聖女の如く、永遠に囚われて

white love it

文字の大きさ
19 / 78
真っ逆さまに

1.

しおりを挟む
 良子が和人を最初に意識したのは、転校してきてすぐだった。
 新しいクラスに入るとき、普通は担任に紹介されるものだと思っていたが、良子はまず自分で教室の席について待つように言われた。
 それまでいた都会の学校よりは少し田舎。ただし、本当の田舎とは比べものにならないほど発展している。それが、このO町に対する良子のイメージだった。
 都会から田舎の学校に転校すると、環境の差に打ち解けるのが大変だったり、カッコつけてると思われ、嫌われることがあるという。
 だがこの学校では、その心配はなさそうだというのが良子の見立てだった。
 案の定、クラスの子たち、特に女子は良子に対して、バカにするような態度も媚びるような態度も示さなかった。少し距離を取りつつ、適度に会話し、打ち解けながらも、絶えず観察し、品定めするような視線を向けてきた。
 それは意識しなければ苦痛というほどのことではないが、良子としては、高校に入るまでは本当の意味での友人はできないだろうと覚悟していた。もっとも以前の中学に本当の友人がいたかと問われれば、返事には困るのだが。
 転校して一週間ほどした頃、たまたま親の買い物につきあってスーパーに来たときに、良子は和人に会った。
 スーパーの駐車場はかなり特殊なコインパーキング制で、良子や母親が見たことのないタイプだった。それは先に料金を支払い、出てきたカードを持ってある程度買い物をしてからカードにマークをつけてもらい、そのカードを帰りに駐車場の機械に差し込むと、時間内なら料金が返却されるというものだった。
 だが良子の母親、佐奈さなはそんなことは知らず、車を停めるとさっさ店内に買い物に入ってしまっていた。良子も、コインパーキングなら帰りに駐車番号さえ入力して、支払いをすればいいと思っていた。
 だから実際にはカードを取っていなければいけないことや、料金を先払いしなければいけないと知って佐奈は少し慌てた。
 なじみのある町なら、そんなに慌てることもないだろう。だが、まだ勝手に知らない町。誰に聞けばいいのかも分からず、そして同時にプライドの問題から、佐奈は軽くイライラして、良子を叱った。

「なんで気づかないのよ!? 言ってくれればいいじゃない?」

「車を運転してるのは、お母さんでしょ!?」
 
「スマホばっかり見てるからよ」

 言い争いが白熱してきたときだった。

「あ、良子さん?」

 突然、自転車に乗った和人の声がした。

「え? 確か同じクラスの……」

 痩せた、ごくごく平凡なクラスメイト。それが良子の和人に対する第一印象だった。

「もしかして、駐車券事前に取り忘れたんじゃない? ここの、ちょっと特殊だから」

 そう言って和人は笑った。
 それは馬鹿にするでも、カッコつけるでもない。自分をよく見せようともしていない。さわやかで、優しくて、そしてとても素直で笑い方だった。
 良子もつられて笑った。
 そしてそんな自分に驚いた。もうここ最近、そんな風に誰かと一緒に笑ったことはなかったから。そんなのはカッコ悪いと思っていたから。

「このコインパーキングは、スーパーとは別管理なんです。分かりにくいけど、この2次元コードからアクセスして事情を説明すれば、大丈夫ですよ」

 和人が母親に説明するのを見ながら、良子は和人のことをもっと知りたいと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...