一年B組探偵団と盗まれたルビー

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「さてとどうする? 南たちのいる物入れに寄ってみる?」

 和也は隣の物置を指差した。ここは大広間のすぐ奥にキッチン、そして物置が二つ続いてから使用人の松永の部屋と、その奥に洗面所、浴室の順になっているのだ。

「いや、まずは松永の婆さんがいるか確認しよう」

 そういうと真は松永のいる部屋の扉を叩いた。
 すぐに返事があった。

「誰ですか?」
「あ、藍川和也です。夜分すいません。なんだか誰かのうなり声がしてる気がして……」

 松永がドアから顔をみせていった。寝巻きの上にガウンを羽織っており、なんだか校長先生といった雰囲気だった。

「うなり声? 外の雨風の音では?」
「はぁ。それが何なのか分からなくて」
「この屋敷の防犯システムは完璧ですし、この辺りに危険な野生動物はいません。ご心配なく」

 それだけいうと、松永はバタンとドアを閉めてしまった。

「少なくとも松永さんのいびきじゃなさそうだね」
「とすると……」

 和也と真が首をかしげていると突然声がした。

「君たちも眠れないのかい?」
「よ、米塚さん……」

 見ると暗がりにワイシャツのボタンを緩めた米塚が立っていた。

「いや、何だか明日の商談のことを考えていたら興奮して寝れなくなってしまってね。キッチンから水でも拝借しようかと起きてきたんだ」

 そういってニヤニヤと笑う米塚は、昼間の冷静なイメージとは違いどこか不気味だった。

「商談はうまくいきそうなんですか? なんかものすごい値段をふっかけられたみたいなこといってませんでしたっけ?」

 真の問いかけに米塚は大きくうなづいた。

「あの程度のはったりで引っ込んでいてはこの仕事は成り立たんよ。まあこれからが本当の勝負さ」
 
 そういい残すと米塚はキッチンへと消えていった。

「たいそうな自信だね」
「ああ」
「どうする? 南たちに声かける?」

 真がニヤリと笑いながら和也の方を向いた。

「やけに南たちの部屋に行きたがるんだな?」
「え? なに? どういうこと?」
「いや、別にいいんだ。和也。むしろ俺は応援してるぜ」
「何か勘違いしてない? 別に変な意味じゃないし」

 そんなことをいいあっていたが、大広間で人の気配がして黙った。
 和也と真が顔を見合わせ、そっと大広間に通じるドアを開ける。

「見ろよ。すぐそこ」

 真がそっと和也をつつく。
 視線の先には牧本がいた。じっと壁に描かれたトラの絵を眺めていた。昼間の陽気で豪快な雰囲気とは違い、何かを思いつめたような顔だった。
 和也と真は顔を見合わせると、牧本に気づかれないようにそっとドアを閉め物置へと戻った。和也にしても南たちのところに行く気はもうなかった。

「驚いたね。やけに真剣な顔で見てたけど、あれってただの絵だよね?」
「たぶんな。けどな、和也。位置的にあのあたりなんだよ」
「何が?」
「うなるような音がしたところさ」
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