斬 殺 サムライ・ダークネス ~明治妖《あやかし》斬殺譚~

馬路まんじ@PV公開 主人公:赤羽根健治

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第四章 ~陰陽師の日々~

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 ――『特號会議』なるモノより三日。機関は何やらざわついていた。

 曰く、“各地の特等陰陽師たちを関東近辺に配置し、有事の際の首都防衛に備える”そうだ。

 大妖魔衆『天浄楽土』の大規模行動を予想してとのことだが、機関の者たちは不満でいっぱいのようだった。
 今日も食堂で仲間たちとご飯を食べていたら、陰陽師やその他職員たちの声が聞こえてきた。

 
「――要するに、地方の防御を薄くするってことかよ。それはちょっと酷いんじゃねえの?――」
「――土御門統括が、かねてから提案していたことなんだってよ。政治家連中を守るためにさ――」
「――圧力かなんかで、ソレを飲むことになったってことかよ? そりゃ首都防衛は大事だけどよぉ……――」 
 

 みんな納得していないようだ。『八咫烏』本部内に溢れる空気に、拉麺ラーメンなるものを啜っていた真緒マオが溜め息を吐いた。

「不満なのはわかるけど、ご飯の時に愚痴るのはやめてほしいよねー。食欲がなくなっちゃうよ」

 そう言いつつ、麺をずるずる吸い込む真緒さん。普通に「う~ん美味ハオチー!」とか言ってる。
 その全然気にしてなさそうな様子に、炙り肉ステーキなる肉の塊にがっついていた蘆屋あしやが鼻で笑った。

「よく言うよなァ。空気なんかでメシ食えなくなるような、繊細なメンタルしてねぇくせによ?」

「なんだよ蘆屋、僕のこと図太いとか言いたいわけ? そっちだってお坊ちゃんなのに粗雑なクセに」

「お坊ちゃんとか言うんじゃねぇ!」

 グヌヌ……と睨み合う真緒と蘆屋。ここ数日のいつもの食事風景だ。
 二人とも元気でイイなぁーと思いながら、俺はうなぎ丼をばくばく食べた。うぅん美味い!

「ケッ、トンチキざむらいは今日も美味そうにメシ食いやがって」

「ああ、残飯の百倍美味いぞ」

「なんだよそのクソみてぇな食レポは……。ともかくテメェ、変な勘違いしないようにハッキリ言っておくぜ?」

 勘違い、だと?
 膝に置いた九尾に鰻を「あーん」しながら話を聞く。

「いいかぁ九尾のダンナ侍?」

『誰がダンナだ!』

「うるせぇテメェはメシ食ってろ。――おいファッキン侍。このオレ様がこうしてつるんでやってるのは、何もテメェと仲良くしたいわけじゃねぇ。テメェをよく観察して、強さの秘訣を手に入れるためだからな?」

「そうなのか?」

「おうよ。そんで強くなったら速攻でテメェをボコしてやるから、覚悟しとけよ……ッ!」

 ああ、そういえば以前の能力検査の時も叫んできたな。俺に負けないとかなんとか。
 うーん残念だ。俺と仲良くなりたいから、ご飯の時にちょくちょくオカズ交換とかしてくれるのかなぁと思ってたが、それなら仕方ない。

「わかったよ、そのうちろう。どうせあと12万9600秒(※一日と半日)だったからな」

「だからなんだよその数字は!?」

「勉強教えてくれないから教えない」

「ってうるせーよッ、ンなもん真緒とイチャつきながらやっとけや!」

 そう言う蘆屋に、真緒は「イチャついてないからッ!?」と叫びながら立ち上がった。

「い、いいかい蘆屋ッ!? 僕にとってシオンは、あくまでも男友達であってだねッ!」

「ケッ、言ってろメス堕ち」

「メス堕ちってなんだよッ!?」

 騒ぐ真緒を無視し、「特訓してくらぁ」と食堂を後にしてしまう蘆屋。
 ……俺的には友達になれたと思ったんだが、本当に残念だなぁと思った。


 ◆ ◇ ◆


 ――妖魔伏滅機関『八咫烏』のある地下世界は広い。
 頭上に広がる謎の青空と太陽の下、森や川まである始末だ。地下って一体なんだろうと思いたくなるような光景だな。
 
 その大部分を占める草原の中を、俺はバイクでブンブンしていた。
 三日前から始めた運転の練習だ。俺もいい加減に一人で乗れるようになりたいからな。

「うぉぉぉ走れてるぞぉ……!」

「いいよーシオンッ、その調子!」

『コケるなよー!?』

 後ろに真緒、そして肩には九尾を乗せながら、ひたすら草原を突っ走る。
 今日は初めての加速度アクセル全開で走る訓練だ。白い首巻マフラーが尾を引くように風になびいた。

「や、やはり俺にまだ、徐行で練習したほうがいいんじゃないだろうか……? もしもコケたらどうなることか……!」

「大丈夫だよシオン。転びそうになったら、僕が地面を蹴ってバランス取るから。そのために後ろに二人乗りしてるんだからね……うん、あくまでそのために……!」

「あ、あぁ、危ない時は頼むぞ……!」

 真緒の異能は『衝撃増幅』。背中にくっついてくる身体は胸以外華奢でも、力は十分にあるからな。
 そんな真緒の支えを信じ、俺はさらに速度を上げた。すると、手のひらサイズの少女の九尾が風に煽られ『うぎゃー!?』と叫んだ。

『ぬぉおおおおおお飛ばされるーーーーーーーっ!?』

「って九尾、危ないから懐にでも入っておけ……!」

『いやッ、この恐怖感が逆に堪らないのだッ! あえて危険な乗り物を用意して客を乗せる――うむ、この発想はカネが取れるぞ!?』

「そ、そうかぁ……!?」

 大好きな九尾の発言だから疑いたくないが、金を払ってまで危機感を味わいたい人なんているのか?
 というか俺の運転するバイクを危険な乗り物扱いしないでくれ。緊張でフラフラしまくってるが、こっちだって必死にやってるんだから……!

「あははっ、なんか安心するかも!」

「真緒……!?」

 震えながらバイクを飛ばす俺に、真緒がなにやら笑ってきた。

「シオンってばすごく強いけど、でもちゃんと出来ないことがあるんだなーって。なんだか安心しちゃうよ。乗り心地は安心できないけど」

「一言余計だぞ……!」

 そもそも俺なんて出来ないことだらけだ。
 文字もまだまだ読めないし、社会常識とやらも知らない。

 あと細かいところで、箸は使えてもフォークとナイフは使えないんだよな。
 蘆屋の真似してステーキを頼んだ際、ナイフで肉を切ったら皿貫通して机まで切れた。
 あの時は食堂の人にめちゃくちゃ怒られたな……。

「とにかく、俺は今コケないように必死なんだ……! バイクから投げ出されたらどれだけ痛いかわからないからな。殴る蹴るの痛みなら、日常だったし慣れてるからいいが……」

「へぇぇぇぇぇ……そういえば、シオンの故郷ってどこなわけぇー? 今度遊びに行きたいなぁぁー?」

「お、そうなのか?」

 故郷の村か。家々三十三軒全焼させてしまったが、生きてるヤツは結構いたし、もしかしたら復興させてるかもな。
 友達の真緒が行きたいというなら、今度連れていってやるか。

「わかったよ。その時はバイクで一緒に行こう」

「うんっ、それじゃあ早く運転に慣れようね!」

『吹き飛ぶーーーーっ!』 

 こうして俺と真緒とついでに九尾が、元気にブンブンしていた時だ。
 ――ふいに、遠くから「待つんだ『騰虵とうだ』ッ!」という叫びが聞こえてきた。

 そちらを見ると、そこにはバイクに乗った清明さんと、こちらに向かって爆走してくる謎の『黒いバイク』があった――!
 


 
 


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