聖女の如く、永遠に囚われて

きっと忘れない

1.

　信号が赤になっている間に、幸子はスマホを取り出した。

「良子さんから連絡があった。お父さんには双子どころか兄弟もいないらしい」

「決まりだね」

「ああ」

　幸子はスマホをしまうと、信号が変わったと同時に車を加速させた。
　明るくなりかけたばかりの早朝の町並みに、人気はまだまばらだった。

「それにしても、未歩さん、ずいぶんすっきりした顔だったわね」

「うん」

　和人も今朝、和人と幸子を送り出した時の母親の顔を思い出していた。
　爽やかな、少しだけ寂しさを秘めた笑顔だった。

「まあ、なんだかんだいって、世の中には学校に行くよりもずっと大切なことがあるっていうことは、この八十年の歴史で、母さんも含めて、僕たちも理解してるから」

「そういってくれて嬉しいよ。この国の人間が同じ失敗を二度も三度も繰り返す様は見たくない」

　そういって、幸子は軽く肩をすくめた。

「一度目は悲劇、二度目は喜劇というが、そもそも三度目のチャンスがないことが一番恐ろしいからね」

　幸子のコーナーワークは非常にスムーズで、車は流れるように走り抜けていく。