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第3章:てつおVSチトセ!

第19話「レベルが上がった」

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魔女チトセ。
突然現れたコイツは、街中を空爆しエマエを誘拐して俺を半殺しにして、王宮の秘密を破って【究極魔法】を唱えようとしていた。
今そいつは、俺の股の下で跪いて地面に顔を擦り付けられている。
そしてそいつは、魔法によって俺の幼馴染の麗華の姿をしている。
想像してみてほしい。
ちょっと好きな幼馴染の女の子の姿で、中身は極悪の存在。そいつを好き放題にできるとしたら。
この世で一番、下卑た欲望を曝け出せるシチュエーションだと断言できるだろう。



「て、てつおさん!?まずはエマエを助けて!!」

タキオくんの声で我に帰る。
俺、周りから見たらどんな表情してたんだろ。恥ずかしい。
急いでカッコをつけ直して、邪悪で卑劣で、多分本当の姿はヨボヨボの婆さんな魔女を脅した。

「き、聞こえただろ?まずはその女神様を離してもらおうか」

「……勝手にすればよかろう」

エマエは、あろうことかチトセの胸の谷間に挟まれる形で一緒に押し潰されていた。
アホ!バカ!よくやった!
俺はゆっくりと麗華のセーラー服と胸が作る隙間に手を入れてエマエを探した。
……んん~……
正直あっさり見つかったけど、少しばかり余計にまさぐった。
フニフニと柔らかい感触。しっとりと指に吸い付く肌。
……そういえば昼間までは処理しようと思ってたんだっけ。
スベスベでモチモチの弾力に包まれた俺の指を、突然鋭い刃が襲った。

「いってぇ!」

「あたしはここよ!分かってるくせに!何回か触れてたでしょ!」

……チッ。
歯型の残る指で、どうにかエマエを救い出した。
いやいや正気に戻れ俺!
とりあえずこの魔法燃料に満ちた二人の周りから離さなければ。

「タキオくん!受け取ってくれ!」

「え、ちょっちょっ……わーっ!!」

俺はエマエを放り投げた。少し恨みと力が入ってしまったかもしれない。

「あんたねぇ!あたしへの敬意が足りてないってそろそろ言っとかないと……」

無事なようで何よりだ。これでもあんたの為に命懸たんだよ、女神様。



さて……とりあえず噛まれて痛かったからか、冷静になってきた。
コイツから聞き出すことは三つ。
魔王軍の勢力、目的、居場所だ。

「いつまでこうしておるつもりじゃ?聞きたいことはないのか?儂らのことを知りたくはないのか?」

「く……!お、お前みたいな奴が他にもいるのか!?」

くそ……ペースを握られている気がする。
俺がマウントを取ってるはずなのに……

「ああおるともさ。儂らのことを魔王様は天を傾ける五つの川、“傾天五川”とお呼びになる。儂らが流れ込む先は魔王様という海じゃ」

け、傾天五川……!中二病くさい……!
でも……ちょっとカッコイイ気がする……

「だっせぇ名前だな。魔王は中学二年生か?で、お前らは全部で五人か」

「ああ。それぞれが何かを極めておる。儂が魔法を極めておるようにの。耐久力を極めた者、素早さを極めた者、破壊力、器用さ……」

なるほど。俺がこの世界に来てすぐ唱えた“マナイバ”で感じた、でかいステータスの持ち主は全員“傾天五川”のメンバーって訳か。



「そこの貴様らもよく覚えておくんだね!今に全ての大陸を!儂ら五つの川が海へと押し流すであろう!」

チトセがタキオくんやハヤさん達がいる方向へ高笑いをしてみせた。

「ちょ、調子に乗んなよ!俺は今すぐ川を四つに出来るんだぞ!?」

……どうなってるんだ?
俺はコイツの魔法を封じ込めて、力じゃ絶対に勝てて、不意打ちも出来ないぐらいに素早さで圧勝している。
なのにコイツのこの余裕は一体何なんだ!

「ええ、ええ。この婆とのお喋りが飽きたら殺すがよい……儂を殺せばレベルは20ほど上がるであろうなぁ」

「ぐ……!」

こ、こいつ……分かってるのか!?
俺の仕様を……?そういえばエマエが女神様だということも分かってたみたいだ……
多分……分かってやがる……!
そうか、その上で脅してるのか……
とりあえず、悟られちゃダメだ。
今のはチトセのブラフで、俺の反応を見て探るつもりだったのかもしれない。
レベルが上がろうがどうでもよさそうにしなければ。
じゃないとこの状況が意味を為さなくなる。



「よし、最後の質問だ。終わったら殺してやる……魔王は今どこにいる?」

決まった……殺してやるとまで言ってやればビビるに違いない。

「魔王様か?今はマゴシカ帝国におられるはずじゃ。あそこを魔王様の世界と同じにするそうじゃ」

「魔王の世界?えーと確か……概念世界のことか?」

エマエの方をチラッと見ながら聞いてみた。
エマエにも少しもピンと来ていないらしい。

「儂も知らぬ。魔王様はもともと“トウキョウ”という異世界におったそうじゃ」

「東京!?」

もしかしたら発音上偶然にも一致した世界の名前だったのかもしれない。
だけどこの時の俺にはその可能性は思いつかなかった。

「……“ビル”という高層建築。“スマホ”という小型軽量の電磁情報端末。“ネオン”という電気の装飾……全てが儂らの見てきたものを超えておる」

明らかに俺の知ってる“東京”だった。
近世ファンタジーものだと思っていた世界観が、今こいつの言葉で現代ものに変えられていく。
エマエも今までにない深刻な驚き顔をしてこっちを見ていた。
魔王による世界の歪みってまさか、俺と同じようにこの世界に来た奴がいるってことなのか!?
これ以上ないぐらいに頭を混乱させられたタイミングで、俺の股の下のチトセは笑い始めた。

「くっくっく……儂が言えることは全て言ったぞい。どうやら誰かが死ぬ時が来たようじゃ」

今目の前のこいつの姿は、俺の元の世界の幼馴染の麗華。
魔王は東京からこの世界に来た。
チトセが何を言っているか分からない。

「しかしな、この幕を下ろすのは儂でもお前でもない……儂らはこの通り火薬庫に過ぎぬ」

「てつおさん!後ろだよ!気をつけて!」

誰が何を言ってるのか分からない。

「引き金を引くのは彼奴じゃ……儂をこの国へ呼んだあの下衆じゃよ。そこで考えて貰いたいんじゃが……」

「あれは……!ポッポ・ゲラーカ!……チトセめこれを待っていたか!?勇者殿!逃げるのだ!」

だ、誰か来た、のか?誰が?どこから?
東京からか?

「ここで彼奴が魔法を唱えれば恐らく王宮内の全員が生死の天秤にかけられるじゃろう。儂からすれば……儂の命と引き換えに勇者様と女神、おまけにオルズの孫とタイオー国の上層部全員を道連れにできる訳じゃ」

「やっぱりあの野郎だったか!オイ!勇者さんよ!もういいから急いでこっちに逃げるんだ!」

何か言われてる気がする。逃げた方がいいのかな?
俺は誰かに言われた通りに立ち上がって、フラフラとみんなの方を振り向いた。
この隙にチトセは俺の股の下から逃げ出し、ゲラーカに何かを唱えた。

「てつおさん!!」

「てつおーーーッ!!」

ここでやっと正気に戻った。



「や、やべぇッ!」

もう少し冷静に判断できてたら、きっとそんなことはしなかっただろう。
半狂乱で魔力を膨れ上がらせて何かを唱えようとしたゲラーカを見て、俺は咄嗟に【防御魔法】を唱えた。
俺が唱えてしまった。
その魔力に全ての燃料が引火して、王宮が崩れるほどの爆発が起きた。
タキオくん達はこの防御壁に弾かれて外へ吹き飛ばされた。そのおかげで、爆風を受けはしなかった。
この爆発のダメージを受けたのは、俺とゲラーカだけだった。



ついさっき死にかけた気がする。
でも俺なんてまだマシだった。こうしてる間にもアフリカの子供達は飢えているとか、中東の人々は爆撃の恐怖に怯えているとか、そういう話じゃない。
ゲラーカは吹き飛んだ。頭が、左腕が、下半身が。
そう、ゲラーカは死んだ。俺が唱えた魔法で死んだんだ。
当然、奴の身体から経験値が降り注いだ。
ハヤさんに、遠くの誰かに、そしてこの俺に。



俺のレベルが上がった。上がってしまった。
 


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