上 下
27 / 42
第四章 ~陰陽師の日々~

27

しおりを挟む



『長谷川さん、アナタには“とある才能”がある。ぜひ陰陽師になってほしい』


 特等陰陽師・安倍清明あべのせいめいなる若者からの勧誘。
 それが、長谷川という男にとっての人生の転機だった。

 長谷川は不器用な男である。背も小さくて肝も小さい、何の取り柄もない三十路の小男だ。
 幸運にも妻子には恵まれたものの、職は無し。以前は手紙などの代書業をやっていたが、近年の識字率の上昇から廃れてしまった。

 ああ、このままでは妻子を路頭に迷わせてしまう……!
 小柄で細身で頼りなく見えるせいか就職活動も上手くいかず、はぁどうしようと頭を抱えていたその時、清明に声を掛けられたのだった。

 そして陰陽師となった長谷川。着物の上にスーツを羽織り、日々凶悪な『妖魔』共と戦う。
 ぶっちゃけ怖いし辞めたかった。だが陰陽師は高給取りだ、妻と十四歳になる子を養うためには辞められない。

 そうして今日も命懸けの狩りである。
 今回は清明の頼みで、新人に付き添うことになっている。
 なぜか名前を教えられなかったが、人形が大好きな少年で、いつも人形を懐に入れているらしい。
 そんな可愛らしい特徴を頼りに、城門辺りでその少年がやってくるのを待っていると……。

「あ、人形と話してる子がいる。彼が新人かな? あ、あの~~~……――って、ひぇッ!?」

 声をかけ、目を合わせた瞬間に長谷川は感じてしまった。

 コイツは

 直感的にそう思わせる新人――それが、四条シオンへの第一印象だった。

 
 ◆ ◇ ◆


 ――俺は今、長谷川という陰陽師と共に、妖魔の目撃情報があった村に向かっていた。
 ちなみにまだバイクに乗れないため、長谷川の後ろに乗せてもらう形でだ。

 道行みちゆきは順調。特に問題もなく、うららかな日の差す野道をバイクでブンブンしてるのだが……、

「のっ、乗り加減はどうかなぁシオンくん……!? お尻は痛くないかなぁ……!?」

「いや、特には」
 
「そそっ、そっかー! そりゃぁよかった!」

 ……この長谷川という陰陽師、やたらビクビクしているのは気のせいだろうか?
 うーん、俺って変な真似したかな? まだ自己紹介くらいしかしてなんだが?

「はっ、ははは……。いやぁ、それにしてもビックリしちゃったよ……。清明くんが付き添ってほしいって言ってきた新人が、まさかあの四条シオンくんだとは……」

「ん、俺のことを知っているのか?」

「あぁ、そりゃ色々な意味で有名だからね。曰く『大妖魔・九尾を喰って融合した謎の存在』で、しかも『英霊型妖魔を無傷で倒すほど強い』とか。もうその噂を聞いた時点で、ソイツとは絶対に会いたく――いやっ、会って握手してもらいたいなぁって思ってたよ! 応援者ファンというヤツだ! ハハハハ!」

 お、そうなのか。もしや長谷川、そんな俺と出会えたから、やたら緊張気味だったり気を遣ってくれてたのか。
 おあー嬉しいなー。俺は俺のことが好きな人が大好きだぞ。

「俺のことが好きなのに、清明さんからは俺と組むと聞いてなかったのか。フッ、あの人も憎い演出をするものだな」

「あ、あぁ、本当に憎い限りだよ。例の新人がキミだと教えられてたら全力で逃げ――あぁいやっ、全力で喜びの踊りでも踊ってただろうね! ハハハハッ、ハハハハハハハハハハハッ! ハァ~……!」

 おやおや、長谷川ってばめちゃくちゃ嬉しそうですよ。
 こんなイイ扱いは初めてだ。俺はさっそく、この子への好感度が爆発状態になっちゃいましたよ。

「そうかそうか。今日はよろしくな、長谷川」

「はっ、長谷川!? ……いや、あの、一応おじさんは年上なわけだからね、呼び捨てはちょっと……」

「は?」

 ……後ろから顔を寄せ、長谷川の白い横顔を見る。

 伸びすぎた前髪のせいで目元は隠れているが、どう見ても十代だ。
 俺と同じ十五歳くらい……いや、それ以下にしか見えないな。背丈もぐっと低いし、十代未満にも見えるくらいだ。
 あと、おじさんだと?

「……髪結ってるし、女の子かと思ってた」

「えぇ!? は……はははっ、おいおいシオンくんってば冗談キツイぞ! 三十路の妻子持ちに向かって何言ってるんだか~」

「は????」

 三十路って……たしか三十代って意味だったよな? それで、妻子持ち? え?

「まぁ小柄だし、それだけおじさんが頼りなく見えるって皮肉だろうけどね……」

「いや皮肉じゃなくて」

「たしかに、眉目秀麗で実力もある他の陰陽師たちに比べたら、おじさんはなんの特徴もない雑魚さ」

「なんの特徴もない???」

「清明くんに見いだされた“とある才能”とやらも未だわからない、場違いな一般人みたいなものだよ」

「一般、人????」

「あぁそうさ。何の取り柄もない、どこにでもいるような三十六歳の普通のおじさんだよ。だけどね、それでも精一杯戦うから、どうか邪険にはしないでくれたまえ……!」

「どこにでもいる……? ふつ、う……??????」

 ど、どうしよう……この人の言っていることがわからない。

 目隠れした女児にしか見えない三十六歳の妻子持ちのおじさんが、この世には溢れているのか?
 清明さんには社会を学べとか言われたけど、社会ってこんな人がいっぱいいるのか……!?

「おっと、おじさんとしたことがついつい偉そうな口を! 年を取るとこうなるからダメだ。これじゃぁ思春期の息子がやたら避けてくるのも納得だよ……。き、気を悪くしたならごめんねシオンくんっ!?」

「あ、いや、別に気にしてないぞ……。とにかく、今日はよろしく頼むぞ、長谷川さん……!」

「あぁ、よろしくねっ!」

 ――かくしてこの日、俺は人間社会の複雑さに戦慄してしまったのだった……!



 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

鈍牛 

綿涙粉緒
歴史・時代
     浅草一体を取り仕切る目明かし大親分、藤五郎。  町内の民草はもちろん、十手持ちの役人ですら道を開けて頭をさげようかという男だ。    そんな男の二つ名は、鈍牛。    これは、鈍く光る角をたたえた、眼光鋭き牛の物語である。

局中法度

夢酔藤山
歴史・時代
局中法度は絶対の掟。 士道に叛く行ないの者が負う責め。 鉄の掟も、バレなきゃいいだろうという甘い考えを持つ者には意味を為さない。 新選組は甘えを決して見逃さぬというのに……。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...