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第四章 ~陰陽師の日々~

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「――ってシオンくん、壊さずに止めてくれたのかい……!?」

 戦闘用機動二輪『騰虵とうだ』を止めた後のこと。驚いた顔で清明さんが寄ってきた。

「僕のせいで暴走させちゃったし、完全に破壊されても文句は言えないんだが……」

「わざと、じゃないんだろう? それならいいさ」

 俺を殺す気で放ったなら、その時は清明さんごと斬っていた。
 だが話によれば偶然の暴走と聞く。ならば別にいいさ。

「それにこの『騰虵』という黒いバイク、ごつくてデカくて格好いいからな」

 アレだ。真緒マオに読ませてもらった『世界の武器・防具図鑑』という本にあった、西洋の重装鎧というヤツみたいだ。

「悪いと思っているなら、清明さん。こいつを俺にくれないか?」

 そう言うと、彼は「シオンくんがお願いを……!?」と何やら驚いた後、力強く頷いてくれた。

「あぁもちろんだ! もうすぐシオンくんには、重要な任務がだからね。この子を使って頑張ってくれたまえ」

「ああ」

 戦力が増えるのは嬉しいな。あと『造魂札』が仕込まれたバイクは、自動で動いてくれるそうだからな。操作に不安がある俺にはちょうどいい。

「ありがたく使わせてもらおう。コレで妖魔を倒しまくって九尾に妖力を与えて、俺自身も活躍してチヤホヤされて気持ちよくなるぞ……!」

「そ、そう……シオンくん、だいぶ俗っぽく成長してきたね。誰の背中を見てきたんだか……」

「しいて言えば清明さん」

「ッ!?」

 “俗っぽい”とやらの意味はよくわからんが、とにかく成長してるらしいのはいいことだ。
 俺は練習用バイクから降りると、黒いバイクに近づくことにする。

「あぁ、ありがとうな真緒。お前の協力で『騰虵』を倒せた。ほら、お前も立って……って、真緒?」

「いててて……」

 バイクから降りた俺だが、後ろの親友は座席に座ったまま、渋い顔で腰のあたりをさすっていた。どうしたんだ?

「大丈夫か?」

「あぁうん。ほら、バイクの向きを変えるために跳ねた時、着地の衝撃がちょっとお尻にきちゃって……!」

「む、それは大変だ。じゃあほいっと」

 俺は真緒の両膝裏に腕を差し込み、もう片方の手を背中に回した。そのまま横合いの体勢に抱き上げる。

「ふぁっ、ふぁぁあああっ!? ちょっとシオンッ!?」

「この抱き方なら、尻に触れてないから痛くないだろう。このまま本部内の医務室まで連れて行こう」

「このままッ!? 本部内まで!?」

 顔を赤くして「噂される! 色々噂されるッ! 恥ずかしくて死ぬーーーッ!」と騒ぐ真緒。
 よくわからんな。痛む箇所があるから医務室に行く、それのどこが恥ずかしいのだろうか? そんなことを悪く言うヤツなんて性悪だろ。

「噂など放っておけ。俺は全く気にしないぞ」

「えぇ~~!?」

 さらに騒ぎ立てる親友の真緒くん。何か気に障ることを言っただろうか?
 ともかく痛みが酷くなるとまずいので、抱き抱える腕に力を込めて動きを縛り、あと耳元で「黙って俺に抱かれていろ」と少し強い口調で注意した。
 すると湯気を出しながら大人しくなった。
 よし、俺には看護の才能があるみたいだ。

「じゃあすまないが清明さん、『騰虵』をじっくり見るのは後だ。真緒の身体のほうが心配だからな」

「うッ、うすッ、お疲れ様ですシオンさんッ!」

「なんで敬語?」

 清明さんの態度変更が謎だ。なんか前にもこんなことがあった気がするが。

「なぁ九尾、清明さんはどうしたんだ?」

オトコとして見上げてるだけだぞますッ! 我もオスギツネとして見習いたいぞますッッッ!』

「なんでお前まで不慣れに敬語を……」

 別に見習うところなんてないだろうに。あと感謝すべき恩人と最愛の友に敬われるのは気が重いのでやめてほしい。
 まぁほっときゃ治るか。ひとまずバイクの回収などは清明さんに任せ、さっそく医務室に行くとしよう。

「草原の真ん中からだからニ十分はかかりそうだ。ごめんな真緒?」

 そう囁くと、真緒は「ニ十分もこのままっ!?」と素っ頓狂な声をあげた。
 やっぱり辛いんだろうな、本当にすまない。

「じゃあ出来る限り急ぐぞ」

「あっ、急がなくてもー……!」

 そうして、軽く駆け足で歩み出した時だ。
 ふいに倒れていた『騰虵』が、【ッッッ――!】と唸り声じみた駆動音を放った。
 なんだなんだ?

『むっ、我もともとはどうぶつの妖魔だから、コイツの言葉が感覚でわかるかもだぞます』

「その口調やめてくれ。それで、なんて言ってるんだ?」

『あぁ。えぇと、“まだ俺は負けてねぇ! 勝負だこの野郎!”とか言ってるな』

蘆屋あしやみたいなヤツだな」

『わかる。アイツは一匹だと面白いが、二匹になると胃がもたれるな』

 脳裏に浮かぶ二人の蘆屋がギャーギャー喚く姿。
 その光景に溜め息を吐く俺たちに、生みの親の清明さんが「ごめんねー……!」と謝ってきた。

「言ったと思うけど、妖魔への敵対心を強く設定しすぎちゃってさ。それで性格も荒くなって、蘆屋くんみたいになっちゃったんだよ。修理ついでに再設定するから許してくれ……」

【ッッ――! ッッッ~~~!】

 なおも唸り続ける『騰虵』。バイクのくせに元気なやつだ。
 そう思っていたところで、九尾が急に『あっ……』と呟いた。

「ん、どうしたんだ九尾? 何か変なことでも言われたか?」

『あー……その、貴様に向けてだな……その――“いつか”って……』

「あっ」

 ――放置しようと思ったが、気が変わった。

 俺は『騰虵』の前に来ると、横たわった身をジッと見つめた。

【ッ、ッッ――!?】

 なっ、なんだよ、とでも言うような唸りを上げる『騰虵』。
 そんな彼を前に、俺はひたすら、見つめ続ける。

【ッッ~……!?】

 刃は抜かない。両腕に抱えた仲間を放り出してまで、剣を抜くわけにはいかない。
 それにコイツは既に無抵抗の身。俺は殺すという宣言だけじゃなく、それと同時に武器を向けられた時のみ“やり返す”と、前に九尾と約束したからな。
 だがな。だけどな。

「俺は、怒ってるぞ?」

【ッ――!?】

 心からの想いを込めて、黒き機体に囁きかける。

「決めたよ。お前の再設定とやら、清明さんに頼んで止めてもらおう。そのほうがお前も嬉しいよな? な?」

【……】

「答えろよ」

【ッ――!?】

 まぁ答えなんてどうでもいいがな。
 たとえコイツが断ろうが、俺はコイツの人格をそのままにすると決めた。

「お前はお前のままでいいさ。それでお前は、お前のまま、修理されたら是非とも俺を襲いに来いよ」

 ああ、その時が本当に楽しみだ。
 もしもコイツが殺意と共に、今度は殺しにきてくれたら。
 そうなったら遠慮なく、遠慮なく、遠慮なく……!

「それなら、お前を、殺すことが出来るからな……ッ!」

【ッッッッッッッ~~~~~~~~~!?!?!?】

 言いたいことは全て言った。
 俺は最後に『騰虵』に微笑みかけると、草原を後にするのだった――。
 
 
 
 そして、小一時間後。

【ッ~~~~~~! ッッッ~~~~~~~!!!】

 医務室で真緒の怪我が大したことないと診断をもらったところで、『騰虵』が走り込んできたのだった。
 お、やるかやるか?

『おいシオンよ。なんかコイツ、“兄貴ィッ! どうか舎弟にしてくださいッ!”とか言ってるぞ』

「なんで敬語?」

 てか舎弟とかなんでだよ。
 そう戸惑う俺を前に、『騰虵』はひっくり返って腹を見せると、前輪と後輪をクルクル回してきた。どうやら服従の証らしい。

 かくして、医務室内に女医さんの「ぎゃああああああバイクが突っ込んできて変な動きしてるーーーーー!?」という叫びが響く中、俺は面白い仲間が出来たなぁと思うのだった。

 

 
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