての刀を受けてしまう事になってしまったらしいのだけど……。
「……やっぱりな。カイリーは、強くて優しい子だ」
放たれた刀の全ては、隼の身体を一寸避けて地面に突き刺さっていたそうだわ。
カイリーは最後の最後で、妖刀の魔力に打ち勝ったと言う事ね。そして、隼に近付いたらしいのだけれど、その身体は消えかけてしまっていたらしいの。
カイリーはここに来る前、魔術師とある約束をしていたそうだわ。その約束とは、もし隼を倒せなかった場合、自分を遣いの任から解いてくれと言う事であったらしいの。
「私も隼に……世界で1つだけの物を……作って貰いたかったなぁ……」
魔法の国から、隼の様子を眺めていたカイリーは、私への贈り物を作っているその姿を知っていたらしいわ。
「カイリー……分かった。今度、日本に来た時作ってやるよ」
「うんっ。約束だよ、隼」
カイリーは、涙目と笑顔を入り混ぜながら、一般世界へと戻って行ったそうなの。
その後、カイリーの記憶は数年分失われてしまう事になってしまっていた筈だわ。そして隼との思い出も消えてしまったのでしょうけど、カイリーはきっとまた日本を訪れると、隼は思っていたそうよ。
カイリーが、日本刀に興味を持ち始めたのは、小学生の頃からであったそうだから。
「さて、俺も帰るとする……ん? この気配は、ソフィーかっ!? いや待て……神黒翡翠の魔力も感じるぞ?」
私も隼と同時刻に魔法の国へ来ていて、ルシフェルと対峙していたわ。
そして2組の戦いにより、神黒翡翠は感化されたかの様に魔力を放ち、その姿を示そうとしていたの。
「良く逃げ出さずに来たな、ソフィー」
「逃げる理由が無いわね。私は貴方に敗北する事など無いのだから」
私は魔法の国へ来た時点で、隼がいる事に気が付いていたわ。ならば尚更負ける訳には行かないと、ルシフェルの動きに集中していたの。
「ソフィー、俺には勝てない事を思い知るらせてやるぞ。我を誘うその力 今この時この瞬間 闇の底から蘇らん……ルシフェル……エボリューションっ!」
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