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シス(6)「本当の美しさ」

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 神黒翡翠の魔力を感じたと、アキナに聞かされた私は、魔法の国へ向かう事になったの。それは確かに私達の領土内で気配はあったのだけれど、神黒翡翠の存在を確認する事は出来ないでいたわ。

 だけどそこに遣いのマリーナが現れ、5人の遣いを生贄にする事で、神黒翡翠を創り出すと言って来たの。そしてその4人目として、私は愚かにも生贄とされてしまう事になったのだけれど、更にマリーナは私を助けたければ魔術師の魔力を半分供給しろアキナに告げたらしいわ。

 でも、その要求は結果的に嘘であり、マリーナは神黒翡翠を手に入れるまで、開放しようとは考えていなかった様なの。

 そこで、打つ手の無かったアキナは、一旦アグリッタの元へ引き返す事になったと、私は後に聞かされたわ。


「ソフィーが捕まっただと?」

「はい。そして、アグリッタ様の魔力半分を、ソフィーに供給しろと」

 状況を説明したアキナ。だけど神黒翡翠を創る為に、遣いを生贄にすると言う方法は、アグリッタも知らない事であった様だわ。

 しかも、魔力の半分を失うと言う事は、魔術師にとって致命傷になる事に変わりがないなの。それは、寿命を渡せと言っているのと同じ事なのだから。でも、他の魔術師は遣いを助ける為、既に供給済みであったのそうなの。

 そして、この時点で気付いている人もいるかも知れないのだけれど、神黒翡翠を精製するには、遣いの魔力だけでは足りなく、魔術師がもつ魔力が必要であったと、私は後に知る事になったわ。
 
 そこでアキナは、1つの案を出したそうなの。


「どうすれば良い……」

「アグリッタ様……ソフィーの任を解きましょう」

 任を解く、即ち私を遣いで無くすと言う事であったわ。そうなれば私の記憶は数年分失われ、一般人に戻ってしまうの。

 だけどもし、アグリッタが私に魔力の半分を供給してしまうと、新たな遣いを選定出来なくなってしまう恐れがあったそうだわ。それは結果的に言うと、アグリッタの魔術師生命を終わらせる事と変わりない事なの。


「しかしソフィーにとって魔力を失う事は、残酷過ぎるのでは……」

 アグリッタの悩みを聞いたアキナは、私が今まで魔法の国でして来た行動を思い出していたみたい。

 私は魔法に関してもズバ抜けた能力を発揮し、遣いとしての素質は抜群であったのかも知れない。だけど自分の都合を優先し、最近は神黒翡翠を探す事すら怠っていたわ。

 遣いになる最大の目的は、神黒翡翠を見付け出し、手に入れる事なの。勿論、その事は私も重々承知していていたのだけれど……。

 でも今、アグリッタの魔力消失と、私の記憶消失を天秤に掛けた時、アキナがアグリッタの身を優先しても仕方がない事ね。

 と、そこへ、領土外から私の名を叫ぶ者……と言うか隼が現れたそうなの。


「ソフィー、いるなら返事をしてくれーっ!?」

「君は、遣いの鈴本 隼だったよね」

「天使もどきか。ソフィーは、どこにいるんだ?」

 隼は私の行くへが不明であった事に痺れを切らし、魔法の国へ来ていたみたいなの。

 だけどアキナは、私の危機を知らせてしまうと、隼もマリーナの元へ向かってしまうと考えた様だわ。そして、もし隼まで生贄になってしまえば、神黒翡翠が完成してしまう恐れがある為、適当に誤魔化す事にしたらしいの。


「ソフィーなら、一般世界で旅行に行くって言ってたよ」

「旅行って、日本へか?」

「いや、ブラジルって言ってたかな」

 アキナはそう言ったらしいのだけれど、隼は信じてはいなかったみたいなの。私が仕事をサボり、旅行に行ってしまうなど有り得ない事だと思っていてくれた様だわ。

 そこで隼は、アキナの話が本当かどうを確かめる為、一旦ヤマトの元へ行く事にしたらしいの。


「ヤマト、一般世界にいる人間の気配を探れないか?」

「知っている者ならば出来るが、それがどうしたんだ?」

 ヤマトは私に会った事が無い為、一瞬だけでも会おう考えた隼の案は消されてしまったそうだわ。

 そして仕方無く、一般世界へ戻ろうとした隼であった様なのだけれど、ある事に気が付き足を止めたらしいの。


「……この気配は、神黒翡翠の魔力だっ」

 アグリッタはまだ、私への魔力供給をしていなかったのだけれど、神黒翡翠は私達の領土から移動して、隼達の領土に気配を表した様なの。

 そしてそれと共に、マリーナまでやって来てしまったらしいわ。


「ここは誰の領土だっけ?」

「ヤマト カケルの領土だ。進出するってんなら、相手してやるぞ」

 隼は、私に会えない苛立ちからか、初対面のマリーナに対し食って掛かったらしいわ。

 だけどマリーナはその言葉を無視し、神黒翡翠の気配を目線で探し出していた様なの。


「やっぱりここだよね。まぁ、コイツでいっか……5人目の生贄」

 当然、その言葉の意味を理解出来なかった隼だった筈なのだけれど、早々に変身呪文を唱え戦闘態勢に入った様だわ。


「我に預けしその力 今この時この瞬間
最速で駆け抜けん……隼……エボリューションっ!」

「あぁ、サーカス屋の遣いかぁ」

 隼が唱えた呪文は前任者が唱えていた言葉と同じらしく、マリーナは隼がヤマトの遣いだと気が付いたらしいわ。そして己も変身し、隼と向き合う事になったそうなの。


「俺は、女でも歯向かって来るなら容赦しないぞっ」

「え~? そんなんじゃ、モテないよ~……ハートのクィーンっ!」

 ハートのクィーンは女騎士を示すらしく、隼の前に立ちはだかったそうだわ。そして男騎士と比べると、ハートのクィーンの力は劣るらしいのだけれど、繊細な動きで隼を斬り付けて行った様なの。

 だけど隼も、ただやられるだけでは無く、12速獣のガゼルを使い、反撃を開始したそうだわ。


「ガゼル、その角で貫いてやれっ!」

 ガゼルは太く長い角を持っているそうなのだけれど、隼の応用魔法により更に巨大な角に変形させていたらしいわ。そしてその角は、ハートのクィーンを貫く事に成功した様なのだけれど、カードを消されてしまったマリーナは、隼から少し距離を取り考えていたそうなの。

 隼の強さは私同様、若しくはそれ以上であろうと。ただ闇雲に攻撃をしても、こちらの魔力が消費するだけだとマリーナは考えいた様だわ。

 そこでマリーナは、私の時同様、隼に一撃を打たれる瞬間に審判の魔法で捕らえようとしたらしいの。


「大した事無いわね。前回戦った、ソフィーって遣いの方が強かったわよ」

 マリーナは煽り言葉を発し、隼が最大魔力を出したところで、カウンター魔法を掛け様としていたらしいのだけれど、私の名前である『ソフィー』 と言ってしまった様だわ。

 そして隼が沈黙する中、意識を失っている私達4人の遣い達を、宙に出現させてしまったらしいの。

 その中にいた私の姿を見た隼は、漸く言葉を発する事となったと言っていたわ。


「ソフィー、何やってんだ? 昼寝なんかしてんなのよ」

 完全に意識を失っている私は、隼の声に返事を返す事無く、ただ俯いているだけだったの。

 そして隼は怒りが込み上げる中、その状況を理解しようとしたらしいわ。私は既に殺されてしまったのか。いや、もし魔法の国でやられてしまったのであれば、既に一般世界へ戻されている筈。今、目の前には私の姿があるのだから、まだ生きているのだろうと。

 だけど、その姿は隼の知る少し傲慢な私では無く、まるでただそこに存在しているだけの人形と変わり無かったそうなの。


「どうしたの。さっきから、固まっちゃって?」

「……お前はさ、もし目の前に、正気を失った知り合いがいたらどうするよ?」

 隼の言っている意味を、直ぐに理解したらしいマリーナ。私が隼の知り合いだと言う事を。

 そして、その事に隼が怒りを感じているのならば、マリーナとしては好都合であった筈なの。怒りの感情のまま魔力を解放すれば、審判の効力は更に増し、捕らえ易くなるらしいのだから。


「あんたソフィーの知り合いなんだぁ? でも彼女なら、もう直ぐ消えるわよ」

「……っ!」

 その頃、神黒翡翠は隼の怒りに触発され、姿を表そうとしていたらしいわ。もし隼が5人目の生贄になってしまえば、完全に魔法石としてその存在を示す事になってしまうかも知れなかったの。

 それを確信したマリーナも、余裕を見せ語り出したそうよ。自分の願いは、世界一の美貌を手に入れる事であり、その為ならば誰が犠牲になったとしても構わないのだと。


「鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番美しいのは……わ~たしっ、てね」

「……いや、オマエは今のままで充分だよ。充分……醜いままでなっ!! レイヨウっ、来いっ!」

 レイヨウに跨り、隼は空高く跳ね上がったらしいわ。続いて12速獣のツバメの能力を使い、急降下して行ったそうよ。

 隼の手には剣が握られていたらしいのだけれど、マリーナに対し勢い良く振り下ろしたと私は聞いたわ。


「その程度の武器何て、大した事ないわよっ!」

 マリーナの言った通り、隼が振り下ろした剣は一寸の距離で交わされてしまったらしいの。

 だけどその剣は地面に着く直前、太刀筋を180度変え、マリーナの真下から切り上げたらしいわ。


「ぎゃーっ!! 私の顔がーっ!!!」

「お前は……心を整形しろよっ!!」

 一刀両断。隼の一撃は、マリーナを魔法の世界から消滅させる事となった様なの。

 マリーナ自身、審判の能力に最大の魔力を注いでいたらしいのだけれど、それを断ち斬られてしまった事により、魔術師も繋ぎ止めておく事が不可能であったみたいだわ。

 そして、生贄にされそうになっていた私達遣いの身体は、自分達の領土へと消えて行ったらしいの。


「ソフィーっ!?」

 隼は直ぐに、私がいるであろう領土に行き、そこにいたアキナに状況を説明したらしいわ。

 結局のところアグリッタは、私に魔力の半分を供給するか悩んでいた状態の時、事が収まっていた様なの。

 そして私も、魔力をほんの少し奪われただけであった為、ミルキの治癒魔法で直ぐに眼を覚ます事となったわ。


「んん……マリーナっ!! ……ここは?」

「ソフィー、気が付いたか。ここはアグリッタの城内だ」

「隼? 何故、貴方がここに……」

 隼の顔と声を聞き、私は安心していまい、そのまま倒れ込み再び眠りに就いてしまっていたわ。

 その後、私は魔法の世界で治療をし、一旦一般世界に戻る事になったの。たけど体調が万全ではなかった為、日本へ行く約束を1週間程伸ばして貰う事になったわ。


「今回は、私の都合で来日が遅れてしまった事を、深くお詫び致します」

「気にすんな、ソフィーちゃん。俺達も、生産が少し遅れてたからお互い様だ」

 先輩の許しを貰った私だったわ。そして商品取引の契約は正式に結ばれ、一件落着となったの。

 その後、隼は私を連れ、約束していたラーメン屋へと向かったのだけれど……。


「到着。ここが、俺の行きつけのラーメン屋だ」

「えっとぉ、隼? このお店の佇まい何だけど……今にも倒壊しそね」

 実はこの店、巷で激不味ラーメン屋として有名であるそうなの。店内は油でギトギト。水を汲むコップは、ちゃんと洗っているか分からない程のテカリ具合。店員は大将1人で、他の客すら怪しい雰囲気の人物達だったわ。


「大丈夫。俺も慣れるまでは、毎回腹を壊してたけどな」

「成る程、分かったわ。来世で食べる事にするから」

 私はその場から逃げ出そうとしたのだけれど、隼は私の腕を掴み、強引に店内へと連れて行ったわ。そして大将に、お勧めラーメンを、2人分注文する事になっていたの。

 その後、ラーメンが出来るまで数分の時間が経過したのだけれど、出て来たそのラーメンは、何かの調味料で変色しているのか、真っ赤に染まっていたわ。


「いただきま~すっ。ソフィーも、冷めないうちに食べろよ」

 私は少し考えたわ。この赤い色は、きっと唐辛子の色であろうと。スープは一応豚骨ベースで、具材は何かの肉らしき物が浮いていたわ。だけどこれらは、人間が食して良い物なのかと、どうしても箸を突き刺す勇気を持てずにいたの。


「……隼、マリーナから助けてくれた事は感謝しているわ。だけどこれは、私の許容範囲を超えている様な……」

 俯く私に、隼は声を掛けて来たわ。そして振り向いた私の口に、箸で絡めた麺を押し込んで来たの。

 流石の私も怒鳴ろうとしたのだけれど、言葉を止め麺を噛み締める事になっていたわ。


「美味しいだろ? 何事も見た目で判断したらダメ何だぞ」

 その後隼は、マリーナの願いであった話をしたわ。その願いは、世界一の美貌を手に入れる事であったらしいのだけれど、それは叶ったとしても表面だけの美しさなのだと。本当の美貌を手に入れたいのであれば、先ずは内面から変わらないといけないのだと、隼は言っていたわ。

 このラーメンは見た目で疎遠されがちかも知れないのだけれど、私が一口食べて気付いた様に、その味は一級品である事もある様だわ。まあ、この店のラーメンは、普通の味覚を持った人には理解出来ない味なのだと思うけどね。

 そして、私は次の瞬間、ある言葉を発していたの。


「……大将っ、この品をフランスに持ち帰りますから、日持ちする様にしておいて下さいっ!」

 大将にラーメンの材料を特別に分けて貰い、フランスに帰国した私は、早速調理に取り掛かったわ。だけど、その独特な匂いは近隣にも充満してしまい、私は注意される事になってしまったの。

 そう言えば、隼を魔法の国から消すと言う話があったのだけれど、いつのまにか私もすっかり忘れていたわ。いえ、覚えてはいたのだけれど、今更言えないわよね。

 だけど、一旦姿を現した神黒翡翠は、その魔力を放つ回数が徐々に増えていたの。そしてそれとは別の要件で、私はアグリッタに呼び出され魔法の国へと向かっていたわ。


「何の用、アグリッタ。貴方が直々に呼び出す何て珍しいわね」

「ソフィー、結論から話そう。君を……遣いの任から解こうと考えているんだ」


 ……その言葉は私にとって、死を宣告されたと同等の衝撃をもたらす話だったわ。
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