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加速
5.
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帰り道は長く感じた。
道路が混んでいたのもあるが、それ以上に幸子の存在が和人に重くのしかかっていた。運転席から彼女の放つ冷たいオーラが、和人の心を突き刺していた。
和人が家に着いたとのは、まだ九時前だった。
「今日はお疲れ様。ただ今日の君の態度は少し考えたほうがいいわ」
幸子はそれだけいうと、去っていった。
「あ、お兄ちゃん、ずいぶん早かったね」
ゆきが二階の自室から顔を覗かせた。
「そのまま一泊するかと思ったのに」
和人は力なく首を振るだけだった。
母親が用意してくれた遅めの夕飯を食べると、和人は部屋にこもった。
確かに、和人自身、いつの間にか調子にのっていたのは認めざるをえない。
だが幸子の反応も過敏すぎるのではないだろうか。
あれが自分の孫のような年の少年に対する態度なのか?
そもそも幸子の美しさは誰もが認めるところ。その美しさに目が眩んだ男は、これまでにもたくさんいたはず。そもそもかつては新聞で紹介されたり、負傷兵の慰問に訪れるくらいなのだ。
それなのに、なぜ自分だけが怒られなければいけないのか?
調子にのったから?
失礼な態度をとったから?
「うーーー!」
和人はベッドの上で枕に顔を押しつけながら、声にならない声をあげた。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
突然、ゆきの声がした。
ドアから心配そうに顔を覗かせている。
「ノックぐらいしろよ」
「ごめん」
ゆきはベッドの端に腰掛けた。
「幸子さんと何かあった?」
ゆきがそっと聞いた。
ゆきの声がいつの間にか母親に似てきたことに、和人は気づいた。
「あった」
「何があったの?」
和人は起き上がると、今あったことをすべて話した。
自分がいつの間にか幸子の美しさにのめり込んでいったこと、幸子が疲れ、傷つき、自分を必要としているような気がしていたこと、幸子から「女の孤独につけ入る気なのか」と責められたこと。
和人は、できるだけ淡々と、客観的に事実だけを話すようにした。
自分が惨めで、かっこ悪くて、そうでもしないと涙があふれそうだった。
話が終わったとき、ゆきがどんな反応をするか、和人は少し不安だった。
ゆきは少し俯いた姿勢のままいった。
「あのババア」
ゆきは少しだけ笑っていた。
道路が混んでいたのもあるが、それ以上に幸子の存在が和人に重くのしかかっていた。運転席から彼女の放つ冷たいオーラが、和人の心を突き刺していた。
和人が家に着いたとのは、まだ九時前だった。
「今日はお疲れ様。ただ今日の君の態度は少し考えたほうがいいわ」
幸子はそれだけいうと、去っていった。
「あ、お兄ちゃん、ずいぶん早かったね」
ゆきが二階の自室から顔を覗かせた。
「そのまま一泊するかと思ったのに」
和人は力なく首を振るだけだった。
母親が用意してくれた遅めの夕飯を食べると、和人は部屋にこもった。
確かに、和人自身、いつの間にか調子にのっていたのは認めざるをえない。
だが幸子の反応も過敏すぎるのではないだろうか。
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それなのに、なぜ自分だけが怒られなければいけないのか?
調子にのったから?
失礼な態度をとったから?
「うーーー!」
和人はベッドの上で枕に顔を押しつけながら、声にならない声をあげた。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
突然、ゆきの声がした。
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「ノックぐらいしろよ」
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ゆきの声がいつの間にか母親に似てきたことに、和人は気づいた。
「あった」
「何があったの?」
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自分がいつの間にか幸子の美しさにのめり込んでいったこと、幸子が疲れ、傷つき、自分を必要としているような気がしていたこと、幸子から「女の孤独につけ入る気なのか」と責められたこと。
和人は、できるだけ淡々と、客観的に事実だけを話すようにした。
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