一年B組探偵団と盗まれたルビー

white love it

文字の大きさ
上 下
17 / 23

17

しおりを挟む
 和也が物置を抜け、大広間のドアを開けようとしたとき中から声がきこえた。それは牧本と米塚の声だった。別にヒソヒソ声でもなかったが、和也はとっさにドアの影から中の声をうかがった。

「牧本さん、随分ご執着ですな、そのエレベーターに」
 
 米塚は何かを食べながら話している様子だった。

「娘さんが設計したエレベーターがそんなに大事ですか?」
「……娘は別れた女房に引き取られたんだよ。あの子が中学生になると同時にだ。だからさ」

 牧本の声は沈んでいた。最初ここで話したときとはだいぶ雰囲気が違う。

「じゃあ目当てはそのエレベーターってわけですか? 宝石じゃなくて」
「まさか。宝石も当然目当てさ。『王家の涙』以外にもダイヤやら真珠やらいいものがたくさんここにはあるんだからな」
「なるほどね」

 それから米塚はぐっと声を低くした。

「そのエレベーターのことですけどね。設定を変えることは可能だったりするんですか? ああいうのに使われているモーターって、実際には制限重量よりプラス2kgくらい重くてものれるものでしょう。例えば重量を感知させるセンサーだけ無効にするとか、システムのソフト自体を変更することができれば、子供たち以外にも……」
「いやいや、米塚さん。それは無理っていうものですよ。俺は本職は不動産会社経営ですけどね、基本的には専用のソフトが必要だったりパスワードが必要だったりで、メーカーにしかいじれない。娘だってそのパスワードは知らないはずだ」
「なるほどね」

 二回目の「なるほどね」とともに米塚はため息をついた。

「ところで米塚さん。あなた本業は大学の先生だとか。よく『王家の涙』が違法に入手されたものだんて分かりましたね?」

 和也の位置からでも、牧本の目がギロリと動いたのが分かるような声の響きだった。

「別に大したことじゃありませんよ。私は大学で生物工学を教えているんですがね。動物や植物のしくみや構造を科学に利用しようっていう研究をしてましてね。例えばカワセミのくちばしから、空気抵抗の少ない乗り物を設計しようとしたりとかね」

 米塚は一息つくと続けた。

「一年ほど前、相田さんの会社の秘書とかいうのがやってきて、植物や動物のもつ熱反応を利用した最新型の金庫を造りたいといってきたんですよ。それでまあ、ちょっと依頼主がどんな人なのか調べてみたところ、その話が分かったというわけなんですよ。ただ結局その話は、私の仕事のスケジュールと都合が合わずにお流れとなりましたがね。なので昨日まで本人にも会ったことはありませんが」
「だから金庫があんな旧型のままだったのか」
「おや。牧本さんも気づきましたか?」
「ああ。今どき鍵とダイヤル式の金庫だなんて、慣れてるやつなら十分で開けられる」
「確かにね」

 二人ともお腹がいっぱいになったのか、部屋に戻る気配が伝わってきた。

「そういえば、あの荒野霧江さんにはどこかで会った、というか見たきがするんですよね……」
「あの人が生物工学の先生を訪ねるとは思えんがね……」

 二人が大広間を出ていくと、和也はさっと布巾を手に取り物置へと引き返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女の如く、永遠に囚われて

white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。 彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。 ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。 良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。 実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。 ━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。 登場人物 遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。 遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。 島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。 工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。 伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。 島津守… 良子の父親。 島津佐奈…良子の母親。 島津孝之…良子の祖父。守の父親。 島津香菜…良子の祖母。守の母親。 進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。 桂恵…  整形外科医。伊藤一正の同級生。 遠山未歩…和人とゆきの母親。 遠山昇 …和人とゆきの父親。 山部智人…【未来教】の元経理担当。 秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

放課後のささやかな探偵ごっこ

white love it
ミステリー
和也と智の二人は、クラスメイトの直が平気で嘘をつくこと、みんながそれに騙されていることを知っている。最近直のつく嘘の種類がこれまでとは違ってきて…… 和也…最近東京から引っ越してきた中1。 智…和也の友達。運動神経がいい。 絵里…和也や智が気になっている美少女。 直…和也、智、絵里のクラスメイト。嘘つき。

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

美しき怪人は少年少女探偵団を眠らせてくれない

white love it
ミステリー
S市立東山小学校5年の智也、誠、乃愛、亜紀の四人は学校の帰り道、森の中に建てられた絶世の美女ネイレの山小屋に招かれる。彼女は子供達に問題を出し、解けなければ生きたまま人形になってもらうと告げる…… 佐間智也…ごく普通の小学5年生 藤間誠 …イケメンにしてスポーツ万能な小学5年生 葛城乃愛…美少女アイドルの小学5年生 今関亜紀…成績優秀な小学5年生 ネイレ …本名不詳。黒いワンピースに身を包んだ超絶美女。

夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。 飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。 ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた—— 「そこに、"何か"がいる……。」 科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。 これは幽霊なのか、それとも——?

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

泉田高校放課後事件禄

野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。 田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。 【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】

昭和レトロな歴史&怪奇ミステリー 凶刀エピタム

かものすけ
ミステリー
 昭和四十年代を舞台に繰り広げられる歴史&怪奇物語。  高名なアイヌ言語学者の研究の後を継いだ若き研究者・佐藤礼三郎に次から次へ降りかかる事件と災難。  そしてある日持ち込まれた一通の手紙から、礼三郎はついに人生最大の危機に巻き込まれていくのだった。  謎のアイヌ美女、紐解かれる禁忌の物語伝承、恐るべき人喰い刀の正体とは?  果たして礼三郎は、全ての謎を解明し、生きて北の大地から生還できるのか。  北海道の寒村を舞台に繰り広げられる謎が謎呼ぶ幻想ミステリーをどうぞ。

処理中です...