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第3章:てつおVSチトセ!

第20話「怪物ゲラーカ」

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“マナイバ”を唱えた奴が二人いる。俺と魔女チトセだ。
二人の“マナイバ”のレベルは共に最大。
すっかり崩れ落ちた王宮の瓦礫に、誤魔化しようのないステータスが表示されていた。


名前:佐藤てつお
レベル:6
HP:850
MP:850
攻撃力:80
守備力:80
素早さ:80
魔力:80
魔法耐性:80
器用さ:80
スキル:
【マナイバ:レベル50(マスター)】
【炎熱魔法:レベル43】
【氷結魔法:レベル43】
【電撃魔法:レベル43】
【防御魔法:レベル40】
【回復魔法:レベル41】
【召喚魔法:レベル41】
【剣術:レベル43】
【拳闘術:レベル42】
【弓術:レベル43】
【棒術:レベル43】
【盗む:レベル39】
【飛行:レベル40】
【分解:レベル35】
【調合:レベル39】
【潜伏:レベル40】
【逃走:レベル39】


以前のレベルアップの時は、現HPと最大HPとの摩擦で気絶するほど苦しんだけど、今回はそれは無かった。
理屈は簡単だ。925万引くことの850万、つまり、えーと……75万以上のダメージを、俺が受けていたからだ。
俺の起こした爆発は、75万以上のダメージを俺に、ゲラーカに与えていた。
無理もない。元を辿ればチトセの魔力だからだ。



たっぷり使ったスキルのレベルの低下が著しい。
中でも【分解】は特に減った。もう同じ方法でチトセの魔力を封じ込めることはできないだろう。
あっという間に、俺とチトセの戦力差は10万以上開いてしまった。
それはチトセにもバレた。きっと魔王にも、その手下の“傾天五川”にも伝わるだろう。



そして何より、俺は生まれて初めて人を殺してしまったんだ。
元を辿ればチトセのせいだとは思う。
だけど現にこうして、経験値が入ってきているじゃないか。レベルが上がってしまっているじゃないか!
どうあがいても言い訳ができない。俺が人を殺したんだ。
もう立ち直れそうになかった瓦礫の下の俺に、一つの声が降り注いだ。



「いた!あそこだ!!てつおさん!てつおさんしっかりして!」

瓦礫の山の一角が開けられて、日の光が差し込んだ。
それを再び覆うように何人かの人影が見えた。

「てつお!嘘でしょ死んじゃったの!?返事しなさい!【回復魔法】唱えて!教えたでしょ!“ゼンチュ”よ!!」

……俺が教わったのは“チュー”だったけどな。
とにかくどうにか【回復魔法】を唱えないと。
“マナイバ”が唱えられるぐらい近くにチトセがいるのは間違いないんだからな。

「……ぜ……!」

あ、ヤベェ。喉が焼き切れてるっぽい。
全く声が出せない。身振り手振りで【回復魔法】を唱えてもらおうにも、瓦礫に埋もれて指先すら動かせない。
割と詰んでるぞこれ……ヤベェ!

「……どうやら自力じゃ唱えられねぇみたいだな。しゃーねぇ、オラよっ!」

この声はバン国王か。察しが良くてありがたい。人の上に立つ者って感じがする。
思えば今日だけで二回死にかけて、二回ともこの王様に救ってもらってるのか。

「へ、陛下!?それは国宝“大聖鳥の左翼”ではないですか!」

「細けぇこたァいいんだよ!あいつを見殺しに出来るか!ホレ、もう使っちまったぜ」

マ、マジ?国宝砕いて俺を助けてたの?

「この世界に二つしかない【回復魔法】を極める宝珠を……!これでもう“大聖鳥の右翼”を残すのみとなってしまいましたか……」

「あ、すまん言い忘れた。“右翼”の方はさっき使っちまった」

そ、そうなんだ……さっきのアレってそんなヤバいもんだったんだ……

「へ、陛下!!あの両翼は遥か昔、この国の生誕と共に……」

「ええいうるせぇ!大事に飾るための宝か?命を救うために使えるなら俺は使う!それだけだ!いくぞ!“ゼンチュ”!!」

すぐさま俺の全ての傷は癒えて、HPが完全に回復した。

「……陛下には驚かされてばかりです……いえ、私も最後には同じことをしたでしょう。しかし陛下には驚かされました」

ハヤさんが感服して王様に頭を下げていた。
ちょうどその目の前を、瓦礫の山を突き破って全快の俺が飛び出してきた。

「うひゃあ!?きゃーーーっ!」

驚いたハヤさんは甲高い悲鳴を上げて瓦礫の山を転げ落ちていった。

「あ、ゴメン……心配だろうから元気に飛び出そうと思って……」

「このバカーーーッ!」

エマエが俺の頭を後ろから殴った。
するとすぐさま俺の顔のところに回り込んできて、また何発か殴ってきた。
でもその殴り方は、段々弱々しくなっていった。

「この……バカ!……死んじゃったかと思った……!バカ……!バカ……!」

少し涙ぐんでいる。弱々しいパンチだったけど、かなり痛く感じた。
タキオくんは何も言わず、ただ俺の肩を抱きしめていた。
俺、死んじゃダメだな。こっちの世界でも、死んじゃダメになったんだ。
こいつらを、守らなきゃいけない。
人を殺したことはまた後で受け止める。
俺が死んだら悲しむ人たちのために、命をかけなきゃいけないんだ!



「……見たよ勇者様。やはり書かれていた通り、レベルが上がるとステータスが下がるみたいじゃの」

……!!
俺たちの後ろ側から、元中庭の方角からチトセの声が響いた。
俺たちが振り返ると、すっかり砂と瓦礫にまみれた中庭の上空で麗華が……いや、チトセが浮かんでいた。
砂埃のもやに、麗華のシルエットが見えた。

「それならば儂のすることは簡単じゃな?【召喚魔法】を使えばよい。もし召喚獣を倒されてもお前には経験値が入る……それを恐れて使わなかったのじゃが……こうなれば逆に好都合じゃ」

一足先に瓦礫の下に滑り降りていたハヤさんが素早く弓を構える。
しかし砂埃が晴れてきて、魔女チトセが手に持つものが明らかになると、弓を引く手が止まった。

「さて……とはいえ儂の召喚獣はめぼしいものがおらぬ。マゴシカ帝国へ売り払ったからの。そこで現地調達じゃ……紹介する必要はないかの?」

チトセが手に持つものは、誰か太った男の首だった。
俺は急いでタキオくんの前に立ちはだかり、このショッキングなシーンを見せないようにした。
結局R指定かかってんじゃねえか!チトセめ!

「ポッポ……ゲラーカ!?まさか!人を召喚獣になど……!」

「人かね?何故できぬと思うのじゃ?儂らからすれば!皆等しく下等な生き物じゃよ」

チトセは色とりどりの魔力を凝縮して、次々にゲラーカの首に唱えた。

「知らぬであろうな?【召喚魔法】と【回復魔法】、そして【支援魔法】を【分解】し【調合】すれば……このように自分好みの召喚獣が作れるのじゃ……例え死体であってもな!」



ゲラーカの首から下の身体が、次々と出来上がっていった。
しかしそのシルエットは、明らかに人間のそれではなかった。

「お前は強欲な男じゃったなぁ……腕は四本あっても足らなかったろう」

ゲラーカの胴体を突き破り、腕が六本現れた。

「しかし部下を動かしてばかりのお前に脚など要らないね?」

ゲラーカの下半身が蛇のように伸びていく。

「お主は……そう、まるで山羊のようじゃったなぁ。悪しき者どもには崇拝されとったようじゃが……儂からすれば生け贄のようなもの」

ゲラーカの頭が突き破られ、黒い山羊の頭が生えてきた。

「……完成じゃ。召喚獣“ポッポ・ゲラーカ”!さあお行き!お前があれほど殺したがっていた奴らを今!殺してくるのじゃ!」

もはや原型を留めていない怪物が、中庭の砂漠に降り立った。
真っ黒な全身を、薄緑の炎が覆っている。
山羊の頭に、人間の上半身。腕は六本あり、下半身は大蛇になっている。
その怪物はゲラーカ。さっき俺が殺してしまった男だ。
ゲラーカはもう完全に人間のものではない雄叫びを上げた。もちろん山羊のものとも言い難い。
この怪物は、一足先に瓦礫の下にいたハヤさん目掛けて猛然と突き進んで来た。

「ハヤ!」

まずは王様バンが駆けつけようとした。

「ハヤさん!」

その声に少し遅れて俺たちが動き出す。
ハヤさんはそれらを一喝して全てを止めた。

「なりませぬ!この怪物は私が!勇者様はチトセを!陛下とタキオ殿はどうか安全なところへ!」

ゲラーカが瓦礫の山に頭から突っ込んだ。
どう動くか決める間もなく、俺たちは動かざるを得なかった。
黒巻き角が瓦礫を掘り返す。土煙と瓦礫と轟音を巻き上げながら、この怪物は空中に逃れたハヤさんを探していた。



さて、咄嗟のことで俺たちは少し離れた。そのチーム分けは偶然にも、いや必然的に全員にとって都合の良いものになった。



王様とタキオくんは、チトセやゲラーカから最も遠く離れた、西の離宮の方へいた。

「なあ、タキオくんとやらよ……お前も男だろう。聞いたか?“安全なところへ”だとよ。お前それでいいか?」

「……いやだ!僕たちにできることがきっとあるはずだよ!……あ!あ、あるはずです」

「構わねぇよ!俺の身分は忘れろ!俺もお前の年齢は忘れる!今俺たちは、二人の男だ。違うか?」

「……うん!!」



一方俺とエマエは、【飛行】で空中に浮かんでいた。

「……で、どうするの勇者様?」

「……言われた通りだよ。チトセを止めないと!」

「アイツ、何がしたいのかしらね?さっきは随分ベラベラ喋ってたけど」

「俺たちを殺すつもりなんだろうよ。未だに肉弾戦じゃ俺が圧倒的に上だから召喚獣なんか使ったんだ」

「……その間アイツは何するの?応援?観戦?」

「いや……さっき俺に邪魔された【究極魔法】を完成させるんだろう。つまり……アイツが用があるのは崩れた王宮の破片だ」

「そっか、王宮イコール“予言の書”だもんネ……ってことは」

「そう、俺たちで先に呪文の書かれた破片を見つけてしまえばいいんだ。つまり女神様?」

「オッケー!あたしと一緒なら“予言の書”は反応する!いける!」

「ハヤさんを支援しながらタキオくん達を守って破片を見つける!かなり忙しいぞ!覚悟は!?」

「もちオッケー!行くわよ勇者様!!」

今ここ、王宮跡と中庭跡にて、魔女チトセ迎撃戦はクライマックスを迎えていた。
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