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第3章:てつおVSチトセ!

第18話「エロ漫画の時間」

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怒りと痛みで震える俺の腕を、誰かの手が掴んだ。

「オイ!しっかりしろ!大丈夫か!?」

ジュークさんより少し下ぐらいの男の手だった。
その男は、このアリジゴクの巣から俺の手首を掴んで引っ張りあげようとしたが、その腕が胴体と辛うじて繋がっているような状態に気づくと手を離した。

「マジかよ……!待ってろ!ぬゥゥゥン!」

男の胸元の宝珠がピンク色に輝き、膨大な魔力が男に集まった。

「いくぞ!“ゼンチュ”!!」

その呪文が唱えられると、宝珠は砕け散った。
それと同時に、あれだけの重傷だった俺の身体は一瞬の内に完全に回復した。

「うおっ!?な、何で!?」

「レアなブツだったからな!俺でも最高レベルの【回復魔法】が使えたってワケだ。よし、出てこれるか?」

男は再び手を差し伸べた。俺は軽くお礼を言いながらその手を借りて流砂を登った。

「すんません……あなたは?」

「俺か、俺はバンってンだ。安心しろ、多分お前の味方だぜ」

バンと名乗る男は、普通の兵卒の鎧を着ていた。多分一兵卒なんだろう。
何故あんなレアアイテムを持っていたかは謎だけど。
とにかくこの人がついて来たところでどうしようもないだろう。避難させなければ。

「……ダメです!魔女チトセはめちゃくちゃ強い!俺に任せて逃げてください!」

するとバンは、頭の後ろを掻きながらニヤッと笑った。

「頼もしいじゃねーか!お気持ちはありがてぇけどな、そういう訳にもいかねーのよこれが……」

そう言い終わるか終わらないかの辺りで、バンの背後の方からタキオくん達が駆けつけた。

「てつおさん!大丈夫だったの!?」

「お、お怪我は無いのか勇者殿!?流石だ、私はてっきり……」

「二人こそ!無事でよかった。いやぁ、俺は死にかけたんだけどさ、この人のおかげで……」

俺が紹介しようとすると、明らかにバンはギクッとした。

「い、いい、いいってことよ!ガハハハ」

バンはギクシャクしながら、振り返りもせずに王宮へ向かう。
するとハヤさんが呆れた顔で歩み寄った。

「陛下……!またそのような格好をされて……護衛もお付けにならずに……!」




「へ、陛下!?王様!?」

こ、この人が王様……?
俺の中では王様っていうのはこう、赤いマントで王冠でヒゲで、ひのきの棒を寄越すような人物だった。
それがこの銭湯でたまに会う気の良いニイちゃんみたいなのが王様だと言う。言葉遣いも乱暴だ。

「はーっ!今はお説教は勘弁しろ!それによ、チトセ相手に護衛なんざつけてられるかよ!誰がいつ操られて刺してくるか分からねぇぜ」

バン……国王は並んで歩くハヤさんと肩を組んだ。
そして何かを耳打ちした。
何かしらのやり取りが終わると、国王は俺に向き直った。

「お前が勇者殿だったのか。それで横のちっこいのがオルズ婆のお孫さんか。すまねェな、そうとは知らず失礼だったかな?まあ許せや!お硬いのが苦手なんだ」

ハヤさんは片手で頭を抱え首を横に振った。
タキオくんは懸命に首を振って、「失礼なんてとんでもない!」とアピールしている。
俺はむしろ気さくで話しやすい王様で、ホッとした。

「さて、そうと分かれば話は早ぇ。チトセの目的だがな、間違いなく“予言の書”を狙ってんだぜアイツ」

出た。予言の書。今まで何回か聞いたキーワードだけど、結局何なんだそれ。

「予言の書?でもアレ、確かタキオくんの家にもあったよな?何であんな物を狙うんです?」

「一般向けの方じゃねーよ。本物だ本物。ボケかましてる場合じゃねぇだろうに」

一般向け?本物?原典と翻訳版があるのか。
ちょっとしたとこで異世界が邪魔になるなぁ。

「陛下、勇者殿はこの世界に来られて日が浅いのです。詳しくはまた後日……」

「この世界?……まぁいいか。とにかくチトセの奴が予言の書を狙う限りはかなり時間が稼げる。絶対に見つかりっこねぇ。何故なら……」

と、王様が言いかけた辺りで王宮が眩しく光り出し、壁一面に見たこともない文字が浮かび上がった。

「何故、なら……王宮そのものが……予言の書だから……見つかる訳ねぇのに何故だ!?」

どうやら見つかったらしい。
王様にとっては何が何だか分からないんだろう。
俺も分からないけど、急いで王宮に向かわないといけないのは分かる。




王宮のメイン建物、一番大きな玉ねぎ型の屋根の中はそれはそれは豪華な装飾がされていた。
青を基調とした、えー……確か、アラベスク模様?そんな感じの幾何学模様が宝石のビーズ細工で施されており、目を見張る美しさだった。
けど今一番目を引くのは、そのビーズ一つ一つが順番に浮かび上がり、空中に一定の法則で並んでいく光景だった。そのビーズが作る文字が、つまり予言の書に記されている内容だったらしい。
俺たち乱暴な観光客と泥棒に入られた家主は、そこへ押し入り、黒焦げの兵士の死体を押しのけてチトセを探した。
チトセは隠れていなかった。堂々と、謁見の間みたいな玉座の近くでエマエとお喋りをしていた。
そしてその姿は……俺だった。

「え!?アレ!?てつおが二人!?どーなってんのこれ!?」

多分まんまと騙されたんだろう。
エマエ……一応女神様なんだからさぁ。

「エマエ!そいつは俺じゃないぞ!魔女チトセだ!このアホ!騙されやがって!」

「だっ!誰がアホよ……えぇ!?チトセ!?」

俺の姿の魔女チトセの手の中で、エマエがもがく。
するともう一人の俺はみるみる内に姿を変え、また麗華の姿になった。

「きっとお主のことじゃろうなぁ。女神様よ……とんだ阿呆じゃの」

「そ、そんな……!だってさっきのステータス画面……」

なるほど、俺に唱えた“マナイバ”か。上手いこと使いやがって。
そんでやっぱり麗華の姿をしやがるのか。

「……五年前と姿が違うな。何かの魔法か?若作りババアめ」

王様がハヤさんに守られながらチトセに悪態をつく。
やっぱりそういう魔法なのか。

「この姿こそ儂の真の姿じゃよ……相手の理想、最も大切な者の姿……これこそが儂じゃ」

「え!?そうなの!?」

うわーマジ?恥ずかしッ!公開処刑かよ!
俺、そんなに麗華のこと好きだったのか……

「アレ?じゃあさっきてつおさんの姿をしてたのって……」

「そ、そんなワケないでしょマセガキ!せっかく連れてきた勇者なんだから大切に決まってるじゃん!そーよ!それだけ!そーに決まってるの!」

タキオくん達のいまいち緊張感に欠けるやりとりの間も、次々に文字が浮かび上がっていく。

「さて、ロマンスの時間は終わりじゃ。歴史の時間にしようではないか。儂の【究極魔法】が!この世界に産まれる瞬間のな!」



チトセに膨大な魔力が集まる。
【究極魔法】?タキオくんのあのスキルか?
チトセにも使えるのか?スキル欄的にはできないはずだけど……

「見よ!予言の書に記された呪文が!今ここに完成しようとしておる!!これを唱えれば儂は【究極魔法】の使い手となれるのじゃ!」

チトセの目の前に文字の列が並び始めた。
読めはしないけど、七文字ぐらい?ある。
確かにあと一文字ぐらいで完成しそうだ。

「そうはさせるかッ!」

ハヤさんが弓を引く。かなり素早かったが、俺たち全角ステータスの世界じゃ止まって見えた。

「控えんか小童!!」

チトセの張った稲妻が、ハヤさんを撃ち抜いた。
目にも留まらぬ速さって感じだろうけど、俺にはかなりスローモーションに見えていた。
問題はその魔力だった。どうにか魔法障壁をピンポイントで張れたが、アッサリと貫通してハヤさんはかなりのダメージを負った。

「ぐっ……!く、そ……ッ!」

「儂は今全てを超越する!この世のあらゆる魔法を!この阿呆な女神を!そしてそこの哀れな勇者様をもな!」

……俺のことか。
まあいいや。もう準備はできたし。



「……俺のステータスは見たはずだよな?」

「……ああ見たともさ。そこのオルズの孫もな。少しばかり驚きはしたが今となっては些細なことよ!」

「じゃあ分かってるはずだ。魔力とMPと魔法スキルはお前が圧倒的に上だよな?」

「……何じゃ?儂に寝返るつもりか?その通り、魔法でお主に勝ち目はないわ」

「その通り。つまり……」

俺は側にあった柱を掴んで引っこ抜き、思いっきりチトセに投げつけた。
柱は俺十人分ぐらいデカかったが、俺の攻撃力なら当然できる。
チトセは容易くその柱を【氷結魔法】と【炎熱魔法】で粉々にした。

「他のステータスは、俺が圧倒的に上ってことだ」

俺はチトセの背後に回り込み、わざわざ止まってから言った。
当然この声に反応して、【電撃魔法】が唱えられる。
当然、俺の素早さなら避けきれる。
全てを避けきってから、俺はチトセの頭をひっ掴んで地面に叩きつけた。
麗華の顔に見えるが、これはチトセだ。チトセだからセーフだ!

「……こんな風にな。肉弾戦ならお前なんか簡単に捕らえられるんだよ」

「……控えんか小童め……」

「おっと!よく見ろよ……お前があんなに魔法を連続で唱えたのに、この建物、全然壊れてないよな?向こうにいる皆もかすり傷一つない。分かるだろ?」

やろうと思えばいつでも俺はチトセを組み伏せられた。
わざわざ挑発して魔法を唱えさせたのには訳がある。
チトセには分かってもらえたみたいだ。



「……【分解】か……!」

「その通り。完全には【分解】できてなかったし、俺が派手に建物を壊してたからピンと来なかったかもしれないけどさ、俺たちの周り、誰かが何か唱えたら即座に大爆発だぜ」

柱を壊した時の【氷結魔法】と【炎熱魔法】、俺を攻撃した時の【電撃魔法】。俺が例のシャボン玉に集めた全ての魔法の片鱗が、起爆剤待ちの状態で辺りを漂っていた。

「で、あんたの方が魔力も魔法スキルも上。俺が何か唱えるリスクよりあんたが何か唱えるリスクが圧倒的に高いよな?だけど魔法耐性は俺が圧倒的に上だ」

「……小童めがァァァッ!!」

「悔しかったらもう一回【分解】を使って起爆剤を消してもいいぞ?そうしたら俺が即座にこの手で殺すことになるけどな」

チトセは屈辱に満ちた顔で必死に俺を睨みつけた。
何もできないと心の底から分かったからだ。
まあ、本当は殺すつもりなんかないけどね。経験値入っちゃうし。

「歴史の時間は終わりだよ。これからは……」

あ、やべぇ。洒落たセリフ思いつかねぇや。
頑張れ俺!今の状況を活かした上手いことを言うんだ!
えー、俺が麗華の姿をした魔女を組み伏せてる。
麗華の顔が俺を心底悔しそうに睨みつけている。
麗華の声が少し苦しそうに、悔しそうに喘ぐ。
麗華の胸は地面に押し付けられてひしゃげて、脚はバタバタしている。
俺はこいつから聞き出したいことがいっぱいだ。
……整いました。

「これからは……エロ漫画の時間だ!!」


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