一年B組探偵団と盗まれたルビー

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 階段を上った先にはドアが一つあるだけだった。
 ドアの向こうはとても広い空間が広がっていた。窓が大きいこと、部屋の中にはベッドをはじめ、金庫、机、ガラスケースを除くとほとんど調度品がないこともそう思わせたのかもしれない。
 大きなベッドには一人の老人が寝ていた。

「お前たちか。儂に会いたいというのは」

 ベッドに寝たまま、上半身だけをおこし、しゃがれた声でその老人はいった。

「はい。あの中学校の新聞委員会のもので葛城南といいます……」

 珍しく南がおずおずとした口調でいい、和也たちも続けて自己紹介をした。
 鋭い目に大きく角ばった鼻。相田正一はまるでコンドルのような雰囲気だった。

「私を学校の新聞にのせるのかね」
「え~、まあ……」
「ふん、まあいいだろう。どうせ訪ねてくる客もなく退屈してたんだ」
「え? でも下の階にお客さん、いっぱい来てましたけど……」

 乃愛がそうきくと、相田はふんと鼻をならした。

「あいつらは客じゃあない。ただビジネスの話で来ただけさ。お前たちはちがうだろ?」

 そういうと相田は、和也たちをぎろりとにらんだ。

「えぇ、そのききたかったのは人生で成功する秘訣なんです」
「ほぉ。だな」
「会社を成功させるまでにはいろいろ大変なこともあったと思うんです。お金の工面とか、同業者との対立とか、ときには仲間に足を引っ張られたり。そんなとき、どうやって乗り越えてきたのか、教えていただきたいんです」

 南がそういうと、相田はニヤリと笑った。
 
「儂のところに来たのは正解だった。儂ほど、人生を成功させたものはいないからな」

 真顔でそういいきる相田をみて、和也は思わず隣にいる乃愛と真のほうを向いた。
 だが二人はまっすぐ相田のほうを見ていた。

「確かに色々なことがあった。特許申請の直前で技術者が新製品の設計図とともにライバル社に行ったこともあった。喜んで金を貸すといっていた銀行が、次の日には話をなかったことにしてくれといってきたこともな」

 相田はひと息つくと、和也たちに向かっていった。

「そんなときどうするか? だろ? お前たちがききたいのは」
「は、はい。そうです」
「遠慮をするな。欲望に忠実であれ。儂がいえるのはそれだけだ」
「……え~と、それはどういう意味ですか?」
「人間はみんな、誰かの目を気にするものだ。家族、社会、同僚、クラスメイト……よく思われたい。いい人だと思われたい、とな。アドバイスしておくぞ。そんな遠慮は捨てろ。欲しいもののためなら、なりふりかまうな。儂は技術者の家を十日間見張り続けて、技術者が設計図を持って出たところで捕まえて、偽物の設計図とすり替えてやったわ。銀行のときもな……」

 相田正一は楽しそうに自慢話を続けた。
 和也は黙ってきいていた。正直、目の前の老人の話が役に立つとは思えなかった。乃愛や南も少し困ったような表情をしている。少なくとも、学校の新聞にのせられるとは思ってないだろう。ただ一つ気になったのは、真だけが真剣な表情でじっときいていたことだった。
 気づけば外はくもり空に覆われ、静かに雨が降り出していた。
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