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第四章 ~陰陽師の日々~
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しおりを挟む「待て『騰虵』ッ、止まれ止まれーーー!」
叫ぶ清明さんを置き去りに、漆黒の機動二輪がこちらに向かって駆けてくる。
異様な姿をした機体だ。各所には重厚な黒鋼が纏われ、先端は刃のように尖っている。
さらに目を引くのは操縦席か。なんと誰も座っておらず、ひとりでにペダルとクラッチが動いているのだ。
「シオンッ、このままじゃアレとぶつかるよ!?」
『走る向きを変えろーっ!』
同乗した真緒と九尾が叫ぶ。
二人の言う通り、拙い手付きで前輪を捻り、弧を描くように道筋を変えた。
だがしかし、
【ッッッッ――!】
黒い機体は唸りを上げるや、俺たちのほうに向きを変えてきた!
さらには爆発的に上がる速度。その獲物を捉えた肉食獣がごとき様に、背中の真緒が悲鳴を上げた。
「なっ、なんでバイクが勝手に動いてるわけー!? もしかしてバイク型の妖魔!?」
「いや、アレは清明さんの開発品だ」
たしか、『造魂札』なるものが入ったバイクだったか。数日前に清明さんが呼び出していたな。
彼が見せた機体とは違うようだが、おそらくあの黒いのも同種だろう。
『ってなんで清明の作ったものが我らを追ってくるのだ!? ともかくシオン、すぴぃどを上げろッ!』
「英単語を言い慣れてない九尾、可愛いな……!」
『言ってる場合かーっ!』
肩の九尾に頬をペシペシされながら、俺は限界までアクセルを捻った。
途端に高速で過ぎ去る景色。向かう風が身体を叩く中、俺たちは草原を突っ走る。
すると、黒いバイクも負けじと速度を上げてきた……! 車間距離は離れるどころか徐々に縮まっていく。
「って駄目だよシオンッ、あっちのほうが早いよ!? めちゃくちゃゴツいのになんだよあのスピードは!」
このままじゃヤバいッと叫ぶ真緒。
そんな友に、黒い機体を追いかけてきた清明さんが「凄いだろォ『騰虵』はッ!」となんか嬉しそうに吼えてきた。
「バイクを移動用だけに使うなんてもう古いッ! そいつは『造魂札』を搭載することで自律走行機能を備えた上、妖魔との戦闘にも使えるように協力技術者の手で各種機能を強化しまくってもらった機体なんだよ! 最高時速300kmからの重量500㎏による突進は、通常物理攻撃の効きづらい妖魔でも雑魚なら一撃で粉砕しかねない威力で――!」
「それを僕たちが喰らいそうになってるんですけどぉー!?」
喋りまくる清明さんに真緒が怒鳴った。
とにかく、このままだと本当にやばいな。そう考えたところで清明さんが続けて叫ぶ。
「せっかくの試作品だけど――シオンくんッ、腰に刀は差しているね!? ならば斬っても構わない!」
「む、いいのか?」
「あぁ、今回の暴走は僕の責任だ! 戦闘用車両にするに当たって、『妖魔への凶暴性』を強く持たせすぎてしまった。キミたちを襲うのはそのためだ!」
なるほど。それで九尾と一緒な俺たちのほうに突っ込んできたのか。
よしわかった。それならば、
「真緒、俺の後ろから手を伸ばして、ハンドルを操れるか?」
「えぇっ、たぶん出来るけど……!? でも、それだと腕を伸ばすために、めちゃくちゃくっつくことに――ッ!」
ん? それがどうした?
「お前相手ならくっつかれても嫌じゃない。とにかく任せたぞ?」
「はっ、はひィっ!」
俺はハンドルから手を放し、両腰に差した刃を引き抜いた。
それから腕を上げ、背後の真緒に「ほら、脇の下から手を伸ばしてくれ」と頼む。
「じゃ、じゃぁいくよ! ふぁあぁぁっ……!」
なにやら変な声を上げつつ、くっついてきた真緒が代わりにハンドルを握ってくれる。
さぁ、これで準備は整った。
「シ、シオンの背中あつっ……!? やばッ、なぜか頭がボーッと……!」
「しっかりしろ真緒。――いいか、このまま最高速度を維持して、三秒数えたら一気にハンドルを右に捻ろ。そこで体重も右側に倒せ」
「えっ、そんなことしたら横転しちゃうんじゃ!?」
「大丈夫だ」
俺の異能は『超視力』。巫装を展開していない状態でも、かなり目が良くなっている。
加えて斬殺の才の影響か、刀を握ると頭が冴えるんだよ。
それらのおかげで、この先の突破口が見えた。
「いくぞ。3、2、1――――今だ!」
「う、うん!」
真緒がハンドルを捻った瞬間だった。
草原の緑の中にある程度の大きさの岩が埋もれており、ちょうどその上で前輪が跳ねたタイミングで曲がったことで、俺たちの乗るバイクは一気に反転。黒いバイクと向かい合う形となった。
【ッッッ――!?】
「さぁ、いくぞ『騰虵』とやら!」
逆襲の時だ。猛追していた機体目掛け、俺たちのほうから突撃していく。
すると慌てるようにぐらつく『騰虵』の走行。
疑似的な知能を宿すという『造魂札』の影響だろう。正面衝突は自分も死ぬと思ったのか、ヤツは俺たちから僅かに逸れようとした。
だが、こちらの両手には刀があり――、
「斬る!」
そして迎えたすれ違いざま。俺は刃を横合いに振るうと、『騰虵』の車体――ではなく、前輪のタイヤ表面を斬り裂いた。
【ッ~~~!?】
これにより一気に抜けていく空気。『騰虵』の前輪は瞬く間にぺちゃんこになり、俺たちがバイクを止めて振り返った時には、ヤツはふらふらとぐらつきながら、そのまま力尽きるように倒れてしまったのだった。
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