あの頃のぼくら〜ある日系アメリカ人の物語〜

white love it

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4.〜1945年〜

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「もうすぐ戦争が終わる? つまり負けるってこと!?」

 ジャックが驚いた声を出すと、クレアはチッチッと人差し指を立て、左右に振った。

「ジャック、私達はアメリカ人なのよ? そこはでしょう?」
「あ、ああ。そうだね」

 二人が収容所に来てから、すでに4年近くが経っていた。
 この間、収容所内の環境はいくらか改善していた。
 日系人達はその手先の器用さと、勤勉さをフルに発揮した。
 わずかに与えられた大工道具で、トイレには仕切り壁を造り、井戸も掘った。簡単にではあるが、浴槽や洗濯場も造った。畑を耕し、学校やグラウンドまでも収容所に建設していったのだ。
 周りを鉄条網で囲まれてはいたが、その生活は家畜同然のものだった4年前とは違い、人間としての尊厳を感じられるものだった。
 ジャックとクレアは、今まさにその学校の帰り道だった。学校といっても、教師も日系人だったし教科書は使い古されたものだったが、それでも彼らの成績は外の世界の白人達にも劣らぬものだった。
 収容所内の学校から、二人が住むバラックまでは歩いて10分もかからない。
 それでも二人は鉄条網ギリギリまで近づいたり、他のバラックに寄り道していたので、実際には三倍以上の時間がかかっていた。もちろん不用意に鉄条網に近づけば、見張りのアメリカ兵に銃を向けられることもあったが、そんなのは今更気にもならなかった。
 何よりバラックに帰れば互いの親もいるので、この時間はジャックにとって、唯一クレアと二人で話せる時間だった。

「誰に聞いたの? そんなこと」

 クレアは答えずに、かわりに色っぽいウインクを寄こしてきた。

「まさか、また兵士達から聞いたの!?」
「まあね。何でも特別な爆弾を準備してるんですって」
「よくやるよ、全く」

 そう言ってジャックは肩をすくめた。
 同じ年だが、クレアはジャックよりも大人だった。外見においても。精神においても。
 自身の容姿が日系の同胞のみならず、白人の兵士からも称賛の目で見られていることを知ると、度々デートやダンスの相手をしてやることにしたのだ。
 もちろん報酬として、様々な道具や雑貨、着物を要求することを忘れなかった。実際、クレアが受け取った貢物で、収容所内の生活が格段に便利になってきているのは事実だった。

「まさかジャック、妬いてるんじゃないでしょうね?」
「いいや。ただ呆れてるだけさ。君にもアメリカ兵あいつらにもね」

 実際には呆れよりも心配のほうが強かった。
 クレアはアメリカ兵達に手を繋ぐことか、最悪でもキスまでしか許していないと言っていた。デートは収容所内で行われているようだし、兵士達も上官の目がある以上、そこまで変なことはしないだろう。 
 だがそれでも、ジャックは夜、バラック内にクレアがいないと気が気ではなかった。
 何せここでは、自分達は敵国の人間とみなされているのだ。

「そう言わないで。それに彼らだって大変なのよ。ウィルストン軍曹は、今日から硫黄島に派兵されるんですって。サヨナラのキスをしてくれないかって頼まれたのよ」
「なるほどね。ウィルストン君の武運を祈りますか」

 ジャックはそう言って肩をすくめた。ウィルストンが誰なのかジャックは知らないし、知りたくもなかったが。

「戦争が終われば私達も自由になれるわ。そうしたらここを出ていける。社会的に尊敬される立場にだってなれるかも」

 珍しくクレアは真剣な表情でそう言ったので、ジャックは少し戸惑った。

「たとえここを出ても、まともな仕事にはつけないと思うけど」
「あら、それはどうかしら?」

 そう言ってクレアは目をクルリと回した。

「どういうこと?」

 クレアは足を止めると、ジャックの耳元に唇を寄せた。クレアは汗にまみれ、シャツは最低でも3日は洗われてなかったが、それでもいい匂いがした。ジャックは心臓の高鳴りに気づかれないか、心配でしょうがなかった。

「ここの収容所に居て気づいたことはない?」
「気づいたこと? うーん……みんな、日系人」
「そりゃそうでしょ。じゃなくて、みんなの出身州よ」
「出身……」

 そこまで聞いて、ジャックは一つ思い当たることがあった。
 ここには色々な州から日系人がかき集められている。ジャックはアリゾナ。クレアはカリフォルニア。他にもニューヨーク、アラスカ……



 ジャックの言葉に、クレアはこくりと頷いた。

「ユタ州に造られた収容所なのに、ユタ州の人間がいないなんておかしいでしょう」
「まさかユタ州には日系人はいないの?」
「違うわ。ユタ州にも日系人はいる。でもね、彼らは収容所行きを免除されているの」
「なんだって!?」
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