斬 殺 サムライ・ダークネス ~明治妖《あやかし》斬殺譚~

馬路まんじ@PV公開 主人公:赤羽根健治

文字の大きさ
上 下
15 / 42
第三章 ~横浜編~

15

しおりを挟む




 ――妖魔伏滅機関『八咫烏』には、いくつもの支部があるらしい。


 最北端の『北海道支部』から、最西端の『長崎支部』まで。ほぼ全ての県に支部が存在。
 それぞれが周囲一帯を警戒し、妖魔絡みの事件があれば出動するってわけだ。
 で、俺が属することになった東京本部は関東近辺が守備範囲。その一角である『横浜』に、俺たちはバイクで向かっていた。

「まぁ、俺は真緒マオの背中に引っ付いてるわけだが……」

「あははっ、気にするなって。友達だろー!」

 バイク乗れないからねぇ、俺……!
 刀はなぜか握った時から振り回せたけど、バイクは流石に無理だったよ……。
 というわけでしばらくは誰かのお世話になりそうだ。

「すまんな真緒。次は蘆屋あしやの世話になるから」

「……いや、あのチンピラは駄目だよ絶対。性格最悪のボロクズだからどうせシオンのこと振り落とすでしょマジで」

 街道を駆けながら前を睨む真緒。
 視線の先には、「ヒャッハーッ!」とか言いながら前輪を浮かせて走る蘆屋の姿があった。
 あ、バイク乗れない俺のほうを見てニヤニヤ笑ってきた。あと90万3520秒。 

「まぁあの馬鹿はそのうち事故死するとして……それよりも、シオンの服装……」

「お?」

 一瞬ちらりと俺のほうを見る。

 あぁそうそう、俺も陰陽師の黒スーツ貰ったんだよな。
 今は上下ともにそれを着て、父の形見である黒紋羽織と白い首巻(最近じゃマフラーって言うらしい)を身に付けてる感じだ。
 オシャレなんて分からないから、あるもの着ただけの恰好になっちゃったんだよなぁ。

「やはり変だろうか? 羽織もマフラーも取ったほうが……」

「っていやいやいやいやいやっ!? そのままでいいよッ! 似合ってるよ!」

「そうか?」

 うん、真緒がそう言うならそうなのだろう。

「真緒もオシャレだよな。その白くてピッチリして丈が短い……チャイナドレスだったか? そこに肘だけに引っ掛けるようにしたスーツとか、なんかすごいぞ。大人って感じだ」

「えぇっ!? こ、これはアレだよ、妹がこんな恰好を好んでたから、真似しただけだよ……!」

 そうなのか。そういえば俺に思いを吐露した時も、そんなことを言ってたな。

「あはは……未練がましい話だけどさ、脳を失くしても、身体には妹の魂が残ってるって信じてるんだよ。だから兄として、あの子が悲しくならないように、最低限は着飾ってあげようと思ってるんだ」

 ああ、そうだったのか。

「だから綺麗な恰好を」

「うん」

「お前の心はもっと綺麗だぞ」

「ッッッ!?」

 瞬間、バイクがめっちゃ揺れた。振り落とされて死ぬかと思った。

「こわい」

「あッ、あーうんごめんね! はぁー……自分でもビビッたぁ……。なんだ今の身体の反応……」

 昨日からどうにも調子が……と、声を上擦らせている真緒さん。
 やっぱり風邪のようだ。今晩看病しに行こうかな。

 “――うわぁ。やっぱりシオンくん、色々すごいな……”

 と、そこで。清明さんの声が懐から響いた。
 清明さんが懐に入ってるわけではない。入ってるのはグースカ寝てる九尾だけだ。かわいい。

 “おーいちゃんと聞こえてるかな? 『通信札』の調子はどうだい?”

「聞こえてますよ」

 声の元は、スーツ内に貼り付けたお札だった。

 “そりゃよかった。『陰陽札』の中でも、コイツはまだまだ調整中でね。三日くらいしか効力ないし”

 ――『陰陽札』。それが陰陽師たちの基本道具らしい。
 清明さん曰く、“血を混ぜた墨で、札に特定結果の出力を導く霊力回路を精密に刻んでいくんだ。そしたらできるよー”とのこと。
 なんかよくわからんが清明さんは簡単そうに言ってたので、俺も挑戦してみようと思う。

 “浅草で一般人を追い払った『封鎖札』みたいな、魂への干渉は容易なんだ。ただ物質への干渉は難しくてさ、特に声は空気を正確に震わせなきゃだから。そこで僕は西洋で開発中の電話なる機械を知ってだね! その仕組みを参考にッ、外界物質でなく極めて干渉が容易な札に刻んだ血の鉄分に干渉してさらに札自体の素材に炭素と鉄粉を使うことで半電気振動を――!”

「清明さん、俺に熱弁されてもわからないぞ」

 “おふ!?”

 札の先で黙ってしまう清明さん。
 よくわからんけど札作りが好きらしい。なんかこの人、やたら知的なとこあるし、西洋文化にも明るいしで、開発者の妖魔平賀ヒラガと相性よさそうだ。
 どっちもフラフラしてるらしい、実はどっかで会って親交結んでたり……ってないか。
 九尾復活を狙うのは上層部的に一発死刑判定と言われたし、清明さんみたいな偉いっぽい人が妖魔と関係持ってたらえらいこっちゃだよな。
 ……でも、俺のことは黙認してくれてるみたいだし……んん?

 “んッ、あーそうだねごめん……! とにかく僕は別件で忙しいから、代わりにその札を持たせたよ。やばすぎる事態が起きたら相談しなさい”

 ただ、と。清明さんは続ける。


 “言ったよね、キミたちには大妖魔衆『天浄楽土』を倒してもらうと”


 清明さんの言葉に、俺は頷いた。
 大妖魔衆『天浄楽土』。飄々とした清明さんが警戒するほどの、凶悪なる妖魔共の集団らしい。

 “『天浄楽土』。調査によると、【妖魔による人類支配】なんてのを目論んでる、夢見がちな笑える組織さ。だけどその戦闘力は笑えない”

 冷徹な声で清明さんは語る。

 “私利私欲に塗れた妖魔の組織だというのに、実に統制が取れていてね。『首領』なる存在の下、日々研鑽と序列争いと弱き仲間の切り捨てを図り、力を高め続けている。彼らに対抗するには、こちらも若く才能ある人材に育ってもらわなきゃいけない。だからこそ”

 キミたちも最速で成長しなさい。困難は経験の機会とし、僕に頼らず、出来る限りキミたちだけで窮地を乗り越えてみなさい――と。
 清明さんは俺たちに訴えてきた。

「ああ、わかっているさ。九尾の友に恥じないような、強い男になりたいからな」

「自分も、シオンの助けになるよ」

「フンッ……言われずとも強くなってやるさ」

 俺に続いて真緒が答え、すぐ前を行く蘆屋も応える。

 こうして俺たちは、第一の任務。
 横浜の港に巣食うという、“『天浄楽土』が元幹部妖魔”の討伐に向かうのだった――!

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

第一機動部隊

桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。 祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。 徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。 堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる…… 豊臣家に味方する者はいない。 西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。 しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。 全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎
歴史・時代
 国力で遙かに勝るアメリカを相手にするべく日本は様々な手を打ってきた。各地で善戦してきたが、国力の差の前には敗退を重ねる。  そして決戦と挑んだマリアナ沖海戦に敗北。日本は終わりかと思われた。  だが、それでも起死回生のチャンスを、日本を存続させるために男達は奮闘する。 カクヨムでも投稿しています

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...