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第4章
4.〜とあるプロジェクト〜
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愛里の反応は、アドラーの予想とは全く違うものだった。照れたり、はにかんだりするわけでもなく、尊敬の眼差しで見るでもない。
ただ俯いて、何かブツブツと独り言を言いだした。
聞こえてくるのは「小型化による実験棟、試作品の作成を~」とか「被験者の獲得に~」とかそんな言葉ばかりだった。
「アイリーン?」
アドラーの呼びかけに、愛里はピタリと動きを止めた。
そしてゆっくりとアドラーの方を見た。
「何かしら?」
「あ、いや、わ、私は君に不自由はさせないよ。日本の会社の株式もたくさん保有しているし、ああ、スイスには立派な別荘もあるんだ。山小屋風のね。きっと君も気に入るよ。だから、わ、私とけ、結婚」
「私とクイズをしない?」
「え? クイズ?」
「受けてくれたら結婚してあげるわ」
そう言って愛里は艶やかな笑みを魅せた。
「答えるだけで? 別に正解しなくても?」
「ええ、そうよ。でも正解したら、二人でずっと山小屋で暮らしましょう」
「間違えたら?」
「あなたには、一生電波塔の研究に携われる場所を与えてあげる」
アドラーにすでに冷静な思考は無理だった。コクコクと頷くと、愛里に問題を急かした。
だが、愛里が艶やかな笑みを口に浮かべた時、アドラーの心にある疑問が浮かんだ。
「アイリーン。そもそも君の願いは何なんだい?」
愛里の目に一瞬、影がさした。いや、それは影というにはあまりに深すぎる闇だった。
「願い? 違うわ。これは使命なの。人間達を、その愚かさから解放してあげることは」
その後、責任者のアドラーが突如姿を消したため、プロジェクトは中止となった。バララットを含め、メンバーは解散となった。
助手の野沢愛里の行方は誰も知らない。彼女に気のあったメンバーの一人が解散後、登録されていた彼女の住所を訪れたが、そこは家など一軒もない、ただ草が生い茂っているだけの平地だった。
ただ俯いて、何かブツブツと独り言を言いだした。
聞こえてくるのは「小型化による実験棟、試作品の作成を~」とか「被験者の獲得に~」とかそんな言葉ばかりだった。
「アイリーン?」
アドラーの呼びかけに、愛里はピタリと動きを止めた。
そしてゆっくりとアドラーの方を見た。
「何かしら?」
「あ、いや、わ、私は君に不自由はさせないよ。日本の会社の株式もたくさん保有しているし、ああ、スイスには立派な別荘もあるんだ。山小屋風のね。きっと君も気に入るよ。だから、わ、私とけ、結婚」
「私とクイズをしない?」
「え? クイズ?」
「受けてくれたら結婚してあげるわ」
そう言って愛里は艶やかな笑みを魅せた。
「答えるだけで? 別に正解しなくても?」
「ええ、そうよ。でも正解したら、二人でずっと山小屋で暮らしましょう」
「間違えたら?」
「あなたには、一生電波塔の研究に携われる場所を与えてあげる」
アドラーにすでに冷静な思考は無理だった。コクコクと頷くと、愛里に問題を急かした。
だが、愛里が艶やかな笑みを口に浮かべた時、アドラーの心にある疑問が浮かんだ。
「アイリーン。そもそも君の願いは何なんだい?」
愛里の目に一瞬、影がさした。いや、それは影というにはあまりに深すぎる闇だった。
「願い? 違うわ。これは使命なの。人間達を、その愚かさから解放してあげることは」
その後、責任者のアドラーが突如姿を消したため、プロジェクトは中止となった。バララットを含め、メンバーは解散となった。
助手の野沢愛里の行方は誰も知らない。彼女に気のあったメンバーの一人が解散後、登録されていた彼女の住所を訪れたが、そこは家など一軒もない、ただ草が生い茂っているだけの平地だった。
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