1 / 23
1
しおりを挟む
「それで今月の新聞委員会の集まりなんだけど……」
郊外にある静かな森の中の道を、四人の中学生が真新しい学ランとセーラー服に身を包んで並んで歩いている。
残りの三人にきいているのは、キリリとした目つきにおしゃれなショートヘアをした少女だった。名前は葛城南という。
ただ活発そうな外見とはうらはらに、その口調はほんの少し弱々しかった。
「ああ、私ならいつでも大丈夫だから。みんなに合わせるわ」
そう答えたのは、夢野乃愛。びっくりするほどの白い肌に、小さくまとまった顔立ちが目をひく美少女だった。
「あれ? 撮影とかないの?」
無邪気な声でそう聞いたのは藍川和也。女子2人よりもやや背は低く、クシャクシャの髪がどこかユーモラスで幼い雰囲気の少年だった。
「……うん。まあ、しばらくは……」
少しだけ顔をしかめて乃愛が返事をする。
「オレもいつでも大丈夫だ」
間を割るように、ひときわ大きな声でいったのは山形真。その身長は和也よりも頭一つ高く、足はスラリとのびていた。中学生にはやや不釣り合いなほど髪をのばしていたが、大人っぽい顔立ちにはよく似合っていた。
「試合は? 練習とか大丈夫なの?」
和也の問いかけに真は前を見たまま、ただ「ああ」とだけ答えた。
「和也くん、そういうあなたは大丈夫なの?」
南が顔を覗きこむようにしてきいてきた。
「ぼく?」
和也は少し考えこんだ。今月、6月もあと半分。ミステリーの新刊発売あったかな?
和也にとってミステリー小説は生きがいだった。古今東西あらゆるミステリーを読んできた和也にとって、新刊を逃すことは大きな痛手だった。もちろん全ての新刊を実際に買うわけではない。ネットの読者レビューを参考にしたり、書店で立ち読み(!)したうえで買うかどうかを決めるのが、和也のやり方だった。
むしろ最近は、わざわざ買うほどのミステリー小説がなくなってきたのが和也の悩みだった。
「うん、大丈夫だよ。特に予定はないから。いつでも平気だ」
「そういう南は大丈夫なのか?」
真がまた割り込んできた。
「塾だの、英会話だのさ」
「ああ、そうね……」
しばらくの沈黙のあと、南は口を開いた。
「……大丈夫。実は今、行ってないの。塾も英会話教室も」
少し寂しげだったが、はっきりとした口調だった。
和也はそっと右隣りを歩く南の顔を見つめた。
その顔はまっすぐ前だけを見ていた。
いったいどうしたんだ?
将来世界で活躍するビジネスウーマンになるのは、南の夢だったはずなのに。ついこの間まで、日本の英語教育は遅れている、本当に役立つ英語は学校じゃなくて、外国人を相手にした英会話教室じゃなきゃ身につかないって、あれだけいってたのに。
だがそのあとの真の答えは、もっと和也を驚かせた。
「……そうか」
真はそう一言いったきり、黙ってしまったのだ。
おかしい。
和也は今度は左隣りの真のほうを見た。
普段の真ならこんな時、ぜったいにふざけてみせるのだ。からかうようなことをいって、南を怒らせる。それを見て和也や乃愛が笑ったり、間に入って止めるのが、ずっと前からのお決まりの光景だったのに。
郊外にある静かな森の中の道を、四人の中学生が真新しい学ランとセーラー服に身を包んで並んで歩いている。
残りの三人にきいているのは、キリリとした目つきにおしゃれなショートヘアをした少女だった。名前は葛城南という。
ただ活発そうな外見とはうらはらに、その口調はほんの少し弱々しかった。
「ああ、私ならいつでも大丈夫だから。みんなに合わせるわ」
そう答えたのは、夢野乃愛。びっくりするほどの白い肌に、小さくまとまった顔立ちが目をひく美少女だった。
「あれ? 撮影とかないの?」
無邪気な声でそう聞いたのは藍川和也。女子2人よりもやや背は低く、クシャクシャの髪がどこかユーモラスで幼い雰囲気の少年だった。
「……うん。まあ、しばらくは……」
少しだけ顔をしかめて乃愛が返事をする。
「オレもいつでも大丈夫だ」
間を割るように、ひときわ大きな声でいったのは山形真。その身長は和也よりも頭一つ高く、足はスラリとのびていた。中学生にはやや不釣り合いなほど髪をのばしていたが、大人っぽい顔立ちにはよく似合っていた。
「試合は? 練習とか大丈夫なの?」
和也の問いかけに真は前を見たまま、ただ「ああ」とだけ答えた。
「和也くん、そういうあなたは大丈夫なの?」
南が顔を覗きこむようにしてきいてきた。
「ぼく?」
和也は少し考えこんだ。今月、6月もあと半分。ミステリーの新刊発売あったかな?
和也にとってミステリー小説は生きがいだった。古今東西あらゆるミステリーを読んできた和也にとって、新刊を逃すことは大きな痛手だった。もちろん全ての新刊を実際に買うわけではない。ネットの読者レビューを参考にしたり、書店で立ち読み(!)したうえで買うかどうかを決めるのが、和也のやり方だった。
むしろ最近は、わざわざ買うほどのミステリー小説がなくなってきたのが和也の悩みだった。
「うん、大丈夫だよ。特に予定はないから。いつでも平気だ」
「そういう南は大丈夫なのか?」
真がまた割り込んできた。
「塾だの、英会話だのさ」
「ああ、そうね……」
しばらくの沈黙のあと、南は口を開いた。
「……大丈夫。実は今、行ってないの。塾も英会話教室も」
少し寂しげだったが、はっきりとした口調だった。
和也はそっと右隣りを歩く南の顔を見つめた。
その顔はまっすぐ前だけを見ていた。
いったいどうしたんだ?
将来世界で活躍するビジネスウーマンになるのは、南の夢だったはずなのに。ついこの間まで、日本の英語教育は遅れている、本当に役立つ英語は学校じゃなくて、外国人を相手にした英会話教室じゃなきゃ身につかないって、あれだけいってたのに。
だがそのあとの真の答えは、もっと和也を驚かせた。
「……そうか」
真はそう一言いったきり、黙ってしまったのだ。
おかしい。
和也は今度は左隣りの真のほうを見た。
普段の真ならこんな時、ぜったいにふざけてみせるのだ。からかうようなことをいって、南を怒らせる。それを見て和也や乃愛が笑ったり、間に入って止めるのが、ずっと前からのお決まりの光景だったのに。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

聖女の如く、永遠に囚われて
white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。
彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。
ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。
良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。
実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。
━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。
登場人物
遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。
遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。
島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。
工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。
伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。
島津守… 良子の父親。
島津佐奈…良子の母親。
島津孝之…良子の祖父。守の父親。
島津香菜…良子の祖母。守の母親。
進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。
桂恵… 整形外科医。伊藤一正の同級生。
遠山未歩…和人とゆきの母親。
遠山昇 …和人とゆきの父親。
山部智人…【未来教】の元経理担当。
秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

放課後のささやかな探偵ごっこ
white love it
ミステリー
和也と智の二人は、クラスメイトの直が平気で嘘をつくこと、みんながそれに騙されていることを知っている。最近直のつく嘘の種類がこれまでとは違ってきて……
和也…最近東京から引っ越してきた中1。
智…和也の友達。運動神経がいい。
絵里…和也や智が気になっている美少女。
直…和也、智、絵里のクラスメイト。嘘つき。
強制憑依アプリを使ってみた。
本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。
校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈
これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。
不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。
その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。
話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。
頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。
まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

美しき怪人は少年少女探偵団を眠らせてくれない
white love it
ミステリー
S市立東山小学校5年の智也、誠、乃愛、亜紀の四人は学校の帰り道、森の中に建てられた絶世の美女ネイレの山小屋に招かれる。彼女は子供達に問題を出し、解けなければ生きたまま人形になってもらうと告げる……
佐間智也…ごく普通の小学5年生
藤間誠 …イケメンにしてスポーツ万能な小学5年生
葛城乃愛…美少女アイドルの小学5年生
今関亜紀…成績優秀な小学5年生
ネイレ …本名不詳。黒いワンピースに身を包んだ超絶美女。
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
泉田高校放課後事件禄
野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。
田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。
【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】
昭和レトロな歴史&怪奇ミステリー 凶刀エピタム
かものすけ
ミステリー
昭和四十年代を舞台に繰り広げられる歴史&怪奇物語。
高名なアイヌ言語学者の研究の後を継いだ若き研究者・佐藤礼三郎に次から次へ降りかかる事件と災難。
そしてある日持ち込まれた一通の手紙から、礼三郎はついに人生最大の危機に巻き込まれていくのだった。
謎のアイヌ美女、紐解かれる禁忌の物語伝承、恐るべき人喰い刀の正体とは?
果たして礼三郎は、全ての謎を解明し、生きて北の大地から生還できるのか。
北海道の寒村を舞台に繰り広げられる謎が謎呼ぶ幻想ミステリーをどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる