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和也が物置を抜け、大広間のドアを開けようとしたとき中から声がきこえた。それは牧本と米塚の声だった。別にヒソヒソ声でもなかったが、和也はとっさにドアの影から中の声をうかがった。
「牧本さん、随分ご執着ですな、そのエレベーターに」
米塚は何かを食べながら話している様子だった。
「娘さんが設計したエレベーターがそんなに大事ですか?」
「……娘は別れた女房に引き取られたんだよ。あの子が中学生になると同時にだ。だからさ」
牧本の声は沈んでいた。最初ここで話したときとはだいぶ雰囲気が違う。
「じゃあ目当てはそのエレベーターってわけですか? 宝石じゃなくて」
「まさか。宝石も当然目当てさ。『王家の涙』以外にもダイヤやら真珠やらいいものがたくさんここにはあるんだからな」
「なるほどね」
それから米塚はぐっと声を低くした。
「そのエレベーターのことですけどね。設定を変えることは可能だったりするんですか? ああいうのに使われているモーターって、実際には制限重量よりプラス2kgくらい重くてものれるものでしょう。例えば重量を感知させるセンサーだけ無効にするとか、システムのソフト自体を変更することができれば、子供たち以外にも……」
「いやいや、米塚さん。それは無理っていうものですよ。俺は本職は不動産会社経営ですけどね、基本的には専用のソフトが必要だったりパスワードが必要だったりで、メーカーにしかいじれない。娘だってそのパスワードは知らないはずだ」
「なるほどね」
二回目の「なるほどね」とともに米塚はため息をついた。
「ところで米塚さん。あなた本業は大学の先生だとか。よく『王家の涙』が違法に入手されたものだんて分かりましたね?」
和也の位置からでも、牧本の目がギロリと動いたのが分かるような声の響きだった。
「別に大したことじゃありませんよ。私は大学で生物工学を教えているんですがね。動物や植物のしくみや構造を科学に利用しようっていう研究をしてましてね。例えばカワセミのくちばしから、空気抵抗の少ない乗り物を設計しようとしたりとかね」
米塚は一息つくと続けた。
「一年ほど前、相田さんの会社の秘書とかいうのがやってきて、植物や動物のもつ熱反応を利用した最新型の金庫を造りたいといってきたんですよ。それでまあ、ちょっと依頼主がどんな人なのか調べてみたところ、その話が分かったというわけなんですよ。ただ結局その話は、私の仕事のスケジュールと都合が合わずにお流れとなりましたがね。なので昨日まで本人にも会ったことはありませんが」
「だから金庫があんな旧型のままだったのか」
「おや。牧本さんも気づきましたか?」
「ああ。今どき鍵とダイヤル式の金庫だなんて、慣れてるやつなら十分で開けられる」
「確かにね」
二人ともお腹がいっぱいになったのか、部屋に戻る気配が伝わってきた。
「そういえば、あの荒野霧江さんにはどこかで会った、というか見たきがするんですよね……」
「あの人が生物工学の先生を訪ねるとは思えんがね……」
二人が大広間を出ていくと、和也はさっと布巾を手に取り物置へと引き返した。
「牧本さん、随分ご執着ですな、そのエレベーターに」
米塚は何かを食べながら話している様子だった。
「娘さんが設計したエレベーターがそんなに大事ですか?」
「……娘は別れた女房に引き取られたんだよ。あの子が中学生になると同時にだ。だからさ」
牧本の声は沈んでいた。最初ここで話したときとはだいぶ雰囲気が違う。
「じゃあ目当てはそのエレベーターってわけですか? 宝石じゃなくて」
「まさか。宝石も当然目当てさ。『王家の涙』以外にもダイヤやら真珠やらいいものがたくさんここにはあるんだからな」
「なるほどね」
それから米塚はぐっと声を低くした。
「そのエレベーターのことですけどね。設定を変えることは可能だったりするんですか? ああいうのに使われているモーターって、実際には制限重量よりプラス2kgくらい重くてものれるものでしょう。例えば重量を感知させるセンサーだけ無効にするとか、システムのソフト自体を変更することができれば、子供たち以外にも……」
「いやいや、米塚さん。それは無理っていうものですよ。俺は本職は不動産会社経営ですけどね、基本的には専用のソフトが必要だったりパスワードが必要だったりで、メーカーにしかいじれない。娘だってそのパスワードは知らないはずだ」
「なるほどね」
二回目の「なるほどね」とともに米塚はため息をついた。
「ところで米塚さん。あなた本業は大学の先生だとか。よく『王家の涙』が違法に入手されたものだんて分かりましたね?」
和也の位置からでも、牧本の目がギロリと動いたのが分かるような声の響きだった。
「別に大したことじゃありませんよ。私は大学で生物工学を教えているんですがね。動物や植物のしくみや構造を科学に利用しようっていう研究をしてましてね。例えばカワセミのくちばしから、空気抵抗の少ない乗り物を設計しようとしたりとかね」
米塚は一息つくと続けた。
「一年ほど前、相田さんの会社の秘書とかいうのがやってきて、植物や動物のもつ熱反応を利用した最新型の金庫を造りたいといってきたんですよ。それでまあ、ちょっと依頼主がどんな人なのか調べてみたところ、その話が分かったというわけなんですよ。ただ結局その話は、私の仕事のスケジュールと都合が合わずにお流れとなりましたがね。なので昨日まで本人にも会ったことはありませんが」
「だから金庫があんな旧型のままだったのか」
「おや。牧本さんも気づきましたか?」
「ああ。今どき鍵とダイヤル式の金庫だなんて、慣れてるやつなら十分で開けられる」
「確かにね」
二人ともお腹がいっぱいになったのか、部屋に戻る気配が伝わってきた。
「そういえば、あの荒野霧江さんにはどこかで会った、というか見たきがするんですよね……」
「あの人が生物工学の先生を訪ねるとは思えんがね……」
二人が大広間を出ていくと、和也はさっと布巾を手に取り物置へと引き返した。
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