一年B組探偵団と盗まれたルビー

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 霧江が和也たちと話しているところで、また二階から二人の男性客が降りてきた。二人とも年齢は五十代くらいで、一人はがっしりとした体つきでアロハシャツにハーフパンツという恰好、おまけによく日焼けした肌が印象的だった。もう一人はスーツをきっちりと着込み、眼鏡をかけている。痩せた体つきに頬骨が出ており、和也は何となくカマキリを連想した。二人とも、和也たちには目もくれず話に夢中になっている。

「困りましたな、米塚さん。取り付く島もないとはこのことだ」

 少しも困っていない様子でアロハシャツの男はそういうと、ガハハと豪快に笑った。
 一方、米塚と呼ばれた男は少しも表情をゆるめずに答えた。

「確かに売り値が五十億円、それも現金以外は受け付けないなどというのは、私も長くこの業界にいますがきいたことがありません。ただね、牧本さん。あの『王家の涙』、あれもまたこの業界で一度もみたことがないほど立派なルビーだ。そう思いませんか?」

 牧本はすっと真顔になると大きくうなづいた。だがすぐにニヤリと笑い、霧江の方を向いていった。

「おぉっと、ここにどんな宝石よりも美しい方がおられるのを忘れてましたぞ。荒野さんの美しさなら文句なしで『王家の涙』にも勝てるでしょうな」

 霧江は少し苦笑しただけでそれには答えず、和也たちをみていった。

「こちら、宝石商の牧本保まきもとたもつさんと米塚浩一よねつかこういちさんよ」

 和也たちが自己紹介とインタビューの目的をいうと、案の定というべきか、二人とも驚いた顔をした。

「宝石の話じゃなくて人生のアドバイスってわけかい?」
「ダメですか?」
 
 乃愛が無邪気な表情で首をかしげる。

「いやいや、別にダメってわけじゃないさ。むしろ俺たちも、実際に会うのは今日が初めてだからな。あとでインタビューの結果を教えてほしいくらいさ」

 牧本があわてた様子で首を振った。だが米塚は冷たい目つきで和也たちを見回すといった。

「まあ、いいじゃないですか。これも一つの人生勉強だと思えば」

 どういう意味ですか? 和也がそうきこうとしたとき、使用人の松永が部屋に入ってきていった。

「あなたたち、旦那様がお会いになるそうよ」

 松永に連れられて部屋を出るとき和也が振り返ると、米塚と牧本はすでに自分たちの話に夢中になっていた。ただ荒野霧江だけが四人のことをじっと見守っていた。
 その表情は一見すると温かく、優しげなものだった。
 南や乃愛、真も霧江に見つめられていることに気づいたのか、部屋を出る際軽く会釈をしていった。真にいたっては照れ隠しなのかやたらニヤニヤしているありさまだ。
 ただ和也だけはどうにも気になってしかたなかった。霧江がずっと腕を組んでいることに。
 まるでずっと高い所から見下ろされているような、観察されているような、そんな気がしてならなかったのだ。
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