ハツカネズミが見た海

white love it

文字の大きさ
上 下
4 / 5

ハツカネズミと海

しおりを挟む
「いいのかい?これで」

 港の桟橋で2匹のネズミが出発する船を見守っていた。
 船の中にはクマネズミの母と娘が乗っている。海の向こうの国にいる、動物の言葉がわかるという人間の医者に診てもらうために。

「せっかく集めたチーズを譲ってしまって」

 ジャックはうなずいていった。

「いいんだよ、これで。海の向こうに行くべきなのはローズとモリーなんだ」

 ジャックはトーマスの方を向いて聞いた。

「そっちこそいいのかい?チーズの量、2匹分には少し足りなかったんじゃ……」
「かまわんさ。それにほれ、片方は子供料金ってやつだ」
「ならよかった」

 ジャックはチーズをローズとモリーに譲ったこと、後悔してはいなかった。だが、海の向こうに行くことをあきらめたわけでもなかった。
 船で旅立つ2匹にジャックは大声で叫んだ。

「ローズ!モリー!!ぼくもすぐ海の向こうの国へ行くから。待ってて!!」

 泣いて手を、いや前足を振るローズとモリーの顔を思い出しながら、ジャックは心に決めていた。できるだけはやくチーズを集めて、できるだけはやくローズとモリーのあとを追うことを。
 なぜかって?

「だってさ、またこっちに戻ってくるためのチーズがいるだろ?アイツらだけで集められると思う?」

 そうつぶやくジャックの横顔は朝日に照らされており、トーマスは少しまぶしそうにそれを見つめていた。

                           
                   fin 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

子ネズミデイジーのお引越し

white love it
児童書・童話
野ネズミのデイジーは、お父さんネズミとお母さんネズミと一緒に山から街に引っ越してきます。ドブネズミのスタッチがいろいろな家を紹介してくれるのですが…… 登場人物 デイジー :野ネズミ お父さん :デイジーの父親 お母さん :デイジーの母親 スタッチ :ドブネズミ ダッジェス:猫 グエン  :シマリス 

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

ちびりゅうの ひみつきち

関谷俊博
児童書・童話
ともくんと ちびりゅうの ひみつきち づくりが はじまりました。 カエデの いちばん したの きのえだに にほんの ひもと わりばしで ちびりゅうの ブランコを つくりました。 ちびりゅうは ともくんの かたから とびたつと さっそく ブランコを こぎはじめました。 「がお がお」 ちびりゅうは とても たのしそうです。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

逆立ちしたネコ

のの花
児童書・童話
あるお寺の供え物。 なぜか、いつもかじられた跡があります。 和尚様はネズミのせいにちがいないと、ノラ猫をお寺で飼うことにしました。 ネズミとネコ。 ネコはネズミを退治することが出来るのでしょうか?

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

【完結】誰かの親切をあなたは覚えていますか?

なか
児童書・童話
私を作ってくれた 私らしくしてくれた あの優しい彼らを 忘れないためにこの作品を

瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。 そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。 突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。 大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。 記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

処理中です...